コロナ問題の第一人者!? 清義明氏に訊く 2020.05.07(その1)

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 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 外山は4月1日に闘争宣言(コレコレ。同12日に改めて考えをまとめたものはコレ)を発して以降、〝自粛粉砕〟の果敢な闘争を展開してきた。その大きな山場をなした5月1日〜6日の東京・高円寺駅南口広場における〝独り酒闘争〟を終えた翌日、90年前後の反管理教育運動時代の同志で、もちろん『全共闘以後』にも別名で何度も登場する沢村真司(仮名)宅で、実は外山と沢村に〝コロナ恐るるに足らず〟と判断させるに至らせた、コロナ問題に関する秀逸なツイートなどをこのかん次々と繰り出してきた、『サッカーと愛国』(イーストプレス・2016年)などで知られるジャーナリスト・清義明氏にさらに教えを乞うた。
 前記のとおりインタビューは2020年5月7日、東京某所の沢村宅でおこなわれた。

 現在進行形の問題であるし、無料部分の割合を通常よりだいぶ増やしてお届けする。
 第1部は原稿用紙換算26枚分、うち冒頭14枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)にはその14枚分も含む。

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 東浩紀氏との対談がついに実現!

 ゲンロンカフェでの東浩紀との対談(この座談会の3日後の5月10日)決定、おめでとうございます! ついに……。

外山 清さんの計画が……。

 〝真ん中〟を全部スッ飛ばしてね(笑)。

外山 東浩紀は〝ラスボス〟のはずだったのに。

沢村 白井聡との(ゲンロンカフェでの)対談はいつだったっけ?

 2年ぐらい前ですよ。

外山 うん、『全共闘以後』の刊行直後だったから、一昨年の秋だな(2018年11月26日)。

 それもココで話が始まったんです。

外山 そうだった! 何かいいプロモーションの手段はないかと3人で謀略を練ってるうちに、清さんが「ゲンロンカフェに企画を持ち込もう」と云い出したんだった(〝十番勝負〟と称して2、3ヶ月おきに若手のメジャー論壇人と次々に対談していき、最終回でついに東氏と相まみえる、という妄想を膨らませた。2018年11月26日、『永続敗戦論』で一躍メジャー化した白井聡氏を迎えての第1弾がまんまと首尾よくおこなわれたが、その直後、諸事情でゲンロンカフェでのあらゆるイベント予定がいったん白紙となって、謀略は座礁した)。

 ゲンロンから毎月送られてくるやつは、外山さんのところにも届いてます?

外山 メルマガみたいな?(紙でも出て書店に並ぶ『ゲンロン』本誌とは別の、基本的にはweb版のみの『ゲンロンβ』のこと)

 そうそう。

外山 白井聡とのイベント以降、届くようになりました。

 じゃあ最新号の、東さんの〝壮大な愚痴〟みたいな文章(4月20日発行の『ゲンロンβ』第48号に掲載された「観光客の哲学の余白に 第20回 コロナ・イデオロギーのなかのゲンロン」)も読んでるんですね?

外山 読んだはずだけど忘れちゃったな。対談本番までに読み返しておこう。

沢村 面白いの?

 面白いっていうか……完全に〝愚痴〟だった(笑)。

沢村 何に対する愚痴? またゲンロンのスタッフに対する愚痴なのか、それとも〝日本社会〟に対する……。

 社会への愚痴ですね。つまり〝自粛〟ムードに対する愚痴を綿々と……。


 喘息持ちは伝染病パニックに動じない?

 そういうものを読んだ直後に、今度は浅羽通明が、外山さんや小林よしのりがコロナに少しも動じないのは、浅羽さん自身も含めて3人とも喘息持ちで、つまりある種の〝肺病〟みたいなもので死にかけた経験を持ってるからで、そういう経験があるから逆に〝死〟を抽象的に恐れたりしないんだ、というようなことを書いてるのを読んで、なるほどなあと思いました。

外山 ぼくは全然ピンと来なかったなあ。

 あら、そうですか。

沢村 清さんは喘息ではないんでしょ?

