絓秀実氏との対談(2017年9月12日)・その6

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 「その5」から続いて、これで完結〉
 〈全体の構成は「もくじ」参照〉

 世界に出して恥ずかしくないごく数名の日本の知識人の1人である絓秀実氏との対談シリーズである。
 2017年9月12日におこなわれ、紙版『人民の敵』第35号に掲載された。
 話題は例によって多岐にわたる。
 ( )内は紙版『人民の敵』掲載時にもともとあった註、[ ]内は今回入れた註である。
 なお云うまでもなく、対談中で「前の天皇」とか「先帝陛下」とか云ってるのは昭和天皇のこと、「今の天皇」とか「今上帝」とか云ってるのは平成時代の天皇つまり現・上皇のことである。

 以下本文。
 第6部は原稿用紙換算25枚分、うち冒頭8枚分は無料でも読める。ただし料金設定(原稿用紙1枚分10円)はその8枚分も含む。

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 テロも革命もクーデタも雅びでおじゃる

外山 しかし最近のPC派は、ヘサヨ連中だけでなく野間(易通)一派とかも含めて、[対立勢力の言論活動を]禁止しようとしますよね。デモも事実上やれなくしてるし、公選法を〝改正〟して選挙運動でもヘイトスピーチを禁止しろとか、どうしようもない愚劣なことを云ってます。

 そうそう、バカウヨもバカサヨも、すぐ相手側の言論の自由を制限したがるんだ。

外山 中国共産党も、云うだけなら批判を許せばいいのになあ。

 それが一党独裁では無理なんです、難しいことに。多党制の中の一党独裁で、少数派にガス抜きだけは認めるという形、つまり戦後日本ってことですが、そういうものでしかなかった。

外山 そんなことはないと思うんだけど……まあ、〝一党独裁〟だからできないんじゃなくて、その党が掲げているのが普遍的正義の担い手であることを称する共産主義の党だからできないんだと思います。
 そもそもファシズム体制って、いかに人民の熱狂的支持を持続させるかが肝なんで、人民の大多数の支持を失いかねないほどの圧政、あるいはそれを〝圧政〟だと人民の大多数に感じさせてしまうような圧政は原理的にやれませんし、もし人民の熱狂的支持を失ってしまったら打倒される。ナチスだってそうで、当時のドイツ人というかヨーロッパ人の民度の問題であって、今なら〝ユダヤ人迫害〟とか絶対にできません。

 結局は差配の問題でしかないというのも分かるけど、〝言論の自由〟というのはもっとシビアな問題だと思いますよ。単に社民的な寛容さで解決できるものではなくて……。

外山 テロを呼びかける言論も許容されなきゃいけないけど、いざテロをやったら弾圧っていう、本来の近代刑法的な水準までは追求可能なんじゃないですか?

 そこも実は微妙でさ。三島の場合、2・26という〝テロ〟さえも許容する〝陛下〟でなくてはならない、ってことでしょう。昭和天皇はそれを許容しなかったから、三島は戦前の天皇制にも批判的だったわけだ。

外山 昭和天皇はそうだったけど、原理的には天皇制はそれを許容しうるでしょ? 決起将校たちが勝って政権を掌握したら、それを事後的に承認すればいいだけの話なんだから。

 うん、そういうのが三島が理想とする〝天皇独裁〟のあり方だった。

外山 天皇に実権が一切ないからこそ、そういうことも可能になる。

 それが三島にとっては〝雅び〟ということでもあるんだ。テロが起きようが革命騒ぎやクーデター騒ぎが起きようが、それでどっちが勝とうが負けようが、すべてを容認して……。

外山 〝ホッホッホ、雅びでおじゃるなあ〟と(笑)。

 〝それもまた良きことかな〟って肯定して、また日常に戻っていくという。

外山 世俗の権力闘争に天皇は介入しないからこそ、それも可能になるわけでしょ。

 そうです。具体的なことは、政治家や官僚がやる。

外山 打倒されて投獄されたり殺されたりするのも世俗の権力者たちの役割(笑)。

 そうそう、血みどろの権力闘争も、天皇はどこか高みから〝雅びじゃのぉ〟って堪能する(笑)。

外山 世の移り変わりの儚さに何か感ずるところがあれば、歌を詠むなり何なり……それでどこがいけないんでしょうか?(笑)

 まあそれはそれで1つのリアリティではあるけどさ。

外山 つまりそれは、天皇が存在してさえいればいい、ということですよね。

 うん。

外山 その場合の〝独裁〟というのは、一種のフィクションでしょう?

