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プロトタイピングについて #2 種類と役割

プロトタイピングのメリット/デメリットが判ったところで、プロトタイプ自体を少し分類して深掘りしていきます。
プロトタイプはその目的によって大きく2つに分かれます。
『体験のためのプロトタイプ』と『実現のためのプロトタイプ』です。

体験のためのプロトタイプ

サービス / プロダクトで何を作れば良いのか、どのような体験になるのかを見極めるための試作。これが『体験のためのプロトタイプ』になります。優先するのは『全体の体験』と『制作スピード』です。とにかく素早く形にして体験し、フィードバックして変更を加えるため、正しく、お行儀良く作る必要はありません。そのため、『ダーティ・モック』などと呼ばれます。また、この中にも大きく二種類の試作があります。

1. 映像試作(ムービー・プロトタイプ)

写真、映像など主観的に体験できるものではなく、『間接的に』体験できるものを作るのが映像試作です。撮影した映像にCGを乗せたり、写真に手書きでモノを足したり、パラパラ漫画を描いたりして、客観的に体験可能なものにします。映像試作に制作予算を大幅につけると、製品のコンセプトムービーなどに近くなっていきます。

2. 体験試作(エクスペリメンタル・プロトタイプ)

映像試作と異なり、主観的に体験可能なものを制作するのが体験試作です。
ただし、こちらも映像試作と同様、『ちゃんとモノを作る』必要はありません。
『何かを自動認識する』みたいな内容が入っていても一旦それはおいておいて、『自動認識したように動く』ように作ります。
少し分かりづらいと思うので具体例を話します。


例えば笑顔を認識してシャッターを切るiPhoneアプリを作りたい、とします。
ただし、まだ開発を始めていないので、笑顔を認識するシステムは当然社内にはありません。むしろそれを作る価値があるかどうかを検証するために体験試作を制作する必要があります。
この場合の体験試作で必要なものは以下になります。

・体験者
・オペレータ
・iPhone
・『スマイルを認識した』と判るSE(カメラの『ピピッ』という音)
・SEを再生する機械(こちらもiPhoneなどで良いでしょう)

オペレータはiPhoneのカメラアプリを起動させ、体験者に『笑ってください』と指示を出します。体験者が笑ったのを確認したら『スマイルを認識した』と判るSEを再生し、iPhoneのシャッターを切ります。これで簡単な体験試作は出来上がりです。『人間をシステムの一部として利用する』『体験者の行動を内容やタイミングを指示する』などの非技術的なアプローチを混ぜることによってコストは非常に低減できます。体験者を演者とした、作りたいサービスを体験するための演劇の小道具を用意する感覚に近いと思います。

UX系でよく行われているペーパー・プロトタイピングもこれに相当します。
ただし、外観が含まれる製品など、ペーパー・プロトタイピングだけでは不十分な場合も多いため、手法に拘らずざっくりと体験試作という項目で括っています。

実現のためのプロトタイプ

映像試作や体験試作などを行ない、『これ良いね!』となった場合、実際どうやって作るのか、どのような技術やアプローチで体験を実現するのか。その技術やスペックを詳しく検証していくことになります。この際もプロトタイピングを行うことで『体験を最大限担保する技術や機能の選定/検証』が可能になります。

1. 外観試作(コールド・プロトタイプ)

その名の通り、想定している外観を試作します。『想定した外観寸法を実際に手にした場合、どのように感じるのか(体験するのか)』『利用を想定している空間での馴染みはどう感じるのか(体験するのか)』を見ていきます。
アプリの外観や製品想定の遷移図などもここにいれてもよいでしょう。

2. 技術試作(テクニカル・プロトタイプ)

製品化に当たって採用予定の技術を実装し、試作します。
原理試作、機構試作とも呼ばれたりします。
場合にもよりますが、大規模なシステムの場合、技術試作は『1機能』に絞って試作する場合が多いです。
例えば、『採用予定のサーバのレスポンスを確認するため、空のメッセージを送ったら返すだけのモックを作って時間を測る』などは技術試作に分類されます。
『意外と大きい』とか『意外と作動音が静か』とか『思ったよりレスポンス悪い』『想定より精度が出ない』など、実現のための課題と体験した時の感想を主軸に評価基準を構築していきます。
上で説明した外観試作も技術試作やりたい事は『採用予定のスペック/機能を実際に体験して検証する』という点においては一緒なのですが、外観試作のスキルはデザイナのほうが持っている場合が多いため、分類を分けています。

3. 総合技術試作

作りたい製品/サービスにおいて必要な技術試作を全て集めたものです。
エンジニアやメーカのエンジニアが『試作』と言われて想定するのは2.の技術試作、もしくは3.の総合技術試作です。『小型化は置いておいて一旦全部の機能を作る』といった場合はこの総合技術試作を指すことになります。

4. 最終体験試作(ホット・モック)

外観試作と総合技術試作を足したものが最終体験試作となります。
コストなどはさておき、体験的/要素的には製品に必要なものが全てが入っている試作になります。BtoCの製品の場合、このレベルまでくれば一般的なユーザテストなども行えるでしょう。

5. 量産試作

最終体験試作を量産する/スケールさせる過程で作られる試作になります。こちらもある種技術試作ではあるのですが、制作コストやさらに細かな安全性評価、バッテリの持ちの改善方法など、サービスの体験という軸ではなく、スケーリング/量産/品質の均一化/安定化が評価軸のメインとなるため、別の名称にしています。

次回はこれら5つの試作が実際のサービス/製品開発においてどのタイミングで作られるのかを説明していきます。

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