メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─』第133号「陽虚用藥」の処方「桂附湯」他 ─「虚労」章の通し読み ─

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 ◇ 東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん─古典から東洋医学を学ぶ─ ◆


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  第133号

    ○ 「陽虚用藥」の処方「桂附湯」他
      ─「虚労」章の通し読み ─

                      ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説 

      ◆ 編集後記

           

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 こんにちは。「陽虚用藥」の項、具体的な処方解説に入ります。
 

 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「陽虚用藥」 p446 下・雜病篇 虚勞)


 桂附湯

    治陽虚血弱虚汗不止桂皮三錢附子炮
    二錢右〓作一貼薑三棗二水煎服入門(〓 坐りっとう)


 茸附湯

    治氣精血虚耗潮熱盜汗鹿茸附子炮
    各二錢半右〓作一貼薑七片煎服入門(〓 坐りっとう)


 正氣補虚湯

      諸虚冷氣宜服人參〓香厚朴黄〓白(〓 くさかんむり霍)
(〓 くさかんむり氏)
      〓當歸熟地黄川〓茯神各七分肉桂(〓 くさかんむり止)
                     (〓 くさかんむり弓)
  五味子白朮半夏附子丁香木香乾薑甘草
  各四分右〓作一貼入薑三棗二水煎服入門(〓 坐りっとう)


 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


 桂附湯

  治陽虚血弱、虚汗不止。桂皮三錢、附子炮二錢。

  右〓(坐りっとう)作一貼、薑三棗二、水煎服。『入門』


 茸附湯

  治氣精血虚耗、潮熱盜汗。

  鹿茸、附子炮各二錢半。右〓(坐りっとう)作一貼、

  薑七片煎服。『入門』


 正氣補虚湯

  諸虚冷氣宜服。人參、〓(くさかんむり霍)香、厚朴、

  黄〓(くさかんむり氏)、白〓(くさかんむり止)、

  當歸、熟地黄、川〓(くさかんむり弓)、茯神各七分、

  肉桂、五味子、白朮、半夏、附子、丁香、木香、乾薑、

  甘草各四分。右〓(坐りっとう)作一貼、入薑三棗二、

  水煎服。『入門』


 ●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)


  潮熱(ちょうねつ)潮の満ち引きのように、
           定まった時間で出たり引いたりする熱

  盜汗(とうかん)夜間、寝ている間に汗が出る症状。


 ▲訓読▲(読み下し)


 桂附湯(けいぶとう)

  陽虚血弱く、虚汗止まざるを治す。

  桂皮三錢、附子炮し二錢。

  右〓(坐りっとう)(きざ)みて一貼と作(な)し、

  薑三棗二、水煎し服す。『入門』


 茸附湯(じょうぶとう)

  氣精血虚耗し、潮熱盜汗するを治す。

  鹿茸、附子炮し各二錢半。

  右〓(坐りっとう)(きざ)みて一貼と作(な)し、

  薑七片煎服す。『入門』


 正氣補虚湯(せいきほきょとう)

  諸虚冷氣に宜しく服すべし。

  人參、〓(くさかんむり霍)香、厚朴、

  黄〓(くさかんむり氏)、白〓(くさかんむり止)、

  當歸、熟地黄、川〓(くさかんむり弓)、茯神各七分、

  肉桂、五味子、白朮、半夏、附子、丁香、木香、乾薑、

  甘草各四分。

  右〓(坐りっとう)(きざ)みて一貼と作(な)し、

  薑三棗二を入れ、水煎し服す。『入門』


 ■現代語訳■


 桂附湯(けいぶとう)

  陽気が虚し、血が弱く、虚汗が止まらない者を治する。

  桂皮三銭、炮附子二銭。以上を刻んで一貼とし、

  生姜三片、大棗二個を加えて、水で煎じて服用する。『入門』


 茸附湯(じょうぶとう)

  気と精と血が虚耗し、潮熱が出、盜汗する者を治する。

  鹿茸、炮附子各二銭半。以上を刻んで一貼とし、

  生姜七片を加えて煎じ服用する。『入門』


 正氣補虚湯(せいきほきょとう)

  諸々の虚により気が冷した者が服用するとよい。

  人参、〓(くさかんむり霍)香、厚朴、

  黄〓(くさかんむり氏)、白〓(くさかんむり止)、

  当帰、熟地黄、川〓(くさかんむり弓)、茯神各七分、

  肉桂、五味子、白朮、半夏、附子、丁香、木香、乾姜、

  甘草各四分。以上を刻んで一貼とし、

  生姜三片、大棗二個を入れ、水で煎じて服用する。『入門』

 
 ★解説★
 
 前号の「陽虚用藥」概説で挙げられた処方が個々に具体的に解説されること
 になります。中には茸附湯のように「血が虚耗し」など陰虚の症候が混ざっ
 たであろうものも入っており、実際の症状の出方に則した処方選択というこ
 となのでしょうか。

