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投資日報α 2021.10. 購読者限定レポート総選挙に向けた備忘録 ― あるいは3つの“補助線” ―【完全版】

【序章:岸田内閣の人事と自民党政治の本質】

閣僚人事について考える

 10月4日、岸田内閣の全容が明らかになった。初入閣は13人、厚生労働相など新型コロナウイルス対応を担う閣僚は刷新。党全体を代表するように、老年・壮年・青年のバランスを取った―と自負しているようだ。だが、平均年齢61.4歳という布陣が果たして新味のあるものなのだろうか。


 内定した顔ぶれをみると、初入閣の13人は全閣僚の65%。2020年発足の菅義偉内閣の5人、2012年の第2次安倍晋三内閣発足時の10人と比べれば確かに多い。初入閣組は衆院当選3回の若手3人を含み、これは「中堅・若手を登用する事が大事」と繰り返し主張していた自説を意識していたのだろう。
女性閣僚は3人。総裁選で戦った野田聖子元総務相は少子化相に起用。これは、総裁選で河野氏の票を削いだ論功行賞といえる。新設の経済安保相には小林氏。衆院当選3回で、党内の経済安保を議論してきた党新国際秩序創造戦略本部の事務局長である。座長の甘利明幹事長と近く、つまり派閥均衡人事、あるいは甘利氏忖度人事という事になる。甘利氏は「全省庁に対して指示が出せるようなポジションになる必要がある」と強調、国家安全保障局(NSS)も含め掌握出来る仕組みにすべき―というが、権力の2重構造的な部分が更に混迷を深める可能性がある。あるいは、隠然と甘利体制を確立させようとしているのだろうか。

 経済安保相は、中国などに過度に依存せず、有事も国民生活と経済活動を安定させる「経済安全保障推進法」の策定を担うという。米国にも配慮した製品安全保障なのであろうが、対中国またはグローバル・サプライチェーンとの整合性をうまく取れるのであろうか。米バイデン政権は、アフガニスタン敗北以降の人気が急落。そのため、対中貿易戦争の今までの態度は一変されつつある。つまり、軍事的には強硬でも経済は別―という民主党の伝統的なやり方に戻りつつある、といえるだろう。もしそうであれば、主要同盟国の中で気が付けば貿易戦争をしているのは日本だけであった―という可能性も出て来るだろう。そうなると、相当の情報収集力と分析力、更に官僚の壁を突破する力が必要になって来る。

収束しつつあるコロナで存在感を見せても…

 新政権下である意味目玉といえるコロナ対策については、如何に厚労省を抑えるか―に主眼を置いたという。厚労相は初入閣の後藤茂之氏。旧大蔵省出身で、政調会長代理として党側でコロナ対策を議論してきたので素人ではない。だが、どれくらい官僚支配を突破出来るかは未知数である。
河野大臣など現在の布陣は、毀誉褒貶はあったものの総じて対官僚という意味では迫力があったと感じるのは筆者だけではないだろう。コロナ対策を担う経済財政・再生相は麻生派の山際大志郎氏、ワクチン接種の担当は岸田派の堀内詔子氏と、いずれも初入閣の中堅・若手を充てているが、実質的には既に“山を越えた”案件で、派閥バランスを取った人事といっても過言ではない。

 結局、今まで通りコロナ対策の担当閣僚が乱立している―との批判は免れないだろう。それでも、実質的なトップが後藤氏であれば、突破力よりも安定性を重視している―とも言える。岸田氏のいう「(コロナに関わる)閣僚の役割分担の整理も検討」というくだりは、既に山が過ぎたのに、ポスト乱立という問題を自ら露呈したようなものである。
更に言えば、新型コロナウイルスに対する布陣をこのタイミングで一掃する意味がよくわからない。菅内閣の問題点は発信力の低さにあった。しかし、政策の方向性そのものは悪くなかった。事実、コロナの混乱は急速に収束しつつあり、緊急事態宣言も解除されたので、総選挙が終わるまで現行布陣を変える必要はなかったのではないか。むしろ、感染終息宣言とともに担当閣僚の整理を行う―とでも世に問うべきであったように筆者は感じる。

