体験時間とコンテンツ設計と今後の市場

広告業界でのインスタレーションコンテンツはもっと短くて1分から2分程度のものが多い。前職時代によく話のリファレンスになっていたのはBridgestoneのRUN & STOPだ。

普通のゲームと比べて圧倒的にプレイ時間が短い。いくら面白くても3分で終わるゲームが千円するとちょっと・・・と思うだろう。

ただ、広告としてはこういう設計思想になると当然だ。広告なのでタダ(当然客も無料で体験できる)であり、そして装置として制限はあるがなるべく多くの人に体験してポジティブなイメージをブランドに持って欲しい。そのため1人あたりの体験時間が短く設計され、回転率が重要視される

また、チュートリアルも体験に関係ない場合が多いので可能な限り削る。そのために見てすぐ、なるべく多くの人が遊び方が判るデザインである必要がある。会社ではよく『2秒ルール』といって見て2秒で遊び方が判らないとキツイ、という話をしていた。

1. 体験時間は短く(沢山の人数がプレイできるように)
2. チュートリアルも短く(沢山の人数がプレイできるように)
3. 判りやすいルールで(様々な人がプレイできるように)

当時はあまり言語化しなかったが、今まとめるとこれが体験コンテンツの設計ルールになっていた。

元を辿れば前職(ワントゥーテン)やAID-DCC、その他コンテンツ会社の多くはウェブ制作から出発している。ウェブの頃から面白いコンテンツやカジュアルゲームを大量に作ってきていた。非常にゲームに近いが、面白ければゲームじゃなくても良い、という広告計のウェブ制作会社だった。

広告という分野は兎に角コミュニケーションにコストを割く。伝わるのか、伝えるのか、どんな伝え方をすればよいのか。コンテンツの落としどころはウェブなのかイベントなのかSNSなのかTV CMなのかYoutubeなのか。実際には違うパターンもあるが、根本的にメディアおよびコンテンツのフォーマットは後付けなのだ。

ウェブが今までのメディアと大きく違っていたのはインタラクティブであることだ。その効果は様々で、自分事化できたり、ユーザがコンテンツを逆に拡張したり(そう考えると批評とインタラクティブは似ているのかもしれない・・・と閃いたがこれを書くと脱線しまくるので無視する)。

会社での頃のリファレンスに上がっていたのはSANYOのイヤミの「シェー」シューティングゲームだ。

もうプレイできないがまさしく上記のルールをしっかりと守って制作し、ヒットしたコンテンツだった。プロモーションなのに2ちゃんねるに攻略スレッドがずーっと立ってみんなで攻略していたらしい。

当時はPCでしかウェブは視聴できなかったため、ことウェブに関して言うと『ベタなシューティングゲーム』というのはルール説明の必要のないもの、と言う扱いだった。

また、当時、この頃から居る人に良く言い聞かされた。

自分たちはゲーム業界のプログラマに対してコンプレックスがある。あちらはソフトウェアでのエンターテイメントにおいては一流だ。工数も違うので同じ土台に並べられたら勝てない。我々はもっと別の手段を絡めて勝負しないといけない。

カジュアルゲームからカジュアルスポーツへ

ワンテンのような業界はFlashがスマートフォンから締め出されるのと前後して、自分達のコンテンツをブラウザの外へと持っていくことを試み始めた。それが上記のRUN & STOPなどのモーターショーなどのイベントに設置される、ゲームとも広告ともサイネージとも言えない、むしろその全てを満たすようなコンテンツを開発していく。

その過程でハードウェア、取り分けセンサ類を研究ししていく。そしてセンサを使った新たなインターフェースの設計しコンテンツに実装していった(顔認識で遊べるコンテンツなど)。

何故インターフェースか。理由は明確で空間やユーザの挙動を把握してコンテンツと連動させることはうまく設計すればゲームコントローラよりもずっと直感的なインターフェースになりうるからだ。しかもゲーム会社はコントローラはプラットフォーマから提供されるものであり、それほどコンテンツと組み合わせた面白いものが出ていないようにみえた。業界から見ると新たな企画が作れるブルーオーシャンに見えたのだ。

例えばインターフェースの面白さでよく例にするのがレースゲームだ。レースゲームを普通にハンドル型コントローラで遊ぶ。まぁ普通にソフトが楽しければ楽しいだろう。車のシミュレータのような感想を持つかもしれない。

突然ハンドルとブレーキとアクセルのサイズが3倍になったらどうだろう。一抱えもあるハンドルを持ちながらアクセルとブレーキは踏めない。当然別の人と触ることになる。つまり運転がチームプレイになるのだ。もうこれだけで充分面白い(ゲームの意図する連続してプレイして上達する面白さとは違うので、そこは注意してほしい)。

