外山恒一&藤村修の時事放談2018.4.25「〝いい人〟安倍ちゃんは政治家には向いてない」(その6)

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 「その5」から続いて、これで完結〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 FランのJ出版界が粗製濫造するFラン文化人の順列組み合わせ的な対談本の類とは比較にもならん超ハイレベル対談なので意外と……いや当然ながら大人気の、福岡在住の同い年の天皇主義右翼(でもインテリ!)・藤村修氏との〝時事放談〟シリーズである。
 2018年4月25日におこなわれ、紙版『人民の敵』第42号に掲載された。。

 第6部は原稿用紙19枚分、うち冒頭7枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)にはその7枚分も含む。

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 山本太郎は安倍ちゃんを〝ホメ殺し〟しては?

藤村 やっぱりそんなふうにヨイショするほうが、〝アベ政治〟は本当は批判しやすい。政治というのは〝公共〟的なもので、1つの〝共同〟性をただ大きくするだけでは、それは〝公共〟性にはならないんです。そのことを〝アベ政治〟はよく示してる。安倍ちゃんはとっても〝いい人〟で、義侠心に溢れる行動をとればとるほど、〝公共〟にとって害をなしてるわけですよ(笑)。

外山 〝仲間〟の面倒を見すぎてね。

藤村 野党も国会で安倍ちゃんをホメ殺すべきだ。

外山 「良かれと思ってやったことですよね。お気持ちはよく分かります」って。

藤村 山本太郎なんか適任でしょう。「総理ほど義侠心に厚い人はおりません。しかしそれを政治の現場で発揮すると、むしろ国益を損ねるんです」って説教してやればいい(笑)。
 安倍ちゃんは〝ポスト・トゥルース〟の人なんだから、〝島宇宙〟の中に閉じこもってるんだ。そういう人間を島宇宙の外に連れ出さなきゃいけないわけで、そのためにはまずこっちも向こうの島宇宙に潜入する必要がある。だからまずは安倍ちゃんの〝いい人〟ぶりを絶賛してあげたほうが絶対いいよ。
 意外と〝安倍批判〟としては新しい視点かもしれない。〝安倍ちゃんはいい人だ。だから政治には向かない〟っていう(笑)。……しかし絓さんはこういう話はあんまり面白いと思ってくれない気がする。この〝時事放談〟シリーズの初期の回[「しばき隊“闇のキャンディーズ”事件を語る」「“しばき隊リンチ事件”を語る」]が絓さんにウケたのが、すごいプレッシャーですよ(笑)。当時のオレは、絓さんの偉大さがそこまで分かってなかったけど、最近はもう畏れ多くてさ。

外山 いつ頃そうなったの?

藤村 今年に入ってからかな。今度もし絓さんがココに来ることになったら、たぶんオレは前回と態度がだいぶ違うと思う(笑)。最近コツコツと、絓さんの本を入手してますよ。まだ全部は読んでないけど。

外山 昔の本が手に入りにくいんだよね。

藤村 花田清輝の本(『花田清輝 砂のペルソナ』講談社・82年)とか……。

外山 うん。


 小説の〝検閲〟読書会をやりたい

外山 ……ところで、いつもの形式(20〜30ページずつその場で黙読した上で批評し合う形式)で〝小説の読書会〟もやってみない? いとうせいこうの新しい小説が、たぶん内容的には読めば全然賛同できないと予想するんだけど、設定はすごく気になるんだよ(と、『小説禁止令に賛同する』集英社・18年2月の新聞広告を見せる。「ともかく書き終えるまで自分は死ねないと思っております──。獄中で、政府が発布した『小説禁止令』を礼賛する随筆を書く作家。漱石、カフカなど、嘘を真実に思わせる文学のインチキを徹底的に批判するが……」と内容紹介がある)。

藤村 へー、なるほどね。

外山 まあそれなりに〝前衛的〟な設定でしょ。この発想は面白いと思う。

藤村 うん、面白い。

外山 しかしおそらく、実際に読んでみると〝うへーっ〟ってなるんだろうな、とも思う(笑)。しょせんリベラル派だな、って感じの結末に収斂していくんだろうけどさ。切り口はいい。

藤村 いいねえ。……オレなんかどうしても〝保守〟だし、政治の領域には絶対に囲い込まれないものとしての〝文学〟という領域、というふうに発想してしまうんだけど、今やもうその発想は負けていくよね。そうではなく、むしろ政治の側が文学を取り込むことによって強化されていかなければならない。もちろん単なる〝政治主義〟はバカだけどさ。文学の持つ、ある種の責任逃れにも通じるような曖昧な領域というものを排除した上で、文学的な感覚を政治の側が取り込んでいかなきゃいけない状況だと思う。そう考え始めた時に、絓さんの偉大さが……(笑)。
 これまで絓さんの文芸批評の本には全然興味がなかったんだよ。〝政治・思想・芸術〟のトライアングルを、うまく歴史的に跡づけながら捉えていて、読んで非常に勉強になるなあとは感じてたけどね。しかしオレが〝保守〟の文脈でこだわってた〝政治と文学〟みたいな発想は、思想史的には意味があるかもしれんけど、現在の状況と切り結ぶ上ではもはや無効なんだろうなあと思って、これまでとは違う興味が絓さんの本に対して湧いてきた。
 ……その本、面白そうだね。でもいとうせいこうなんでしょ(笑)。〝ただの政治主義〟、あるいは〝すごく甘えた政治主義〟に着地してそうだ。まあ、読んでないのに偏見で云っちゃイカンけどさ。

外山 「決めつけはいかんよ、決めつけは」(「ゴーマニズム宣言」が、坂本弁護士一家失踪をオウムによる拉致と決めつけた上でワザとらしく添えておいた云い訳フレーズ)っていう(笑)。
 ……あと、伊藤計劃の『虐殺器官』(07年・ハヤカワ文庫)も、1章ずつその場で黙読して徹底的に吟味する読書会をやりたいんだ。ものっすごい面白いんだけど、ぼくは気に入らないんだよね。まさに〝9・11以後〟の〝まったく新しい戦争〟を真正面からテーマにしたSFなんだけどさ。最近はもう、日本のSFで〝オールタイム・ベスト〟の人気投票をやれば上位3位とかに入っちゃうぐらい評価の高い作品でもある。できればもう1冊の『ハーモニー』(08年・同)もやりたいんだけど、そっちは〝生権力〟がテーマね。基本的にはその2冊しかなくて、というのもすでに死んでるんだよ。ぼくらより年下(74年生まれ)で、その2冊を書いた後すぐ死んだ(09年)。

藤村 へー。(パラパラめくって)面白そうだけど、オレはSFに関してはほぼ素養ゼロだからなあ。

外山 〝ポストモダン左翼思想小説〟なんで、SFの素養なんかなくても批評的に読めると思う。まさに大澤真幸とかが書いてるようなことを、そのまま巧いことSF的設定に流し込んでエンタテインメント化してある。ただ、いかにも教科書的な理解にすぎない気がして、ぼくはイライラするんだよね。面白いことは面白いけど、これを〝オールタイム・ベスト〟で上位にしちゃうようなSFシーンというのも、要するにバカの集まりなんだろうと思って、そっちも腹が立つ(笑)。

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