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「古典×現代2020ー時空を超える日本のアート」を見て考える、心の豊かさと顧客の育て方。

1.古典×現代2020ー時空を超える日本のアートについて

国立新美術館で行われている「古典×現代2020ー時空を超える日本のアート」をみてきました。古典作品と現代作家とをペアにし、その作品を対比させたり、組み合わせたり、パロディにしたりしながら、時空を超えたアート同士の対話を繰り広げよう、と企画されたものです。

展示は8部屋に分かれ、それぞれ8組の古典作品と現代作家の作品が一部屋ごとに置かれています。それぞれが見ごたえのある展示です。キャッチーな部分としては葛飾北斎の富嶽三十六景を全てパロディ化したしりあがり寿さんの作品群が目立ちますが、それ以外にも円空と棚田康司氏の仏像と一木造作品の対比、尾形乾山と皆川明氏の作品との調和など、見所は多くあります。現代作家のどの作品も古典へのリスペクトに溢れている、面白い展示でした。個人的な一押しは仏像を効果的なライティングで演出した田根剛氏の作品です。これは、舞台演出に関わる人が悔しがるほどの素晴らしい空間演出だと感じました。

2.目の良さと美しさ

さて、もう少し深く考えてみたいのが、花鳥画と川内倫子氏の写真作品についてです。花鳥画とは花や鳥を題材とし、山水や人物と並ぶ東洋の伝統的な画題です。色彩豊かで、見た瞬間に思わず息を飲むような美しさです。
川内倫子氏の写真作品もまた、ちょっとした日常や自然の美しさを過剰なほどに強調して切り取っている印象を受けます。この花鳥画と写真を見た時に、考えた事をつらつらと書いてみます。

評論家の岡田斗司夫氏が、映画監督の新海誠氏の事を「目が良い」と表現していた事があります。新海誠の映画の風景がなぜあんなにも美しいかというと、一つに新海誠の目がいいからだ、と。新海誠には新宿はあんなふうにキレイに見えていて、それを映画で表現している、という事ですね。

この「目が良い」という表現は面白くて、同じ事が花鳥画の作家や、川内倫子氏にも同じような事が言えるのではないか、と思いました。日常目にするような普通の物や風景の美しさを表現するアーティストは、一般的な人よりも物事を美しく見えている。そして、その美しさを表現する為に、絵や写真という媒体を使っている、という事なのではないか。そして、普通より目が良くて表現に長けた人の作品を見る事で、受け手である我々は「花は美しい」であるとか「自然は素晴らしい」という事をようやく気付けるようになる。どう見れば物は美しく見れるのか、という物の見方をアーティストから教えてもらえることは、アートというものの一つの存在価値なのではないか、と思います。

なんでもない自然や動物が美しく見えるようになると、日々の生活は一変する事になります。ただ道を歩いているだけで、世界はこんなにも素晴らしいのかと気付く事が出来る。よく「アート鑑賞は心の豊かさを育てる」というような事を言いますが、「心の豊かさを育てる」ということは、「物を美しいと思えるトレーニングをする」という事なのかもしれません。

今回の展示で面白かった事は、「他者に物事の美しさを伝える」という機能は、古典であっても現代作家の作品であっても同じなのではないか、という気付きがあった事です。

3.マジックの深い理解者をどのようにつくるか

私が取り組み「マジック」という分野においても、この「鑑賞者を育てる」という事は取り組みとして重要なのではないだろうか、と日々思います。「育てる」と言ってしまうと上から目線になってしまい語弊があるようにも思いますので言い換えると、「鑑賞者にマジックの良さ、面白さを伝える」という事になるのでしょうか。

マジック、という芸能は子供からお年寄りまで、知識がなくとも見れば楽しめるというような印象があります。それは間違っていませんし、鑑賞に知識がいるような芸能に比べると、むしろ競争優位性のある側面であると言えるかもしれません。

しかし、それとは別に、マジックは鑑賞の深度もある芸能である、と私自身は考えています。当然の事ながら私達マジシャンはマジックを通して、観客に楽しんで、喜んでもらいたいと考えています。それでは、観客により深く楽しんでもらうにはどうしたらいいか。それにはやはりマジックの良さをより深く理解し、気付いてもらわねばなりません。

絵師や写真家が、普通の人が花や鳥や風景を見て感じるよりもさらにわかりやすくそれらの美しさを表現するように、マジシャンはマジックの良さを最大限に引き出して表現する必要があります。その為にはマジシャンはマジックを深く理解し、その良さを的確に観客に伝える事こそが、より深いマジックの鑑賞者を育てる一番の方法であろう、という事です。

そう考えるとマジシャンという人種も、他の表現者に負けないように、決して手を抜かず、どこまでも自らの能力と表現を高めていかねばならないのだな、と身の引き締まる思いがしました。



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