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触れると戻った私の時計

ヒロくんの彼女が

他の誰かだったら

私は勝てた気がする。


修学旅行の班決めのとき、
ふと、そんなことを思った。


相手がどんなに強敵でも
美奈ちゃんじゃなければ
私は勝てた気がする。


…なんて。
思っても遅いし、
別にもう、思わない。

とっくに諦めてる。


だけど、修学旅行の班長会議で
菜緒って呼ばれたときに、
ふと、過去の想いが蘇った。


ヒロくんとは部活が一緒。


でも、バンドは違うし、
私のバンドはTHIEFほど頑張ってないし

ただ、ライブの時とか
割と顔を合わせたり、

私も人見知りしないし、
ヒロくんは優しいし、

いいなって思ってたら
ヒロくんに相談された。


「俺、春日のことが好きなんだよね。」


これ、女子で相談したの
菜緒が初めてだからって、

そう言われたとき、
嬉しさのが大きかった。


でも、寂しさっていうのは
少しでもあるだけで

破壊力がすごい。


「…春日って、
春日美奈ちゃん?」

「そう。
つか、それ以外いなくね?」


美奈ちゃんは本当にイイコ。


多分、女子だったらみんな
そう答えると思う。


美奈ちゃんには敵がいない。

悪く言って八方美人。


クラスに一人、いるかいないかの
誰とでも仲良くできるイイコ。



「おーい、菜緒ちゃん?
話聞いてくれてる?」


大人っぽい落ち着いた
少し低い声が、すき。

からかう時に私を、
ちゃん付けするのもすき。

ためらうことなく、
私の頭を撫でるのは

ちょっと、いや。


これ以上を期待させるような行為。

分かってそうで分かってないとこ、


もっと好きになりそうで

だから、いや。


「ヒロくん、
美奈ちゃんは難しいぞ!
ハードル高いし、見る目あるし。

さすが、イイとこに目をつけたね!」

「応援してくれますか。」


「もちろん。
応援してあげましょう!」


そこで、私のヒロくんへの想いは

ぷつん、って、終わった。


◇◆



「菜緒、聞いてる?」


ヒロくんは覗き込むように
心配そうに私を呼んだ。


「え!ごめん!どうした?」

「二日目の行動班一緒ね。よろしく。」

「あ、うん、了解。」


私の肩に

ためらわずに手を置く、


ヒロくんが、いや。


「菜緒、どした?」

「いや、別に?
逆に、ヒロくんどした?」


「俺は美奈とが良かったので
落ち込んでいます。」


堂々とノロけるヒロくん、

すき。


「じゃあー、班の番号は
反時計回りで決めようか。」

「は?!なんで反時計回り?」

「いや、なんとなく?」


そんな会話を隣でするヒロくん。


私の時計もいま、一瞬、

反時計回りした。



触れると戻った私の時計







**


私とヒロくんが話してたら
「ひろー!」
って手を振ってから

私を見て笑った美奈ちゃん。


「菜緒ちゃーん!
やっほー!」

「やっほー…?」

「いや、美奈のテンションに
菜緒ついてってないの理解して。」


楽しそうに笑ってから
美奈ちゃんは、じゃあね、と
ヒロくんから離れた。


「え、いくの?」

「うん。
だって菜緒ちゃんと話してるじゃん。
てか、邪魔してごめん。
遠くからだと見えなかったのよ。」


その、余裕そうな感じ。

私を疑わない感じ。

嫌味なく笑える感じ。


その強さが私にはないし、

だから、やっぱり、


美奈ちゃんて

イイコだ。






2012.05.11
hakuseiさま
反時計回り

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