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多分これが最後の言葉

遠くなったなぁ、と
しみじみと思ってしまった。


「愛子。」


幸也の声が久々に頭をよぎった。

私、あんなに遠くにいる人に
隣で名前で呼ばれて、
手を繋いで、キスをして、愛し合って

そして、
別れたんだ。


「あいこー?どーしたの?」


一緒にきた友達がふと、
気づいたように私の肩をゆする。


「え?なにが?」

「いや、いまかなりボーッとしてなかった?
ライブ中にボーッとするとか
どーした?疲れた?」


友達は心配そうに声をかけて
私は笑顔で首を振った。

大丈夫。
幸也は私に気付かない。


大学で知り合った友達が
本当に奇跡みたいなんだけど、
元カレのやってるバンドのファンだった。

私は中学以来
幸也には会っていない。

高校の文化祭に行ったときも
とうとう声はかけられなかった。

きっと幸也のことだから
私を見たら笑いかけて
話しかけてくるんだろうけど。


そんな彼が好きで、

そんな彼だから別れた。


前の方で蘭ちゃんを見かけて
自然と頬が緩んだ。


怒ってしまう自分よりも
ここで笑える自分が好きだ。


思ったよりも
時間は流れていたらしい。

幸也の身長は心なしか伸びていて
でも、それでも小さいけれど。

ギターを弾く指も
その指もとを見つめる目も
弾いてる時に少しだけ
唇を噛む仕草も


あぁ、こんなに

遠くなったんだね。


一瞬顔を上げた貴方が探すのは
それでも、やっぱり、蘭ちゃんで。

変わらない貴方を見つけて
少しだけホッとした。


私もあれから変わったのよ。

髪を切って、化粧も濃くなって
来年就職するし、
年上の彼と付き合って三年、

もうすぐ籍を入れる予定。


学生結婚なんて、

するキャラじゃなかったでしょ?


きっとおめでとうって
笑って言ってくれるんでしょうね。

肩でも叩いてくるんでしょうね。


その手は相変わらず

男らしいんでしょうね。


好きでした。

だから、もう、会えないけど。


またね、って

気持ちだけでも見栄を張らせて。



多分これが
最後の言葉







**


一瞬、目が合った気がして

俺は思わず手が止まりかけて

だけど人違いな気もして


いま少しだけ

懐かしい気持ちになった。






2012.09.15
hakuseiさま
またね

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