見出し画像

穢れるくらいなんてことない


私をベッドに押し倒して、

だけど先輩はそのまま

私の上からゆっくりどいた。


「…ごめん、」


先輩の口からは最近、頻繁に
その言葉が吐き出される。


「ごめん、スズ、
こんな俺で、ごめん。」


辛そうに、苦しそうに
薄暗い部屋の中で
先輩はそう呟く。


ごめん、の後に必ず
私の名前を続けるくせに

私を見て謝ることはなくて。


私はそのごめん、の意味が

段々分かってきた。



こんな俺でごめん。


こんな汚い俺でごめん。



そう言いたいんでしょう??



いつだったか、私は先輩に
「お互い過去を捨てましょう」
なんて、安易な発言をした気がする。

…安易??それは違う。

あの時はあの言葉が
先輩を救うって
そう、確かに思ったの。

きっと先輩だって

一瞬は、救われた。


でも、あくまで一瞬。


だってスグに気付くもの。


忘れることなんてできない、

忘れるなんて許されない、


それくらい、スグ気付く。


ねぇ、先輩。


私はそんなに

綺麗ですか??



「…なに、謝ってるんですか??」



先輩に抱かれた今もなお

まだ、私は


綺麗なままですか??



まだ私たちの世界は

違うままですか??



「私に謝ったって

何も変わりませんよ。」



わざと冷たくそう言って

先輩の唇に唇を重ねた。



あなたはまだ

私のモノじゃない??



だったら、私が

あなたのモノになる。



「先輩が謝るべきなのは

私では、ないです。」


そう言ったら

少し苦しくなった。


そう、あなたは結局の所
私の隣にいるようで、

私の側にいるようで、


どこか、きっと

他のヒトのものなのでしょう??


「…私に謝っても

何の償いにもなりません。」


ラクだった。


先輩は汚くないです、と

もう昔のことですよ、と

慰めるのは


ラクだった。


現実から目を背けて
自分は何も分かっていない
純粋でひたむきな彼女でいるのは

本当に、ラクだった。



でも。



「先輩が汚いなら
それを分かってるのに
先輩と居る私は

もっと、汚いですよ。」


「…スズ、それは、」


「だから先輩はこれからも

苦しまなきゃ、ダメなんですよ。」



貴方がどちらにせよ、
苦しいんだと言うのなら



「…先輩はどっちにしろ

苦しいんですよ。」



なら、私もその苦しみを

一緒に感じることくらい


貴方を受け止めるくらい


たやすく、こなせる。



穢れるくらい
なんてことない







**


貴方を愛する為なら

いくらだって染まるし

いくらだって汚れるし

いくらだって捧げるし


どんなモノでも

差し出す覚悟くらいはある。






2011.02.26

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?