絓秀実氏との対談(2017年9月12日)・その5

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 「その4」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 世界に出して恥ずかしくないごく数名の日本の知識人の1人である絓秀実氏との対談シリーズである。
 2017年9月12日におこなわれ、紙版『人民の敵』第35号に掲載された。
 話題は例によって多岐にわたる。
 ( )内は紙版『人民の敵』掲載時にもともとあった註、[ ]内は今回入れた註である。
 なお云うまでもなく、対談中で「前の天皇」とか「先帝陛下」とか云ってるのは昭和天皇のこと、「今の天皇」とか「今上帝」とか云ってるのは平成時代の天皇つまり現・上皇のことである。

 以下本文。
 第5部は原稿用紙換算26枚分、うち冒頭8枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその8枚分も含む。

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 皇室はいつからリベラルに?

 ……そういえば鵜飼哲に、〝今上帝がリベラルになったのはいつからだろう?〟って訊かれた。云われてみればたしかに、だいぶ以前はむしろ右派的な発言をしてたような気がする。

外山 天皇になってからですか?

 いや、皇太子時代。天皇になって以降はすっかり左翼ですよ(笑)。……〝結婚〟は1つの転機だとは思うけど、じゃあ美智子さんが陛下を〝オルグ〟したのかというと、少なくともそれ〝だけ〟ではないだろうし、たしかに興味深いテーマですが、いずれにせよ天皇夫妻は今は〝極左〟だよなあ。

外山 柄谷を読み[「その4」参照]、石牟礼道子と親交を深め(紙版『人民の敵』第32号[すでに公開済みの、絓氏との「2017年4月17日の対談」]参照)、天皇制のない〝五日市憲法〟(明治時代に在野の自由民権派が作成した憲法草案の1つ)を絶賛し……。

 大日本帝国憲法を否定したってことだもんね。オレが感心したのは、皇太子時代(75年7月)に沖縄を訪問して、過激派に火炎瓶を投げつけられたっていうのに平然としてたことだよ(絓氏による後註.美智子さんはさすがに後ずさったが、皇太子は泰然としていた)。それはおそらく、沖縄人民の怒りは当然だと考えておられたからでしょう。その怒りを受け止めて、次代の天皇という立場の人間として、この試練に耐えなきゃいけないと思ったんだと思いますよ。殺されても仕方がない、ぐらいの覚悟があったんじゃないか。

外山 反日武装戦線なみの覚悟(笑)。

 こりゃあ新左翼は天皇制に勝てないと思った。実際、火炎瓶を投げた奴は今では天皇主義者になってるらしいんだ。

外山 道庁爆破(76年)の人(大森勝久。死刑囚。ただし一貫して冤罪を主張)もそうでしょ?

 みんな次々と陛下の威光にひれ伏して……(笑)。

外山 藤村君も大喜び(笑)。


 天皇制への賛否

 そもそも共産党は、戦前も戦後も天皇制を〝封建遺制〟だと規定してきたわけですよね。だけど戦後、象徴天皇制のもとに高度成長まで成し遂げられて、そんなもん、〝封建遺制〟であるはずがない。だから新左翼が天皇制を長らく問題にしえなかったのも、半分は仕方がない面もあるんです。
 華青闘告発以前の新左翼は、そもそも1段階革命論(まず〝民主主義革命〟=ブルジョア革命をやってから社会主義革命=プロレタリア革命へと進むという共産党の〝2段階革命論〟に対して、今すぐ社会主義革命を目指すという立場)だし、社会主義革命さえ実現すれば天皇制も自動的に消滅するぐらいに漠然と考えてた程度ですよ。しかしそのぐらいのことでは消滅しないのが天皇制の〝すごさ〟なんだ。

外山 以前から繰り返し云ってるとおり、ぼくは今はもう天皇制には肯定的なスタンスになってて、それでもただ1つ葛藤があるのは、皇族の方々があまりにも不自由で不憫だということぐらいなんです。

 だから廃止すればいい。

外山 しかし廃止してしまうと、ああいう奇跡のように高潔な方々も消滅してしまうわけで……。

 たかだかブルジョア階級の理念型、あるべき理想的な姿を象徴しているにすぎませんよ。そんなものは必要ないでしょう。

外山 皇族にだって多少は〝私〟もあるでしょうが、それを極小化する方向で生まれた時から育て上げられて……。

 非人間的な制度ですよ。

外山 もちろんそうですけど、その結果としてああいう、世間の軽薄な風潮に左右されない、〝極端に常識的〟な感覚を身につけた人が国の頂点に存在することになる。世間がどんなにバカウヨ化しようとも、皇室はああして〝常識的な極左〟でおられる(笑)。

