反共ファシストによるマルクス主義入門・その22

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

  〈ロシア革命史篇〉その9

  「その21」から続く〉
  〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 2014年夏から毎年、学生の長期休暇に合わせて福岡で開催している10日間合宿(初期は1週間合宿)のためのテキストとして2016年夏に執筆し、紙版『人民の敵』第23号から第26号にかけて掲載したものである。
 ともかく、これさえ読んでおけば(古典的)マルクス主義については大体のことは押さえられるという、我ながら良い入門書ではある。

 性質上、他人の本からの引用部分も多いのだが、面倒なのでそういった部分も含めて、これまでどおり機械的に「400字詰め原稿用紙1枚分10円」で料金設定する。とにかく“これだけで大抵のことは分かる”素晴らしい内容なんだから、許せ。なお引用部分の太字は、原文がそうなっているのではなく外山の処理である。
 第13部までが“マルクス主義入門”の“本編”で、第14部からは“おまけ”的な“ロシア革命史篇”で、つまり“レーニン主義”の解説となる。
 第13部までエドワルド・リウスの『フォー・ビギナーズ マルクス』に、第14部からは松田道雄『世界の歴史22 ロシアの革命』に、主に依拠している。

 第22部は原稿用紙16枚分、うち冒頭4枚分は無料でも読める。ただし料金設定にはその4枚分も含む。

     ※     ※     ※

   29.社会主義リアリズム

 ソ連社会は文化的にも不毛な社会だったとされる。

 「ドフトエフスキーからストラヴィンスキーまで(略)革命以前のロシアは、経済的・政治的には後進国だったとしても、文化的には旺盛な生産力を誇っていた」(笠井『ユートピアの冒険』)にもかかわらず、革命国家・ソ連では、ポップな大衆文化も、あるいは先鋭的な前衛芸術も産み出されることはなく、「ようするに、ソ連に文化は存在しない。あるのはただ、文化が存在しないような体制を告発する文化のみであり、ソルジェニーツィン文学を代表として、それらは西側文化に大きな衝撃をもたらした」(同)のである。

 とはいえ、革命直後の一時期には、ソ連はむしろ前衛芸術運動の一大拠点の様相を呈していた。

 09年にイタリアで誕生し20世紀の前衛芸術運動の起点となった「未来派」に連なる詩人マヤコフスキー(1893〜1930)は、同時にかなり初期からのボルシェヴィキ活動家で、革命後の23年には「芸術左翼戦線(レフ)」を組織し、初期ソ連における前衛芸術運動=“ロシア・アヴァンギャルド”を主導した。レフの参加者には、演劇人のメイエルホリド(1874〜1940)や、後に『ドクトル・ジバゴ』を書きノーベル文学賞も授与される(当局の圧力により辞退)作家のパステルナーク(1890〜1960)、“ロシア・フォルマリズム(形式主義)”の中心人物である文芸批評家のシクロフスキー(1893〜1984)、“ロシア構成主義”の代表的な画家ロトチェンコ(1891〜1956)、“モンタージュ”の技法を確立した映画監督のエイゼンシュタインらがいた。

 前衛芸術を含む諸芸術に理解を示し、芸術論の著述も多いトロツキーは、20年代半ばに隆盛したシュールレアリスムの芸術運動において偶像化された。

 一九二八年までは、まだ作家は自由にかけた。エーレンブルクもA・トルストイも亡命から帰ってきた。映画ではエイゼンシュタインは「戦艦ポチョムキン」をつくったし、プドフキンは「母」や「アジアの嵐」をつくった。演劇ではメイエルホルドやダンチェンコが新しい世界を切り開いていた。音楽ではショスタコーヴィッチがその天才をみせた。プロコフィエフは亡命から帰ってきた。
 一九二八年から雰囲気はかわりはじめた。(略)マヤコーフスキーがこの年に自殺した。ピリニヤークは処罰され、ザミャーチンは亡命した。
 一九三二年になると党の作家にたいする関心はさらに強化された。文学は人民にたいしてイデオロギーの指導をしなければならないことになった。(略)党の方針としての「社会主義リアリズム」というスローガンが決定された。そして一九二八年に亡命から帰ってきたゴーリキーの作品が、その実物見本であるということになった。
 (松田『ロシアの革命』)

 マヤコフスキーの死が自殺であったか謀殺であったかは今なお不明である。ピリニャーク(1894〜1938)はロシア・アヴァンギャルドの代表的な作家の1人で、頻繁に外国を訪問してもいたが、最後には「日本のスパイ」とされ銃殺刑となった。ザミャーチン(1884〜1937)は、スターリン主義的な抑圧体制の完成を予感して20年頃から書かれ、27年に国外で刊行されたディストピア(反ユートピア)小説『われら』で名高い。メイエルホルドもスターリン体制下で処刑された文化人の1人である。

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