『良いテロリストのための教科書』刊行記念トークライブ(2017.9.13)(その3)

 【外山恒一の「note」コンテンツ一覧】

 「その2」から続く〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 2017年9月に上梓した『良いテロリストのための教科書』(青林堂!)の〝刊行記念トークライブ〟の模様である。2017年9月13日に東京・高円寺のイベント・スペース「パンディット」で開催されなお本が店頭に並び始めたのは、一部フライング店を除いて9月11日で、つまり発売翌々日の販促イベントである)、この全文テキスト起こしは紙版『人民の敵』第35号および第43号に掲載された。
 〝司会〟的な役目を〝反体制おもしろ知識人〟を標榜する中川文人氏が務めており、観客として来場していた〝ヘイト・アーティスト〟の佐藤悟志氏も半ば〝ゲスト〟的に発言を強要(?)されている。

 第3部は原稿用紙24枚分、うち冒頭8枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)にはその8枚分も含む。

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 最近の運動は〝限界〟にぶち当たることがない

中川 さて後半です。みなさん主体的に発言しましょう、主体的にね。ここは革命の場なんだから。……フーミンさん、あんた発言しなさい。ちょっとマイクを回してあげて。

外山 もう本は読んできたんだっけ?

観客6 読みました。だいたい左翼史については今まで外山さんがいろんなところで云っていたことが整理されていて、改めて〝分かりやすいなあ〟と思ったんですけれど、いちばん注目したのはやっぱり第4章で、〝愛国者〟の方々に訴えるような言葉を書かれていて……さっきも話題に出た〝反差別〟の文脈で、最近も反レイシズムの活動家たちが、ツイッター社の前で……。

外山 あ、何かやってましたね。

観客6 レイシズムのツイートだと見なしたものをプリントアウトして路上に敷き詰めて、それを踏みつけるというパフォーマンスをやっていましたが……それはそれでいいと思うんですよ、面白くないし不快だけど。

外山 何もやらないよりはねぇ……。いろいろ文句も云いたくなるけど、路上で何かやる、路上に登場する、ということ自体はいいことですから。

観客6 だけど結局はむしろ反感を買ってたんじゃないかって、オレがツイッターの反応を見てた範囲では感じられました。……オレもずっとツイッターばっかり見てる人間なんですが、やっぱり外山さんが書かれているように、いろんな〝歴史〟とか踏まえずにあれこれツイートしてるような大多数の人たちの声というのが、すごく大きい。フェミニズム的なものにしても反ヘイトスピーチとかにしても、思想的に突き詰めずに感覚的にやっている人というのがすごくたくさんいる気がします。
 外山さんはそういう状況について、〝サバルタンが語りすぎる〟とおっしゃってもいますけれど、そのあたりがかつてとはずいぶん違うと思うんです。外山さんは〝人気者としてのファシスト集団〟的なものを立ち上げようとしてるようですが、今の状況は、かつてイタリア・ファシズムが登場してくる時に置かれていた状況ともまたかなり違うはずで、そこらへんはどうお考えですか?

外山 誰だって最初からモノが分かってるわけじゃないし、ぼく自身もそうだったし、それこそ右も左も分からない状態で、まずは何らかの運動に参加しちゃうところから誰もが始まるわけじゃないですか。で、しばらく活動を続けてるうちに限界にぶちあたって、運動に参加し始めた時の初期衝動とは別の部分でモノを考えなきゃいけない局面に立ち至るわけです。〝もっと勉強しなきゃ〟と思い始めたりもする。現時点では素朴な水準で動いてる人たちが、限界にぶちあたって、〝このままではいけない〟と考え始めるのを待つしかない。

観客6 〝限界にぶちあたる〟ってことが、たぶんないんじゃないかと思うんです。

外山 うん、どうもそうなんですよね、最近の運動は(笑)。そこが困ったところなんですが……。

観客6 「あれ、なんか違うかな?」と思い始める人もいるとは思いますが、そういう人たちは単に運動からフェードアウトしていって、また別の同じような人たちが新規参入してくる、ということがずっと続くような気がして……。

外山 でもまあ、全員が全員そうじゃないと思うから。例えばシールズとかやってて、いったん参加してはみたけど〝なんかコレ、可能性ないぞ?〟と気づく人とか……もちろん大半は単にフェードアウトしていくんでしょうけど、〝何か違う道はないのか?〟という模索を始める人も、ごく少数ではあっても、いるとは思う。というか、いると信じたい(笑)。

観客6 そういう人たちに向けての本、ということなんだろうなと思いながら読みました。むしろ〝右からの学生運動〟を提起されていて……。

外山 〝設定〟として〝右傾化した若者たち向け〟に書いてるだけで、実際は今の左派系の運動に参加してる若者たちが読んでも充分に役に立つ本だと思います。


 〝反差別〟は国家権力と資本の論理、
 左翼思想はもともと排外主義!

