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浦沢直樹[MONSTER]考察

x 追記
五年後ーー偶然この古い日記を見つけ読み返してみたが、まだ人生が私の目には今よりも暖かくて輝いて見えたころのことが記されていて、興味が深い。
                 アリシアの日記ートマス・ハーディ

このnote記事では、浦沢直樹氏作品の”MONSTER”について考察していきます。
作品内容を詳しく紹介するものではありませんので、一通り”MONSTER”を読んだ方に楽しんでいただけたらなあと思ってます。

※以降、ネタバレを多く含みます。

浦沢直樹:MONSTER(モンスター)とは

絵本「なまえのないかいぶつ」を軸に展開されるサスペンス漫画。
物語の舞台は20世紀ドイツおよびチェコであり 、当時の歴史の知識があれば作品世界により深く没入できる。
ラスボス(?)は物語序盤に明らかになり、彼を追いかける途上で様々なテーマが描かれる。
テレビアニメも放映された。

過去(=日記)を読み返す理由

自分が過去に書いた記録である日記を読み返す理由とは、その当時その渦中にあった自分には到底理解できなかった諸々のことの理由や答えを探りたいから。
そしてそのことがとても興味深いからじゃないか。
 
そうなるとこの作業は、過去の自分には見えていなかったが、確かにそこにあった真実を掘り返すようなものになる。
 
・なぜそうなってしまったのか
・なぜそうなるしかなかったのか
・なぜそうなるべきであったのか

そこには必ず理由や原因があるものだ。

ヨハンはずっと自分の中に怪物を見ていた。
「なまえのないかいぶつ」の中に描かれる怪物と自分を重ね合わせ、自分は怪物なんだと捉えて離さなかった。
しかし彼はある時過去を振り返ることになる。
自分は、本当はいったい何者なのだと。

そうして彼は、怪物の正体と在処を知る。
過去を掘り起こして真実を発見した彼は、真実に立ち向かっていく。


MONSTERの登場人物が抱えるそれぞれの理由

・ヨハンが殺人を続ける理由
・アンナがヨハンを追い続ける理由
・テンマがヨハンを追い続ける理由
・ルンゲがテンマを疑うことをやめない理由
・浦沢直樹がこの作品を描いた理由

浦沢直樹がこの作品を描いた理由

MONSTERは、当然ファンタジーに分類される。
これはフィクションであり、作られたお話である。
しかし、ギリギリまで現実を組み込むことでリアルな社会に起きた”ある事件”を追いかけているように描写している。
 
 
作者は、このマンガ作りを通して社会を解体していた。
テンマがこう動けば、ルンゲは、ヨハンは、アンナは、こう動かざるを得ないよな。
だけど、そうしたらここはこうなるよな、人間というのはこういうものだよな、と。
研究していたのだろうか。
 
そしてもちろんこれらのキャラクターは社会のなかで生きているわけであるから、彼らの動きに対しての社会の動きもある。

東西ドイツの壁の崩壊→ドイツの統一
これは、分裂によって生まれたそれぞれの社会の基軸を再度崩壊させ、人々に新たな混乱を与えた。
 
分裂の歴史は統一後のドイツに引き継がれるが、そこには社会の正義の光を当てられると困るようなことも存在した。
 
それは悪の種子
影で拡散し、統一後のドイツにおいてもしたたかに育まれていた。
 
壁とは、壁の崩壊とは、統一とは、闇とは、何だったのか。 

謎と、それに付きまとう暴力。
それぞれの登場人物の生きる理由。
生きる目的。
闇に対する答え。
名前のない怪物と、ヨハン。

いったい、何を伝えたかったのだろうか。
メッセージの多さに今でも困惑している。

ヨハンが目指した”完全なる自殺”

単なる自殺は、当人が自らの命を絶つことに留まる。
社会は彼が自殺したことを記録し、記録したことを忘れていく。
命日には、ふと思い出すようなこともある。

しかし、この作品で描かれている”完全なる自殺”とは何か。
この形容詞が指す言葉の意味とは。

それは、自分の存在を一切の記録・記憶から消去するということ。
自分がこの世に存在したことを証明する一切を消去するということ。
 
ヨハンは、これを完璧に遂行しようとしたのだった。
 
重い。重すぎるテーマ。
その思惑の背景には、凄惨な過去がある。
その過去が、ヨハンの進む道を先導してしまっていたのだ。

浦沢直樹:MONSTER 主要登場人物の重み

この作品の主要登場人物は、その存在がものすごく重い。
背負ってきたもの、そしてこれからさらに背負わなければならないもの。
彼らの一歩一歩は漫画の中でアニメの中で丁寧に描かれ、そのそれぞれの歩みすべてが次に展開される物語のトリガーとなる。
 
浦沢直樹の作品の世界の構成力には圧倒される。
徹底的な人間分析。
すべての登場人物にそれぞれの哲学や主張があり、それらすべてがものすごく人間臭い。
重厚な人間ドラマ。 
漫画はもちろんそうだが、アニメも他に例を見ないほどにものすごくよく作りこまれている。
 
BillyBat、20世紀少年にはちょっと肩透かしを食らったような感じだったが、これは傑作である。

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