『良いテロリストのための教科書』刊行記念トークライブ(2017.9.13)(その2)

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 「その1」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 2017年9月に上梓した『良いテロリストのための教科書』(青林堂!)の〝刊行記念トークライブ〟の模様である。2017年9月13日に東京・高円寺のイベント・スペース「パンディット」で開催されなお本が店頭に並び始めたのは、一部フライング店を除いて9月11日で、つまり発売翌々日の販促イベントである)、この全文テキスト起こしは紙版『人民の敵』第35号および第43号に掲載された。
 〝司会〟的な役目を〝反体制おもしろ知識人〟を標榜する中川文人氏が務めており、観客として来場していた〝ヘイト・アーティスト〟の佐藤悟志氏も半ば〝ゲスト〟的に発言を強要(?)されている。

 第2部は原稿用紙24枚分、うち冒頭8枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)にはその8枚分も含む。

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 新左翼運動史の入門書がない

中川 では次の方。

観客3 本を読んですごく勉強になったというか、立花隆さんの『中核vs革マル』を読んでも、新左翼がなぜ……(よく聴き取れず)。

中川 何か、〝ここはちょっと足りないんじゃないか〟とか、文句はありませんか?(笑)

観客3 そうですね、華青闘告発の話は前から絓(秀実)さんとかの本で読んで、ある程度は知ってましたが……(やはりよく聴き取れず)。

外山 大道寺さん(大道寺将司。東アジア反日武装戦線の中心的活動家)も今年、亡くなっちゃいましたしね(75年に逮捕され、87年に死刑確定。5月24日に獄死)。とにかく日本の68年の運動、いわゆる全共闘運動について分かりやすく解説した本って、ないんですよ。立花隆の『中核vs革マル』は表題どおり、とにかくもう〝中核vs革マル〟に焦点を当てた書き方になっていて……。

中川 76年ぐらいの本だよね。

外山 75年の本。だからもちろん60年代末の話も書かれてるんだけど、あくまでも〝中核vs革マル〟の内ゲバがどう始まって、どう推移してきたかを軸に書かれた〝歴史書〟だから、全共闘の盛り上がりとかは〝背景〟にすぎなくて、例えば全共闘というのはそもそもどういう運動だったのか、というような話はほとんど出てこないわけですよ。個別の大学での闘争についての、当事者による回想記みたいな本はいっぱい出てるんだけど、全体を見渡した、〝つまり全共闘とはこういう運動だった〟という総合的・網羅的な本は、やっと7、8年前に小熊英二という人の『1968』(新曜社・09年)というのが出たぐらいでさ。
 でも小熊英二の本は〝全共闘批判〟の本なんで、〝全共闘はこんなにくだらなかった〟という視点からの解説なんだ(笑)。しかも文章自体は読みやすいんだけど、超ブ厚い上下2巻で、計1万数千円の本(笑)。とにかく〝全共闘〟とか〝68年〟を解説したコンパクトな本が、実はないんです。唯一の例外が絓さんの『1968年』だけど、絓さんの本というのがこれまた超難解なんだよね(笑)。絓さんが書くものは、読者にものすごい量の前提知識を要求するんで、そういう意味でも今回のぼくの本は画期的だと思う。

中川 私が学生の時に、『全学連と全共闘』(講談社現代新書・85年)って新書がありましたよ。朝日新聞のジャーナリストか何かが書いた……。

外山 高木正幸ですね。あれは〝事項〟が列記されてるだけじゃないですか。〝教科書〟的に読んで……〝味気ない〟という意味で〝教科書的〟ということですけど(笑)、とりあえず出来事を丸暗記して全体の流れをざっと掴むには、あの本はちょうどいいかもしれません。ただ、それらの出来事にどういう意味があったのかとか、あるいは脈絡とか、そういうのはあの本ではまったく分からないでしょう。


 某NPO問題は解説が難しい

中川 ……しかし今、3名の方にお話を伺いましたけど、読者の読みが深いねえ(笑)。

外山 そう、外山恒一の読者はレベルが高いんです(笑)。

中川 では、次の読み込みが深い方、どうぞ。

外山 開演に遅れて来た方もいらっしゃいますが、今、すでに読んだ方々に感想など聞いてます。

中川 読んだ方に、良かったこと、悪かったことを(笑)。

観客4 えーっと……一応、昨日の夜、徹夜で全部読みました。

中川 みんな熱心だよなあ(笑)。

観客4 昨日、新宿で、買ったばかりの本を持って、街宣中の外山さんに手を振ったうちの1人です。

外山 紀伊国屋ではなく模索舎で買ったんですか?