 喘息ではないけど、何度も書いてるとおり、1968年の香港風邪で死にかけたんですよ、幼少時に。だから〝インフルエンザは怖い〟ということは物心ついた時からインプットされてました。さらには2009年の豚インフルエンザにもいち早く罹患して、とくにそれ以来、インフルエンザとか新型の疫病とかへの恐怖に取り憑かれて、そっち関係の本なんかをいろいろ読むようになってたんです。で、今回の騒動でしょ。ここ10年ぐらい勉強してきたことを踏まえて考えれば、どうやら今回のは大したものではないなと分かります。オレが恐れてたような、とんでもない恐怖のウイルスなんかとは違って、全然オッケーだな、ショボいな、と思ってたわけですよ。
 そしたら東浩紀が小林よしのり・三浦瑠璃との座談会(3月28日)でコロナ・ウイルスを〝雑魚キャラ〟とか云ったら大炎上って展開が起きて……だってオレも〝ショボいウイルスだ!〟と思ってたからさ(笑)。〝普通のインフルエンザ〟なみでしょう、ってオレも思ってたもん。なのに「〝普通のインフルエンザ〟とは違うんだよ!」とか騒ぎ始める一般人に対して、オレは、「お前らは〝新型インフルエンザ〟ってものを知らないだけだろ!」と呆れました。
 毎年やってくる〝季節性インフルエンザ〟とは違って、何十年かおきに流行る〝新型インフルエンザ〟というものがあって、そっちはそれなりに強力だから、流行るたびに多くの人がビビってたんです。とくに疫学なんかの学者たちはビビってた。そういうことをお前ら一般人は知らずにワーワー云ってるだろ、って。オレはそういうものをさんざん読んできた上で……。

沢村 1968年の香港風邪って、オレはまだ生まれてないけど、清さんは何歳だったんですか?

 ぼくは1歳。

沢村 そんなの記憶にあるんですか?

 ないない。

外山 「ほんとに大変だったのよ!」って、親や親戚から繰り返し云い聞かせられながら育ったってことでしょ?

 ウチは貧乏だったし、単なる風邪だろうと思って、病院に連れて行かなかったらしいんですよ。そしたら死にかけたって。……そういう経験があるからオレも自分なりに勉強してきたし、病気や死に対して心構えのできてる人は今回のようなことでパニックにはならないだろうと思ってたから、浅羽さんが書いてた喘息云々の話もストンと落ちた。

外山 ぼくの喘息もそれなりにキツかったけど、〝死にかける〟ほどではなかったもんなあ。

沢村 ちなみにオレも喘息でしたよ、20歳ぐらいまでずっとヒドかった。

 そうなの!?

外山 『全共闘以後』でもちょっと触れたとおり(432ページ)、〝89年〟の同志たちの喘息率が異様に高かったんですよ。3割か4割は喘息だったと思うし、とくに高校生会議(外山・沢村らのいた中高生グループ)の実行委員クラスだと過半数が喘息(笑)。

沢村 イトケン(伊藤健)と森田(里美)と洋一(のちの矢部史郎)ぐらいでしょ、喘息じゃなかったのは。

 やっぱり人間、死に直面したり、死がいつも身近にあったりすると実存主義的になるんじゃないですか?

外山 ぼくらの間にも当然、そういう状況だったから〝喘息論〟は一時流行って、たしかに喘息体験は〝実存主義〟と結びつくというような話ではあるんだけど、〝死が身近にあるから〟とか、浅羽通明が書いたようなニュアンスではなくて、〝世界への敵意を身体化する〟みたいなことを云い合ってた。

沢村 敵意というか、この世界はそもそも不条理なものだという感覚だね。だから安易な理想論なんかには同意できなくなる。

外山 ただ呼吸するだけのことが、ものすごい苦行なんだもん(笑)。もちろん〝不条理〟ということでもあるし、世界が〝この私〟に対してものすごく敵対的なものとして最初からある。大人になってからの喘息ではなくて、小児喘息ですからね。物心ついた時からすでに〝世界〟は〝この私〟にとてもキビしく当たってくる。


 東浩紀氏のコロナ自粛批判

沢村 ……もしかしてオレがそっちに行くまで(台所で調理している)、乾杯を待ってたりします?