 陰虚用薬との違い、また陽虚用薬の中での使い分けは例によって個々の構成
 生薬を検討することで弁別することができます。この陽虚用薬に入って桂枝
 や附子などが登場しています。これは陰虚用薬の処方には一度も出てこなかっ
 た生薬ですね。

 
 原文にひとつ問題点があります。文の区切りで意味が全く違ってしまうこと
 は何度か触れましたが、ここにもそんな例があります。それは3つ目の「正
 氣補虚湯」の冒頭、「諸虚冷氣宜服」のところです。上ではすでに訓読も示
 してしまっていますが、改めてこの文、どこで切れるでしょうか?可能性は
 いくつか考えられます。断句の欄より小さなユニットで切ってみます。


  諸虚、冷氣、宜服。(諸(もろもろ)の虚の冷氣に宜しく服すべし。)

  諸虚冷、氣、宜服。(諸の虚冷(きょれい)の氣に宜しく服すべし。)


 つまり、熟語が「冷氣」で切れるのか「虚冷」で切れるのかです。

 面白いことに各種古典を調べても、「虚冷」「冷氣」ともに熟語として登場
 するのでなおさら判別が難解になります。またどちらでもなんとなく意味が
 通ってしますところにもさらに決定の難しさがあります。

 さらに「諸」があるので、


  もろもろの虚による冷気

  もろもろの虚冷による気

 
 「もろもろの虚」とは?「もろもろの虚冷」とは?意味の幅が広がってしま
 います。

 私の手元の現代韓国語訳本では2番目の「諸の虚冷の氣」と解釈しています。

 江戸期の『訂正 東医宝鑑』は「諸-虚冷-氣ニ宜シク(ベシ)服ス」と、熟
 語の繋がりを示す線(原本では縦線)が入っており、「諸-虚」と「冷-氣」
 との間に送り仮名が入っていないため両者の関係をどう読んでいるのかわか
 りにくいですが、切れ目としては1番目の「諸虚、冷氣」と読んでいること
 がわかります。

 先行の日本語訳本は「すべての虚の冷気を治す。」とあり、「諸虚」と「冷
 氣」の間に「の」がある分、『訂正』よりは解釈がわかりやすいですが、
 「の」だけでちょっと前後関係を詳細に決定するのを避けている印象ではあ
 るのですが、やはり1番目に準じています。

 では改めて、大本の作者さんの意図はどうでしょうか?上記でどちらが正し
 い、また他にもいくつか読み方が考えられ、どう読んだら正しいでしょうか?

 不思議なことに、私が調べた限りで引用元としてある医学入門に正氣補虚湯
 は登場しますが、この「諸虚冷氣宜服」というくだりがないようです。東医
 宝鑑の編者さんはどこからこの文を取ったのでしょうか?

 ここでは単に、上に訳したように1番目の「もろもろの虚による冷気」が正
 しいであろうことを提示するに留めます。つまり「諸虚」「冷氣」で切れ、
 さらに両者には「による」という因果関係があるであろう、という読みです。

 原文は短い文で、さらりとスルーしてしまえば何でもないようなところに案
 外このようなテーマが隠されているという好例のようで、ご興味がおありの
 方は、どう読めばよいのか、その根拠や実際の用例などとともに証拠を挙げ
 て実証なさってくださればと思います。


 ◆ 編集後記

 「陽虚用藥」の具体的な処方に入りました。連日暑くて執筆の気力が萎えが
 ちですが、言い訳をしだすときりがないですので詳細な解説はともかく、最
 低でも翻訳の提出だけは期して継続配信したいと考えています。

 メルマガの配信のみではなかなか翻訳のご紹介が進みませんので、ホームペー
 ジを開設して原文とともに翻訳を、かつ関連箇所がリンクで辿れて全体を縦
 横無尽にご活用いただけるようなコンテンツをお届けしたく、アカウントは
 取得し少しずつ原文をアップしてリンクを形成するなどしていますが、日々
 の忙しさに紛れなかなか公開のアップまで進まないでいます。ひとまずメル
 マガだけは途切れないよう、週1ペースで継続配信する所存です。

                     (2015.08.01.第133号)
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         発行者 東医宝鑑.com touyihoukan@gmail.com

      
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