 そうそう。〝レーニン〟でさえフィクションとして存在すれば、それでいいんです(笑)。

外山 なんで〝天皇〟じゃいけないんですか(笑)。

 そこに、資本主義というファクターが入ってくるわけだし、とりあえず民主制を採用せざるをえないとすれば、〝無〟であれ何であれ、天皇制はそれと背反するという原理主義だな。


 在特会よりポリコレ野郎どもの方が嫌いだ

 ……でも今日はかなり詰めた議論をしてますね。たいした人数は読んでない媒体だから、オレもいくらでも放言してますけど(笑)。さっきみたいなことを大っぴらに云うと、すぐ〝絓が在特会を肯定した〟とか云い出す奴がいるんだよ。肯定なんかしてないのにさ。

外山 在特会とカウンターが平場で抗争してるぶんには、その状況を全体として容認するしかないってことですよね。ぼくが今でも〝初期しばき隊〟を絶賛してるのは、在特会と対等な立場で街頭で対峙してたからだし、それがヘイトスピーチ規制法だとか、国家権力の行使をとおして相手を倒そうとし始めたら、批判的にならざるをえません。

 許容度の問題として、〝どこに線を引くか〟という判断はいろいろありうるけど、少なくとも、最低限、〝言論〟レベルまでは否定しえないですよ。在特会のようなくだらない連中もいるんだ、と思い知るしかない(笑)。

外山 表に出てこなくなるより、ああいう形で顕在化してくれたほうが、真の状況を認識することもできるんです。

 オレは昔、〝セクハラ有罪、恋愛無罪〟って書いたことがあるんだけど……。

外山 なんかツイッターで突っかかられてましたね。

 うん、ポリコレ野郎が突っかかってくるんだ。オレはちゃんと〝セクハラ有罪〟と云ってるのにさ(笑)。

外山 たぶん〝革命無罪〟って言葉[正確には「造反有理、革命無罪」]も知らないような奴ですよ。

 とにかく今のポリコレ野郎どものバカさ加減は、すごいなと思った。

外山 いわく云いがたいモヤモヤを表現するためのレトリックとか韜晦とか、一切理解しない連中だもんな(笑)。〝忸怩たる思い〟みたいな複雑な感覚は抱いたことがないんでしょう。

 そういうポリコレ野郎と在特会と、どっちが嫌いかといえば絶対にポリコレ野郎のほうだ(笑)。

外山 ……ところで絓さんには、またどこかの大学で教えるとか、そんな話は全然来ないんですか?

 まったくないですよ。定年退職した大学教員が、またどこかの非常勤とか客員とかで教えるってケースはよくあるけど、それはまず、東大とか有名大学の教員だとそういう話も来やすい。それから何かの学会に属してる場合にも誘われやすいね。学会というのは一種のネットワークで……。

外山 職業斡旋所の役割を担うこともある、と。

 そうそう。でもオレは何の学会にも属してないしさ。

外山 だけど本当にダメなんだなあ。絓さんを在野に放置してる日本のアカデミズムも、外山恒一を一切無視してる日本の活字メディアも、劇団どくんごが何の話題にもならない日本の演劇界も、ついでに外山恒一や『メインストリーム』にまったく注目しない日本の現代美術シーンも、完全に死んでるんだと思い知らされます。

 ほんとにそう。大月隆寛がツイートしてたように、和光大学あたりが外山君を〝運動史研究者〟としてでも何でも、雇うべきなんです(笑)。オレの場合は柄谷さんが、文芸批評家では食えないし、大学に籍を置いといたほうがいいからって、たぶん相当に無理をしてオレを近大に引っ張ってくれたわけで、なのにオレはやがて柄谷さんに反抗しちゃってさ(笑)、最後はいろいろあって、同じ学内でほとんど顔も合わせなくなっちゃったけど、恩義は非常に感じてますよ。


 左派論客総結集で腐敗学長を擁護!?

 ……しかし左翼の大学権力者というのはダメですね。埼玉に城西大学という私立大学があって、水田宗子っていう、上野千鶴子ですら頭が上がらないぐらいの先駆的なフェミニストが、そこの〝オーナー理事長〟だったんです(父で自民党のベテラン代議士だった水田三喜男が大学創設者)。

外山 あ、ツイッターでもその話にちょっと触れてましたね。

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