 そんなことない(笑)。

外山 いやあ、もう今日はそもそも酒は勘弁だよ。

 〝高円寺宴会〟(5月1日から6日まで、高円寺駅南口広場で連日展開した〝自粛強要圧力粉砕〟の路上宴会闘争)でかなり飲んでたんですか?

外山 それもそうだし、4月26日に福岡を出発して以来だから10日間以上ずっと飲み続けてて、今日こそは休肝日にしよう、と。出発したその夜は北九州市の小倉、翌日から2日連続で大阪、さらに名古屋、静岡と各地で誰かしらと会って飲んで、東京入りしたその日から高円寺宴会を昨夜まで連日……だから今日はもういい(笑)。

 ……ぼくは一方で外山さんのツイッターを読んでたし、そしたら東さんもメルマガで愚痴ってて、この人たちはまた、別々のところで同じようなことを云い始めたなあと思ってオカしかった。時々そういう体験をしますよ、まったく別のシーンにいる人が同じことを云い出すってパターン。そしたらいつのまにか、その2人が対談をやるという話になってて、「おぉーっ」と。

外山 例の〝十番勝負〟の計画がポシャってしまったでしょ。だけどいずれ同席する機会もあるだろうとは思って、それを気長に待つつもりだったんです。なのにいきなり、コロナ問題で同じようなことを云い出したのが分かったから……ぼくが読んだのは、ツイッターで流れてきた『AERA』の時評記事ね。で、じゃあこのタイミングで1度会っておくのが一番でしょうってことで、こっちからゲンロンカフェに打診したんですよ。

 あ、外山さん側からの発案なんだ?

外山 つい5日ぐらい前です。高円寺宴会を始めて3日目ぐらい。東さんにこっちの意向を伝えてみてくださいってメールしたら、その日のうちか翌日ぐらいにすぐ、OKの返事がきた。

 ……メルマガでの東さんの〝愚痴〟というのはつまり、これまでさんざん〝誤配〟とか〝観光〟とかってキーワードを連発して人々の直接的な交流を煽ってきたのに、お前らは〝自粛〟なんかしやがって、ぜんぶ台無しじゃないかっていう(笑)。

外山 なるほど! そういう文脈か……。

 オレが頑張って人々を〝自閉的〟な状況から脱却させようとしてきたのに、社会がこぞって従来以上の〝自閉〟に走るというのは何事だ、と。


 〝新しい生活様式〟がますます若者たちを腑抜けにする

 ……沢村さんもコロナ・ウイルスに関しては〝ノー・ガード戦法〟なんですか?

沢村 うん。

 そもそもマスクって持ってます?

沢村 一応は持ってるよ。だけど人目を気にしなきゃいけない時のために持ってるだけで、ウイルスのことは何も心配してないからね。ぼくは〝補償なんか要らないから自粛解除しろ〟っていう、〝反自粛〟原理主義者なんだ(笑)。そりゃあ、お金くれるんなら貰うけど、そんなことより1分でも1秒でも早く解除してほしい。……〝新しい生活様式〟なんてことも云われ始めたでしょ。ほんとに〝ファック!〟だよね。文字面を見た瞬間に虫酸が走りましたよ。

外山 具体的にはどういう〝生活様式〟をしろと云ってるの?

沢村 要は家に閉じこもって、仕事なんかでも人と接することは避けて……。

 テレワークで、電車とかに乗らないようにして、ご飯を食べるときは向かい合わずに横並びで……(笑)。

沢村 政府が引きこもりを推奨してるんだよ。

外山 それは〝とりあえずしばらく〟の短期的な話ではなく?

