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mini story * 2011

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2011年が舞台の物語。 (書いた年は2011年とは限りません) 主要キャラが大学生だった頃です。
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記事一覧

才能に満ち溢れる兄

才能に満ち溢れる兄

俺には

才能に満ち溢れてしまった兄がいる。

「陽兄、なんか、
今朝こんな手紙が来てたよ。」

「あー、懸賞だ。
千早に送れって言われてたやつ。

やっぱり当たったな。」

くじ運とか、ツキとか言われる
非科学的な才能に始まって、

学業はもちろんのこと、

運動はなんでもできてしまっていた。

そんな兄を持って大変だろうと
人々は俺を哀れみがちだが
俺はそんなこと思ったことはなく、

むしろ、

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さみしくないもんなんて、強がり

さみしくないもんなんて、強がり

桜先輩の愚痴を聞き始めて、はや一時間。

こんな機会がくるとは思ってもいなかったので正直、
若干の自己嫌悪を覚えている。

「けっきょく、私は伊達のママなのよぉ!」

酔っ払ってるのも、まぁ、
面倒とかあんまり思わないから
そんなに嫌ではないし。

「…飲み過ぎでは?」

「りょーすけも飲め!」

「いや俺は…、」

未成年とか以前に
俺まで飲んだら収拾つかない。

しかし、なんでこんなことに。

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お揃いの瘡蓋

お揃いの瘡蓋

冴島は

たぶん、変な子だ。

俺は今まで
たくさんの女を見てきたが
その中でも冴島は変だ。

「流星先輩ってぶっちゃけ、
何人抱いたんですか。」

淳士のバイト先に行ったら
偶然、冴島がいて

送らなくちゃいけなくなって
そう聞かれた時に思った。

そもそも、こいつと二人きりなんて
なりたくてなるもんじゃないし、

なってしまったことを
激しく後悔した。

「…いや、かぞえきれ、」

「かぞえて

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まるで、いつかの朝のようだった

まるで、いつかの朝のようだった

義旭の声は
朝のその空気にぴったりな
鋭くて突き刺すような冷たさだった。

「淳士、悪かったな。」

メールが来たのは5日前。
大会の引率に人が足りないから
手伝って欲しいとのこと。

朝の五時に伊達道場集合という
なんともキツいバイトだった。
給料は京子さん価格で
労働基準法に安安と違反していた。

しかし、自転車を漕いで
義旭の家に向かいながら
俺は考えてしまった。

まるで、いつかの朝だ。

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なんでだろうってそりゃそうだ

なんでだろうってそりゃそうだ

俺はスズが好きだ。

毎日好きだ。飽きることなく好きだ。

多分、明日も好きだ。

なんでだろう。

スズは

美女ではない。

寝相が悪い。

寝起きも悪い。

口うるさい。

話が長い。

たまにヒステリック。
割とすぐ泣く。

変なあだ名をつけたがる。

噂話が意外と好きだ。

おせっかい。

無駄に社交的。

すぐ趣味をつくる。
韓国語とか料理とか。

俺の悪口をすぐ伊達に言う。

俺の悪

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黙認事項とわがまま

黙認事項とわがまま

流星先輩って、

電気を消すとき、
無意味に高速でパチパチって
付けたり消したりする。

使わないのに
スリッパを玄関に綺麗に並べる。

別に風邪引いてないのに
話しながら鼻をすする。

私が髪を束ねると引っ張る。

寝る前にベットで
足をバタバタさせる。

たい焼きは半分にして
真ん中から食べる。

買い物のときは
買いもしないし分かりもしないのに
トマトの質をチェックする。

お風呂では必ず歌

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幸せの実験

幸せの実験

私は実験台なのかもしれない。

そう思う瞬間が

恋をしていると

どうやら、あるらしい。

「実験台って。なんのよ?」

「幸せになるための。」

幸せになるための実験台。

桃子ちゃんは資料から顔を挙げて