 そういう存在を拒否するのが革命であって……。

外山 それはそうかもしれませんが……。

 そんな都合のいい存在を戴いていては、革命なんて起きません。殺伐とした状況を前提に革命は起きるんだし、天皇制が日本社会の殺伐化を究極的には防いでいる側面があるんだから、やっぱりまず天皇制を廃止しなきゃいけませんよ。天皇制があるから日本はギリギリ保ってるわけで、それがイカンと云ってるんです(笑)。

外山 でも何やかんやで革命勢力の側が勝利しさえすれば、天皇はそれを追認するでしょう。そういう役目なんですから。とくに無害なんだし、べつに天皇制があってもいいんじゃないかなあ。

 無害ではないから問題なんだ(笑)。

外山 だってそれこそ江戸時代のようなあり方であればいいでしょ?

 それが無理だから明治維新が起きたわけです。天皇を担いで〝幕府〟を倒そうという奴が必ず出てくる。

外山 ぼくは江戸幕府的な〝一党独裁〟を目指してるんですから(笑)。〝幕府〟的な体制を築いて、なるべく長持ちさせるだけのことですよ。いつか打倒される時がきたら、それはそれで仕方がないと思うしかない。

 江戸幕府は大統領制とは違うんだし……。

外山 ぼくはファシストなんで、大統領制じゃなくてもかまいません(笑)。

 じゃあ例えばファシズムに近いルイ・ボナパルト的な皇帝=大統領制で考えてもいいけど、それでは納得できずに皇室を押し立てようって奴は必ず出てきますよ。

外山 しょせんは俗世での権力闘争じゃないですか。天皇は結果的に勝った側にお墨付きを与えるだけであって……。打倒されてまた〝明治維新〟になるかもしれないけど、そしたらその新しい〝明治政府〟を倒して〝幕府再興〟を図る過程のやり直しになるだけの話です。

 それは、三島由紀夫的なアナルコ・ファシズムに似ているようにも思いますが、封建制に戻すわけにはいかないし、バカバカしくてもやっぱり代議制民主主義は続けるしかないでしょう。

外山 そこはファシストとしては同意できません(笑)。

 それでも封建制ではなく近代的な政体を擬装せざるをえないよ。選挙をやって、オバちゃんとかトラちゃんとか、選出しなきゃいけない。


 中国にどう対処すべきか

外山 中国のような体制もあります。

 あれは、三島的に言えば左の〝全体主義〟だもん。

外山 だからぼくだって〝一党独裁〟を目指してるファシストなんですって(笑)。

 一党独裁でかつ共和制なんてものはありえない。なにしろ〝言論の自由〟が封殺されるんだからさ。三島の云うように、〝言論の自由〟こそが最低限の条件で……。

外山 それは独裁をやってる〝一党〟の寛容度の問題ですよ。中国共産党は寛容度が低すぎると当然ぼくも思ってます。

 〝寛容な独裁〟があるとして、そういうのを〝ユーロ・コミュニズム〟と云ったんだ。

外山 ええ、だからいつも要は〝社民党一党独裁〟みたいな体制を目指すと云ってるじゃないですか(笑)。

 そういうのは〝独裁〟とは云わないし、あるいは最もそれに近いのは戦後日本の自民党支配でしょう。そしてそんなことが可能だったのも、自民党のバックにアメリカがついてたからにすぎません。それ以上でも以下でもない。

外山 ですから今度は中国にバックについていただいてですね(笑)。

 香港のように、中国と同じような体制を強要されちゃいますよ。

外山 中国共産党と我々ファシスト党とは別の党なんですから、同じ体制にはなりません。

 相手は要は〝コミンテルン〟なんだから、完全な隷属を強いられるに決まってます。

外山 そうならないために他の中国周辺諸国と団結して、中国包囲網で圧力をかけながら面従腹背をやるということです。

 香港みたいになっちゃいますって。

外山 台湾ぐらいならいいでしょう?

 台湾はアメリカがバックについてるから相対的に自立を守っていられる。

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