沢村 中長期的な話として、まあ〝ワクチンができるまで〟ってことだね。

 ぼくらはずっと〝デオドラント社会、ふざけんな!〟的なことを云ってきたわけでしょ。それが今回、ますますハイパーなレベルで始まってるんです(笑)。〝デオドラント〟どころじゃないですよ。もはや物理的に〝ディスタンス〟をとろうとか云い出した。

沢村 仮に〝ワクチンができるまで〟の1、2年間のつもりで提唱してるんだとしても、そんな生活スタイルで1、2年も過ごしてしまったら、もう元の感覚には戻れないよ。

 ただでさえ日本人ってやつはデオドラント傾向が著しくてどうしようもないなと思ってたのに……。

沢村 こんなことしてたら、楽天以外の商店街は全部シャッター街になっちゃうじゃん。

 とはいえ世界の人間というのは、ぼく自身も含めてですけど、9割9分はバカなので、やがては元の生活様式に戻ると思いますよ。こんなことをやってられるのは半年ぐらいでしょう。

沢村 いや、これまでの生活スタイルに長くなじんでたオジサン連中は戻ると思いますけど、若い連中は戻らないと思う。

 〝新しい生活様式〟に慣れて、そのまま大人になっていく、と?

沢村 今、大学1、2年生ぐらいから下の世代はね。ほんとにあいつら、ゲームしかしないんだもん。もともとそうだったんだから、ますますその傾向を深めると思うよ。

外山 現時点ですでに、感染リスクが高いはずの老人たちがむしろ外に出続けていて、若い奴ほどコロナを怖がって引きこもってるもんね。

沢村 今でも外に出てる若い奴なんか、アグレッシブに金を稼ごうっていう、パパ活の女の子たちだけですよ。渋谷に行っても若い奴なんかまったく歩いてない。〝新しい生活様式〟なんてものを提唱されて、誰も反対しないのが不思議でしょうがない。


 疫学の専門家たちには何の落ち度もない

外山 まあ半年か1年もすれば、今回のウイルスなんて全然、まったく騒ぐほどのものではなかったことが明らかになると思うんだけど、さっき清さんも云ってたように、もっと強力なウイルスがそのうち流行り始めることもあるだろうし、そしたらまた今回みたいなことになるよね?

沢村 そういう事態に備えましょうってことで、予算が拡充されたり、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)だか何だか、そういうのが日本にも作られるのかもしれないし……。

 まさにその〝備えましょう〟ってことをずっとやってたのが韓国と台湾で、だから今回も成功してるわけですよ。彼らはSARSやMERSの時に国内が混乱してヒドい目に遭ったからさ。でも……疫学の世界でよく云われることなんですけど、そもそも伝染病ってのは避けようのないもので、専門家がいろいろ講じてる対策というのも、洪水が起きないように堤防を高くしてるのと同じようなことにすぎないんだ、と。

外山 それなりの効果はあるけど、いくら堤防を高くしてもそれを超えてくる大災害もいつか必ず起きるよね。

 それに堤防を高くすると川底に泥が貯まるわけです。それで水深が浅くなる。だから堤防をさらに高くする。それで高くなった堤防が決壊して起きる洪水というのは、とんでもない規模の洪水ですよ。そういうことを〝対策〟と称して専門家たちは繰り返してるだけで、「さすがに虚しくないか?」っていうのが疫学者たちの世界ではコンセンサスになってる。むしろ疫学者たちは一般的に、「ウイルスと共存する方向に対策を転換することができないか?」と発想するようになってるんですね。PCR検査で感染者をすべて検知して云々なんて発想は、そもそも疫学者たちにはないんです。

沢村 その場合の〝共存〟というのは、具体的にはどうすることなの?

 免疫の獲得ですよ。

沢村 まあ、そうか。

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