中川 その、〝限界〟の問題、限界になかなか立ち至らないっていうのは当たり前の話でね。例えば何かの講演会とか開催して、そこで講師が差別発言をしたとする。障害者に対して、女性に対して、外国人に対して差別発言をやった、と。そのことを誰が最初に問題にするかといえば、法務局なんだ。

観客6 法務局?

中川 法務局の役人が飛んでくるわけ、国家権力が。今はもうそういう状況なんだから、いくら〝反差別〟を路上で一生懸命云ってたって、弾圧されない。だけど〝私有財産制の廃止〟、〝天皇制の打倒〟、これを云えばそりゃあ弾圧されます。つまり〝反差別運動〟というのは……岩波新書でも読んでみれば分かりますけど、ヘイトスピーチを規制する法律を作るのは、移民を受け入れなければ資本主義が成り立たないからですよ。移民を受け入れなければ経済が回らない企業が、国家権力に頼んでヘイトスピーチをやめさせて、「移民のみなさんが安心して暮らせる社会にしましょう」って、国家権力と資本が音頭を取って〝反差別運動〟をやってるんです。それを路上で補完してる人たちが弾圧されるわけがないし、弾圧されなきゃ限界にもぶちあたりませんよ。

観客6 マルクスの〝弁証法〟っぽいですけど、そうなれば逆に移民の人たちが問題を起こしたりして、その限界を……。

中川 いや、はっきり云って左翼は排外主義ですからね、もともとは(笑)。19世紀からそう。〝移民は労働者の仕事を奪う〟って云ってたんだから、左翼は。つまり〝反差別運動〟は左翼運動じゃないんです。

外山 〝反ユダヤ主義〟も〝資本主義批判〟の文脈で左翼が云い出したことです。

中川 そうそう。要するに〝反差別運動〟が左翼運動の中心になってる限り、〝限界〟にはぶちあたりません。国家権力を「やったー!」って喜ばせてるんだもん。グローバリズムが大喜びしてますよ。「野間サンも誰も彼も〝差別をやめましょう〟と云ってるんだから、みなさん差別はやめましょうよ」って、国家権力の側も云うわけです。
 ……左翼の人たちが移民を問題にし始めた当初は、それは〝第三世界〟の問題で、「第三世界のエリートが先進国に移民して来ざるをえない状況を変えないかぎり、〝第三世界〟はいつまでたっても〝第三世界〟じゃないか」という話だったはずなんです。先進国と後進国の経済不均衡を固定化するような移民政策はよくない、というのが左翼の大義だったんですよ。分かります? 第三世界の優秀な人たちがみんなアメリカに行っちゃったら、その国が発展するわけないでしょ? それは良くない、というのが左翼の大義だった。〝諸民族の均衡的な発展〟というのを我々は目指してたんです。

外山 〝我々〟とは……?(笑)

中川 ともかく、左翼運動と反差別運動というのはまったく文脈が違うんだよね。……ということは初耳の人が多いと思います。もちろん左翼運動というのは平等主義です。そういう意味では、もちろん差別はいけない。〝差別はいけない〟というのは左翼の原則です。しかし移民の問題となると、その背景には国際的な経済の不均衡の構造があるんだから、そこをちゃんと考えた上で解決を図りましょう、というのがマルクス主義なんです。

外山 中川さんはそう考えている、と(笑)。

中川 いやいや、これこそがオーソドックスな……。

外山 ソ連仕込みの……。

中川 スターリニズムの……(笑)。


 現在は右傾化しているのではなく左傾化している

外山 (会場に)他に何かご質問等ありますか?

観客7 この本の話からは少し離れるんですが……。

中川 もういいよ、すでに離れてるから(笑)。

観客7 外山さんは、3、4年前だったか、当時と現在とでは社会状況はだいぶ違うかもしれませんけど、〝今の社会は右傾化しているのではなく、むしろ左傾化している〟とおっしゃってました。そのココロがちょっと分からなくて……。

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