理屈としてはインタラクティブプロジェクションマッピングも全く同じで、あそこでプレイされているコンテンツは『マルチタッチに対応したタブレットでいい感じのエフェクトが出る100円のアプリ』と全く変わらない。違うのはインターフェースだ。手のひらよりもちょっと大きいくらいのタブレットではなく、3mを超す床面プロジェクション。そして指の一本一本が人となる、マルチタッチならぬマルチパーソンコンテンツ。ハードウェアを触りだしてこの業界はインターフェースの開発に集中していた。

ハードウェアに強くなったおかげで、ルールのベースがカジュアルゲームからカジュアルスポーツの分野に移ってコンテンツを開発するのもそれほど苦労はなかった(勿論今でも続く技術的な問題やビジネス的な問題はあるが、一旦細かい話は置いておく)。

大阪にあるVSPARKに設置されているコンテンツは結構な数ワントゥーテンおよびワントゥーテンが所属するような業界の人たちが作っており、連日賑わっている。世界中ですでにこのコンテンツは設置し始められており、そのうち立派な1ジャンルとなっていくのかもしれない。

体験型コンテンツからVRコンテンツへ

カジュアルスポーツの流れの直前にVRコンテンツへの流れもあった。VRは酔いやHMDの装着性の悪さから体験時間が短いほうが妥当だった。また、上記の体験型コンテンツ研究の中で当然VRなども研究していたため、VRコンテンツはゲーム業界よりも先に広告分野などでこの業界がコンテンツを制作・発表するようになっていった。

しかしVR機材は非常にハイコンテクストというか、高機能だ。スマートフォンの普及がなければとても今のような値段、サイズで手に入れることができない代物だ。カスタマイズも簡単には難しい。

なのでVR業界はインターフェース(ハード)開発の会社とソフト開発の会社に別れてしまった。こうなると通常のゲームと変わらないのでゲーム業界が参入してくる。Steam(HTCと協同してVIVEを発売)、PSVRなどゲーム業界を拡張するような形になってしまった。

一部頑張ってる会社もあるかもしれないが基本コンテンツ=ソフトウェアのみのクォリティで勝敗を決めるようになってしまったこの業界でゲーム開発会社と戦うのは厳しいのではないだろうか。

FacebookおよびRiftはゲームとはまた違う未来を考えているので、そこは付き合っていく意味はあるかもしれない。

体感型コンテンツからIoTデバイス、体験ドリブンの新プロダクト開発へ

センサとアプリケーション開発ができるのでこういった分野へのとっかかりもできてた。

ただしこの分野はかなり開発規模が大きいのでこの分野で『制作』をするのは結構覚悟とフォーカシングが必要になる。

最も、制作をしなくてもバリューを出せるところはいくつかある。それがプロトタイピングと技術翻訳だ。

プロトタイピングについてはいっぱい書いた記憶があるので過去のnoteを見てもらうとして技術翻訳だ。デザイン思考的なのが流行っているとはいえ、この分野は結局プロジェクト自体の実行や技術から体験へのボトムアップ的デザイン改善についてはメソッドやアプローチを未だ持たないように見える。

故にこの業界の制作陣のような体験から逆引きで技術を選定できたり、技術者に体験を翻訳してしゃべれる我々のようなジャンルの人間の活躍できる場所はかなりある(以前サービスデザイン専門会社のサービスデザイナが『話せばテクノロジーの話なんてなんとかなるよ』みたいな話をしてたが絶対嘘だと思う)。

立ち回りとしてはコンサルティングやプロジェクトデザイニング、(あまり言いたくないが)プロジェクト全体のディレクションに薄く入る形が現状理想だ。

我々の強みと今後の流れ

我々の強みは以下の2つだと思っている。実はソフトウェアのスキルは二の次だ。

1. シンプルで面白いコンテンツプランニング
2. 新しく、楽しくて直感的なインターフェースとシステムの開発

なのでカジュアルゲームでもカジュアルなスポーツでも対応できる。逆にシリアスなゲームなシリアスなスポーツは結構厳しいラインだったりする。

また、VRなどもインターフェース開発のハードルが高く(どんどんプラットフォーマが良いインターフェースを開発してしまう)、ソフトで差別化しなければならないのはじり貧になる可能性が高そうだ。Facebookの想像している未来はイマイチはっきりしないが、あそこに必要な技術や日常になりうるコンテンツが作れるなら生き残る道もありそうに思う。

体験ドリブンのサービス開発はかなり案件による。サービス視点で言うとテクノロジーの出番がないことも多いからだ。しかもそれは最初から判るわけではなく、ある程度詰めてから判明する。なのでコンサルティング的に入っていけることが重要だ。



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