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斗花
2022年10月3日 21:57
俺には才能に満ち溢れてしまった兄がいる。「陽兄、なんか、今朝こんな手紙が来てたよ。」「あー、懸賞だ。千早に送れって言われてたやつ。やっぱり当たったな。」くじ運とか、ツキとか言われる非科学的な才能に始まって、学業はもちろんのこと、運動はなんでもできてしまっていた。そんな兄を持って大変だろうと人々は俺を哀れみがちだが俺はそんなこと思ったことはなく、むしろ、
2023年2月6日 21:39
桜先輩の愚痴を聞き始めて、はや一時間。こんな機会がくるとは思ってもいなかったので正直、若干の自己嫌悪を覚えている。「けっきょく、私は伊達のママなのよぉ!」酔っ払ってるのも、まぁ、面倒とかあんまり思わないからそんなに嫌ではないし。「…飲み過ぎでは?」「りょーすけも飲め!」「いや俺は…、」未成年とか以前に俺まで飲んだら収拾つかない。しかし、なんでこんなことに。
2023年2月1日 03:16
冴島はたぶん、変な子だ。俺は今までたくさんの女を見てきたがその中でも冴島は変だ。「流星先輩ってぶっちゃけ、何人抱いたんですか。」淳士のバイト先に行ったら偶然、冴島がいて送らなくちゃいけなくなってそう聞かれた時に思った。そもそも、こいつと二人きりなんてなりたくてなるもんじゃないし、なってしまったことを激しく後悔した。「…いや、かぞえきれ、」「かぞえて
2023年1月5日 23:55
義旭の声は朝のその空気にぴったりな鋭くて突き刺すような冷たさだった。「淳士、悪かったな。」メールが来たのは5日前。大会の引率に人が足りないから手伝って欲しいとのこと。朝の五時に伊達道場集合というなんともキツいバイトだった。給料は京子さん価格で労働基準法に安安と違反していた。しかし、自転車を漕いで義旭の家に向かいながら俺は考えてしまった。まるで、いつかの朝だ。
2022年12月29日 17:29
俺はスズが好きだ。毎日好きだ。飽きることなく好きだ。多分、明日も好きだ。なんでだろう。スズは美女ではない。寝相が悪い。寝起きも悪い。口うるさい。話が長い。たまにヒステリック。割とすぐ泣く。変なあだ名をつけたがる。噂話が意外と好きだ。おせっかい。無駄に社交的。すぐ趣味をつくる。韓国語とか料理とか。俺の悪口をすぐ伊達に言う。俺の悪
2022年12月23日 00:28
流星先輩って、電気を消すとき、無意味に高速でパチパチって付けたり消したりする。使わないのにスリッパを玄関に綺麗に並べる。別に風邪引いてないのに話しながら鼻をすする。私が髪を束ねると引っ張る。寝る前にベットで足をバタバタさせる。たい焼きは半分にして真ん中から食べる。買い物のときは買いもしないし分かりもしないのにトマトの質をチェックする。お風呂では必ず歌
2022年11月23日 17:23
私は実験台なのかもしれない。そう思う瞬間が恋をしているとどうやら、あるらしい。「実験台って。なんのよ?」「幸せになるための。」幸せになるための実験台。桃子ちゃんは資料から顔を挙げて私のことを見た。相変わらず優しい目だった。「安川くんと喧嘩でもしたの?」「してないよ。だけど思ったんだよ、昨日。」私に優しくする理由とか私と付き合う理由とかそういう
2022年11月15日 10:00
遠距離恋愛、って言葉はなんだか俺を恥ずかしくさせる。確かに俺と冴島は遠距離恋愛だが、なんだか、その言葉は俺たちには全く似合ってないように思えて仕方ない。こんなことを言うのは冴島みたいで嫌だが、俺たちの関係を言葉にするのは結構、難しいのだ。例えば今日の朝も俺は意気揚揚と家のポストを確認して、手紙が入っていたらどっと疲れが込み上げる時がある。きっとこれは普通の遠
2022年11月9日 09:46
好きって感情はどんな風にすれば上手く伝わるんだろう。「…え?なに、そうちゃん、次はポエマーでも目指してるの?」「お前には分からないだろう。俺のこのなんとも言えない切ない感情の交差を。」「わー、難しい言葉たくさん使えたねー。」教科書を読みながら興味なさげにそう言ったギンの頭を俺は強めに叩いてやった。「なんだよ、褒めたんだよ?」「バカにされてんだよ!」あぁ、
2022年11月1日 12:12
俺の発言にそうちゃんはポカンと間抜けな顔になる。ギンちゃんは笑いを堪えるのに必死だ。「空、お前マジでそれ言ってんの?」「うん。梅ちゃんて、美少女だよね。」ギンちゃんは堪えられなくなったらしく声を挙げて爆笑した。「九条さんが美少女?!空って頭おかしいの?!」「いや、ギン、言い過ぎ。」そう言ってるそうちゃんも涙出るレベルで笑ってるし。…なんでだよ。なにがそん
2022年10月26日 15:22
楽しそうにカタログを見るゆきくん。私はこの時間のゆきくんは誰も知らないんだろーなーってぽけーとしながら思う。「蘭ちゃん、見てこれ!新製品だって!新しいギターが出たんだって!」「へぇー。」「いいなー、これ!チューニングも狂いにくいし、耐久性もあるし、なにより音が柔らかい!」私、音楽のこととか全然分からないしギターのこととかちんぷんかんぷんだけど、まだ弾いてもな
2022年10月20日 09:05
人には苦手というものがあってこの、一見完全無欠に見える俺の彼女片岡都ちゃんにも実はそれは数多く存在する。「…なに作ってんの?」「うさぎだよ。」都ちゃんの部屋に久々に行って何やら勤しんでるのを横目に漫画を読んでいたら紙粘土で謎の物体を作り出す都ちゃんに俺は笑いが堪えきれなくなる。「それがうさぎ?!」「ち、ちょっと、笑わないでよ!」「なに?!なんでそんなのつ
2022年10月12日 18:08
先輩にはずっと言えてなくて、これから先も言う予定がなくて、実はとてつもなく好きなことがある。夜明けの近づく時間になると先輩が夜のバイトから帰宅して静かに静かに寝室に入ってきてたまに、目が覚めるんだけど、(もちろん起きれないことがほとんど)そんな時も顔をあげておかえりなんて言わない。私はひたすら寝たふりを続けてまぶたがピクリと動かないようにスヤスヤの寝息のリズ
2022年9月27日 11:02
夜中にふと、目が覚めて横を見ると先輩は寝息を立てて眠っていた。時計を見ると、午前二時。…あぁ、また先輩が帰ってくる前に寝てしまった。ほんの少しの罪悪感を感じつつ静かにベットから降りる。冷蔵庫を開けると先輩と食べようとしていたプリン。賞味期限は既に二日過ぎていて私はなんだか甘いものが欲しくて明日は先輩と会う予定がない。…食べてしまおう。そう思って、食器棚か