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ことばをかりる

どこか遠くへいくとき、
わたしは人から借りた本をお供にしている。

自分で本屋さんや図書館にいって
選ぶのもいいけれど
だれかに行き先にあわせて本を
見繕ってもらうというのは見知らぬところへ
出向くときにはしっくりくるように思うから。

それに、"本"という
かたちではあるものの
そのなかにある無数の言葉たちは
借主によく似ているので知らない場所で
思い出してちょっとほっとすることでもある。

同時に返す、という目的があることで
帰るべき場所を見失わずにすむことでもある。

わたしにいつも
本を見繕ってくれるひとは
すごくことばの多い人だ。
(よくしゃべるということではない)

それからそこにしんとした寂しさでなく
淋しさをもっている。
"ほんとう"をじっとみつめることの
できるひとでもある。

そういうひとが
わたしにむけて見繕ってくれた本は
いつもより難しい漢字や言い方の
たくさんでてくる本ばかり。

いまわたしがいるところは
寝ると食べるを行き来してしまうような、
それでも木や水や光の美しいところなので
たっぷり時間をかけて本を読み
のどにつかえていた言葉をはきだし
旅路の途中でみつけた
美しい雨上がりの景色の話や
あたらしい友達の話を持ち帰ろうと思う。

それでまた本を、ことばを、借りて
新しい場所へ出かけるのだ。
しらないところへでかける勇気を
それから帰るべき場所の目印を
どうもありがとうのきもちです。




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