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【デザイン、ブランディングの話】ベネフィットからスペックを

クライアントと話をすると、たいていの場合すでに売る商品・サービスが決まっています。すごく当たり前の話のように思えますが、よく考えるとそんなに当たり前でもないんです。

前回がこちら。


スペック起点のビジネス

「私は無農薬栽培のトマトを作って売ります」「僕はかっこいい服を作って売ります」「私はこれもまでの経験を生かして経営コンサルをやります」など、すでにやること、やりたいことは決まっています。私も同様に、デザイナーとしての経験を生かしてデザイン事務所を立ち上げました。これらは、こんなスペックの商品・サービスを販売・展開していきますよ、というビジネスの方向のになります。

こうしたケースでは、これまでに書いた記事のように、スペックを起点にしてどんなベネフィットを生み出せるのかを考えていけばいいと思います。私がクライアントと仕事をする時も、ほとんどがスペック起点、商品・サービス起点で考え始めていきます。

でも、スペック起点の考え方は、そもそも出発地点として間違っているのです。

ベネフィット起点のビジネス

たいていの人がスペックや商品・サービスを起点にビジネスを考え始めますが、ベネフィットを起点にしたほうが、ビジネスの目標地点や意義が明確になります。

どういうことかというと、商品・サービス、スペックを出発地点にビジネスを考え始めると「私にできること、作れるもの、でどんな価値を世の中に提供できるか」という思考になります。手持のカードでどんな役が作れるかと考える感じですね。

一方で、ベネフィットを出発地点に物事を考えると、「私はこんな価値を世の中に提供したい。だからこんな取り組みが必要だ」となります。作りたい役のために、どんなカードを集めればいいかという考え方です。

本来ビジネスは後者であるべきだと私は思います。私たちが商品・サービスを購入するときに、そのものが欲しいのではなく、その先にあるステキな経験や問題の解決、社会の変化など無形の何かを求めているのです。そう考えれば、安らぎの時間を提供したいという目的を達成するために、コーヒーを作っても、温泉宿を作っても、美しい音楽を作ってもいいわけです。目的さえ達成できれば。誰しもが今一度、何のために今の仕事をしているのか、考えなければならないのです。

スペックとベネフィットの往復

そんなことは言っても、みなさん何かしらのスキルや経験を持っているので、それをベースにスペック起点のビジネスを始めることになります。こうした場合は、さっきも書いたように、スペックを分解してベネフィットを導いてコンセプトを組み立てることになります。

これについてはこの記事でまとめています。


ベネフィットを導けたら、一度、自分のスキルや商品を取っ払って「このベネフィットを世の中に与えるためには、どんな商品・サービスを提供すればいいだろう」ということを考えてもらいたいのです。ベネフィットからスペックへ向かうこれまでの考え方から逆行する思考をしなければなりません。これをすることによって、自分が今取り組んでいる仕事、これからやろうとしている仕事が、本当に自分のベネフィットに合うものなのか検証できます。さらに、ベネフィットをもたらすために取り組むべき別のビジネスも見えてくる可能性もあります。

もし、あるパン屋さんが「柔らかい無添加パン」を提供したい、と考えている場合、柔らかい、無添加というのがスペックになります。これらをブレークダウンして行き着いたベネフィットが「家族の団欒の時間」だとします。そしたら、パンのことやスペックのことを一旦忘れて、「家族の団欒の時間」を世の中にもたらすためには、どんなことをすればいいだろう、と考えるべきなのです。すると、こたつ作るとか、家族で遊べるボードゲーム作るとか、パンとは違うものが出てきます。そして、その中にちゃんと「柔らかい無添加パン」も収まるかどうか確認してもらいたいのです。

しかも、逆行する思考をすると、「柔らかい無添加パン」で「家族の団欒の時間」をより実現させるためのアイデアも出てきます。例えば、こたつで囲んで食べたくなるような形のパンを作るとか、パンを食べながら進めるボードゲームを作るとか、そういうアイデアも出てきます。

こんなふうに、スペックからベネフィット、ベネフィットからスペック、というようにそれぞれを往来することで、互いが磨き上げられより高いクオリティのコンセプトとユーザーエクスペリエンスが生まれるのです。

私たちは自分でできることをベースに物事を考えがちですが、こんなことを実現したいという崇高な想い(ベネフィット)を大事にすると、もっとすばらしいビジネスが生まれてくるはずです。

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