観客4 そうです。

中川 正しい人だ(笑)。

外山 うん、なんか模索舎の方角から歩いてきたような気がするな、とは思ってました。

観客4 外山さんのお話は何度か聞きに来てるんですが、ちゃんと質問するのは初めてなので、よろしくお願いします。……とにかく類書がまずないような本を出されたと思っていまして、〝愛国者〟どころか、運動を中心とした日本思想史の像を提出するためには、研究者たちは少なくともこの本をまず超えなきゃいけない。

外山 東浩紀とかがまず読むべきだよね(笑)。

観客4 今後の基本となる本、という意味で画期的だと思います。とくに70年半ば以降、00年あたりまでの15年、20年の運動について俯瞰して描いてる本は他にない、ということで大変興味深く読みました。……で、2点、関心のある事柄について訊きたいと思うのですが、1点はすごく細かい話です。この本の中で、〝あえて〟なのか、現在の左翼に結びつく流れをさまざま述べている中で欠けている重要な潮流というのが1つありまして、それは「P」という頭文字のNPO団体です。

外山 ああ……。

中川 何の話?

外山 (中川氏に耳打ち)

観客4 その潮流について、どのように考えていますか? そこは現実の運動は地道にわりと誠実にやっていますし、出版部門も持っていて、人文思想系のアカデミズムに対して潜在的に非常に大きい影響力を今後、持ち得るだろうと思われます。

中川 なるほど、1点目は〝ポッセ〟問題ね。

観客4 えっ、まあ……そうです(笑)。

中川 まあまあ、大丈夫ですよ。テレビ中継はやってないから(笑)。

観客4 もう1点は、これは全体を通しての感想なんですが、ぼくは左翼、どちらかというとカタカナの〝サヨク〟的な人生を生きてきた人間です。これからもし、外山さんの掲げる〝ファシズム〟とは違う、左翼の可能性が何かあるとすれば、外山さんの本を読んで思うに、〝自覚的なスターリニズム〟なら左翼も延命が可能なんじゃないか、と。〝スターリニズム〟の可能性についてどう思うか、お聞かせください。

外山 えー、まず前半の〝P〟の問題ですけど……(笑)。本当は触れなきゃいけない問題だし、メチャクチャ重要な、たぶん今の運動シーンに関連する中で一番重要な問題だと云ってもいいぐらいの大問題だと思ってますけど(本号[紙版『人民の敵』第35号]併載の絓秀実氏との対談[すでに公開した「2017年9月12日の対談」のこと]参照)、そこはおっしゃるとおり、〝あえて〟触れませんでした[のち『全共闘以後』第6章第5節を丸ごと「POSSE」と標題して解説した]。
 1つにはまず、一見マイナーにすぎる問題なんです。単純に、全体の流れの中に組み込むには唐突すぎて、触れにくい。触れるとすれば、ちゃんと分量を使って本格的に触れなきゃ、何の予備知識もない人にはまったく意味不明なものになってしまう。中途半端に触れると恐ろしい問題でもありますしね。ただ、半年おきにやってる例の〝現役学生限定〟の〝教養強化合宿〟では、この問題について半日ぐらいかけて、みっちり教え込んでます(笑)。〝半日〟というか、この問題を理解してもらうためにも、まずマルクス主義についておおよそ理解してもらって、〝中核vs革マル〟を軸に新左翼運動史をおおよそ頭に入れてもらって、その後にやっと、この問題について半日かけて講義するんです。つまりそれぐらいの前提知識がないと理解してもらえない問題で、〝内ゲバ〟についてはざっとしか触れてない今回の本なんかに組み込むのは無理でしょう。
 それなりの〝活動家〟の中でも、この問題の存在に気づいてる人はほとんどいませんからね。ぼくも最初に絓さんからこの話を聞かされた時は、半信半疑でした。〝半信半疑〟というより、ほぼ絓さんの妄想だと思った(笑)。ところが気になって自分なりに調べてみたら、ほんとに絓さんの云うとおりのことが起きてて、震え上がりましたよ。


 〝スターリン主義〟の可能性?

外山 ……で、もう1つの質問は何だっけ?

中川 スターリニズムについて。

外山 そうだった。要は、3択なんですよ。現状肯定か、スターリニズムか、ファシズムか、選択肢はこの3つしかない。他にアナキズムというのもありますが、それは結局、諦めることですからね。

中川 うん、正しい。大人になったなぁ、外山さん!(笑)

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