 議論なきその場しのぎのツケ

 内定した閣僚20人のうち、再任は茂木敏充外相と岸信夫防衛相の2人。外交・安保は安倍・菅内閣の方針を維持、自由や法の支配を重視した国際秩序をつくる「自由で開かれたインド太平洋」を受け継ぐ。実際、宏池会(岸田派)は従来アジア重視、いわば「親中」とでもいえるようなスタンスであった。だが、総裁選でも批判され、高市氏に多くの支持が回る原因ともなった。そこでかなりタカ派的なカラーを出そうとしているのが伺える。
実際、攻撃を受ける前に敵のミサイル発射拠点をたたく「敵基地攻撃能力」の保有は「有力な選択肢だ」と前向きな姿勢をみせている。だが、そこにとどまらず、全体として東アジアの平和と安定を守るためには、何が必要か、そこで日本はどこまでの軍事力を持つべきか、議論するべきだろう。軍事アレルギーの強い国民性だが、もう残された時間はあまりない。
繰り返すが、総じて岸田内閣の布陣は、論功行賞の色彩が強い。初入閣は多いとはいえ、派閥均衡人事の賜物であり、伝統的な“自民党内閣”そのものといえる。言い換えれば結局、革新を偽装した保守的自民党そのもの―とも言えるだろう。だが、現実はもっと柔軟なものになりそうだ。岸田氏は総裁選勝利後のスピーチで「私は人の話をよく聞く」と発言した。逆説的に言うと、これは「政策を実施する際には、現実の変化に対して柔軟に対応する」という事になる―と表現するとポジティブな印象を与えるかも知れない。しかし、これを端的に解説すると「変化する状況を後追いし、調整を続けていく」といっているのに過ぎない。

 その意味でこの発言は、私には強い政治的理念もなければ、透徹する信念もない。出来る事は「話を聞いて」「柔軟に対応」するだけなのだから、状況が変化すれば、その時その時に相応しい人気のある施策を打つ事になるだろう―と言う解釈が出来る。人によってはこれこそが自民党の“柔軟さ”や“奥深さ”であると評価するかも知れない。ただ、それは地震しかりコロナしかり目の前の「緊急事態」に対して(熟慮する事なく)常にバラマキを繰り返して来た歴史―とも言える。政権が交代しない限り、こうした体質は変わる事は無いだろう。有力な支持者・支持企業・取り巻きも同じ顔で、いわば“バラマキ利権主義”という体質こそ、自民党そのものといえる。
この観点から、自民党政治にとって政策は重要な存在ではない。緊急事態だという「空気」と利権の分配、そして野党が良い内容の施策を打ち出したら、躊躇なくパクる…。こうした自民党政治に、有権者も利害関係者として、もっとあけすけに言ってしまえば“バラマキの受益者”として参加して来た。それが過去の有権者の投票行動であった。今月末に衆院選、来年夏には参院選が行われるが、こうした姿勢を根本的に改める事は出来なくても、我々が票を投じる際にもう少し日本の将来と安全保障、更に“理念”という部分も配慮するべきではないか。

 政治家は有権者の鏡でもある。そしてこれまで、その場しのぎの対応しか出来ない政治家を選んでしまったのは我々有権者の責任でもある。そこで今回、筆者は10月31日の衆院選投票日までに与野党の主張をまとめていこうと思う。これが票を投じる上で参考の一助となれば幸いだ。仮にそれが「カラ手形」であっても、次の選挙で反対票を投じるきっかけにはなるだろう。選択肢は極めて限られている。ただ、与党・野党とも深く考えている政治家がいるものと思いたい。投票者・有権者の自覚と賢明な選択こそ俟たれるのである。

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