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【投機の流儀 セレクション】ジェットコースターのような日本株──「植田ショック」というのは適切でない。

5日(月)の日経平均が一日で4451円幅という歴代最大の下げを演じた。発射台が高いのだから下げ幅は大きいということは決まっているが、下落率もまた大きかった。7月11日の高値42000円を起点にすると、8月5日までに3週間で25%下げた。平成バブルの崩壊やITバブルの崩壊やリーマンショックの初速を超える下げだった。

ところが、6日(火)には一転して3217円という「歴代最大の上げ幅」を演じた。発射台が高いのだから、上げ幅も歴代最大となる。

このように、日本株がジェットコースターのような波乱の原因は大まかに言えば三つある。
1.米国経済の変調に対する懸念だ。日本株は「世界一の世界経済敏感株」である。このことは本稿で何度も述べてきた。

2.値がさテック株へのマネーの集中だ。これは上げる時も大きいが、下げる時の値幅も大きい。これが下がると関係ないオールドエコノミーの伝統的な銘柄、例えば日立(6501)・日本製鉄(5401)・東電(9501)なども平気でストップ安か、それに近い下げ方をする。

3, 日銀の追加利上げとその結果としての外国為替市場で進んだ円高である。特に、金融市場に直接インパクトを与える。それがテック株の暴落を起こす。

多くの投資家は株価の急落の原因は日銀にあると言って「植田ショック」などと言っている向きもあるが、それは当たらない。90年の三重野元総裁が日本経済を根本から破壊した「失われた13年」(2000年〜2003年春まで)の不良債権不況をもたらした。これは三重野ショックと言ってもいいし、日銀ショックと言ってもいいし、三重野元総裁は「失われた30年」の原因をつくったA級戦犯であると本稿で何度も言ってきた。「死者に鞭打つな」という御意見も何度も読者からいただいた。

しかし、筆者であろうが、生存者であろうが、あれだけのことをやったならば日本史上で100年は語り継がれる。井上準之助が今でも語り草になるのと同様である。井上準之助・一萬田尚登(いちまだひさと)・三重野康、この3人は日銀生え抜きの総裁で、偶然に大分県出身である。

三重野元総裁が89年12月に日銀総裁に就任する時、「二度あることは三度ある」という声が市場には一部あった。筆者もその縁起を3分の1ぐらい信用して、手持ち資金を現金化したことがある。8月に入って3日間で7600円幅を下げた翌日、一日で3200円幅を暴騰した。

このような慌ただしい中、内田副総裁が「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と講演で語り、買い安心感が広がったため6日の3200円幅という歴代初めての大幅なバウンドがあり、7日は前日比900円安から1000円を超えて上げる場面があった。
内田副総裁の発言が株式市場に安心感を与えたが、まだ視界が晴れたとは言えない。

QUICKの評価損益の計算によれば、信用取引評価損はゼロからマイナス20%程度で推移するのが通常であるが、連日の相場の乱高下で個人投資家の買い意欲が大幅に低下した。
松井証券の店内集計では、5日(月)時点の評価損益がマイナス25.7%と「追い証」(追加保証金)が発生する目安とされるマイナス20%を超えた。発生する目安とされる20%「追い証」による投げである。30%の現金で100%買った場合に「追い証」が発生すると、残りの70%を現金で払わなければならない。または投げねばならない。 
7日(水)はネット証券大手の追い証解消の期日に当たった。評価損率は2年5ヶ月ぶりの大きさである。

【今週号の目次】
第1部;当面の市況
(1)週末の様相と大幅乱高下の第一幕の幕引きを占う。
(2)ジェットコースターのような日本株─「植田ショック」というのは適切でない。
(3)先週5日間の様相がいわゆる「陰陽はらみ足」を形成
(4)8月1日(木)から土日を挟んで、3日間で7643円下がって、翌日3217円上がったという「史上最大の下げ幅」と「史上最大の上げ幅」を示現したジェットコースター状態の意味するところ─87年のブラックマンデーに例えることが適切だろう。
(5)87年のブラックマンデー─87年に日経平均が20000円に乗せて、26000円までスルスルと上がって、そこから一挙に6000円を下がるという劇的な中間反落があったからこそ、その2年後に40000円弱を示現したのだ。
(6)今回のジェットコースター、市況で最も驚いたのは日銀と金融庁だったろう。彼らは市場を熟知していても、投資家心理というものにオンチだ。自分がポジションを持たないからだ。その点がFRBのグリーンスパンやJ・イエレン女史と大違いだ。
(7)植田総裁は「異常な経済」を「金利のある正常な経済」に戻すという意味で、言わば「デフレ脱却宣言」をしたのだ。ここまでは喜ぶべきことだろう。但し、その後がいけない。「引き続き利上げ行いますか?」という問いに対して「そうだ」とこたえた。この一言が致命傷だった。
(8)「異常なことは元に戻る、その戻りのバネを利用するのだ(ジョージ・ソロス)」「愚者は経験からしか学ばず、賢者は歴史に学ぶ(ビスマルク)」
第2部;中長期の見方
(1)暗雲垂れこめる米経済
(2)米景気不安が急拡大、FRBの大幅利下げ論が台頭
(3)下手をすれば、自壊作用を起こす自民党
(4)「投資家は失敗から学ぶ」と筆者は時々言うが、失敗の数は限られている。
(5)全国1位の銀座路線価、バブル期の水準も優に超えている。
(6)「賃上げ景気の実力」
第3部;読者との交信欄
古くからの読者で、博士号保持の投資家K先生との交信(8月5日受信)

【プロフィール】
山崎和邦(やまざき・かずくに)
1937年シンガポール生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券入社後、1974年に同社支店長。退社後、三井ホーム九州支店長に、1990年、常務取締役・兼・三井ホームエンジニアリング社長。2001年、同社を退社し、産業能率大学講師、2004年武蔵野学院大学教授。現在同大学大学院教授、同大学名誉教授。大学院教授は世を忍ぶ仮の姿。実態は現職の投資家。投資歴57年、前半は野村証券で投資家の資金を運用、後半は自己資金で金融資産を構築、晩年は現役投資家で且つ「研究者」として大学院で実用経済学を講義。
趣味は狩猟(長野県下伊那郡で1シーズンに鹿、猪を3~5頭)、ゴルフ(オフィシャルHDCP12)、居合(古流4段、全日本剣道連盟3段)。一番の趣味は何と言っても金融市場で金融資産を増やすこと。
著書『投機学入門』『投資詐欺』(講談社)など多数。
ツイッター https://twitter.com/toukinoryugi

【著書】
『賢者の投資、愚者の投資』
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『投資で勝ち続ける賢者の習慣』
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その他、著書多数。以下よりご覧ください。
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