私のことを見た。

相変わらず優しい目だった。

「安川くんと喧嘩でもしたの?」

「してないよ。
だけど思ったんだよ、昨日。」

私に優しくする理由とか

私と付き合う理由とか

そういう

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そんなヌルいもんじゃない

そんなヌルいもんじゃない

遠距離恋愛、って言葉は

なんだか俺を恥ずかしくさせる。

確かに俺と冴島は遠距離恋愛だが、
なんだか、その言葉は俺たちには
全く似合ってないように思えて仕方ない。

こんなことを言うのは冴島みたいで嫌だが、

俺たちの関係を言葉にするのは
結構、難しいのだ。

例えば今日の朝も俺は意気揚揚と
家のポストを確認して、

手紙が入っていたら

どっと疲れが込み上げる時がある。

きっとこれは普通の遠

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君にあったら苦しくなるのに

君にあったら苦しくなるのに

好きって感情はどんな風にすれば

上手く伝わるんだろう。

「…え?なに、そうちゃん、
次はポエマーでも目指してるの?」

「お前には分からないだろう。
俺のこのなんとも言えない
切ない感情の交差を。」

「わー、難しい言葉
たくさん使えたねー。」

教科書を読みながら
興味なさげにそう言ったギンの頭を
俺は強めに叩いてやった。

「なんだよ、褒めたんだよ?」

「バカにされてんだよ!」

あぁ、

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誰にも伝わらないとして

誰にも伝わらないとして

俺の発言にそうちゃんはポカンと間抜けな顔になる。
ギンちゃんは笑いを堪えるのに必死だ。

「空、お前マジでそれ言ってんの?」

「うん。

梅ちゃんて、美少女だよね。」

ギンちゃんは堪えられなくなったらしく
声を挙げて爆笑した。

「九条さんが美少女?!
空って頭おかしいの?!」

「いや、ギン、言い過ぎ。」

そう言ってるそうちゃんも
涙出るレベルで笑ってるし。

…なんでだよ。

なにがそん

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ギャップを知るのは私だけ

ギャップを知るのは私だけ

楽しそうにカタログを見るゆきくん。

私はこの時間のゆきくんは
誰も知らないんだろーなーって
ぽけーとしながら思う。

「蘭ちゃん、見てこれ!
新製品だって!
新しいギターが出たんだって!」

「へぇー。」

「いいなー、これ!
チューニングも狂いにくいし、
耐久性もあるし、
なにより音が柔らかい!」

私、音楽のこととか全然分からないし
ギターのこととかちんぷんかんぷんだけど、

まだ弾いてもな

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我が彼女よ、完璧であれ。

人には苦手というものがあって

この、一見完全無欠に見える俺の彼女
片岡都ちゃんにも

実はそれは数多く存在する。

「…なに作ってんの?」

「うさぎだよ。」

都ちゃんの部屋に久々に行って
何やら勤しんでるのを横目に
漫画を読んでいたら

紙粘土で謎の物体を作り出す都ちゃんに
俺は笑いが堪えきれなくなる。

「それがうさぎ?!」

「ち、ちょっと、笑わないでよ!」

「なに?!なんでそんなのつ

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だって好きなんだもん

だって好きなんだもん

先輩にはずっと言えてなくて、
これから先も言う予定がなくて、

実はとてつもなく

好きなことがある。

夜明けの近づく時間になると
先輩が夜のバイトから帰宅して
静かに静かに寝室に入ってきて

たまに、目が覚めるんだけど、
(もちろん起きれないことがほとんど)

そんな時も顔をあげて

おかえりなんて言わない。

私はひたすら寝たふりを続けて
まぶたがピクリと動かないように
スヤスヤの寝息のリズ

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邪魔くらいがいい

邪魔くらいがいい

夜中にふと、目が覚めて横を見ると
先輩は寝息を立てて眠っていた。

時計を見ると、午前二時。

…あぁ、また先輩が
帰ってくる前に寝てしまった。

ほんの少しの罪悪感を感じつつ
静かにベットから降りる。

冷蔵庫を開けると
先輩と食べようとしていたプリン。

賞味期限は既に二日過ぎていて

私はなんだか甘いものが欲しくて

明日は先輩と会う予定がない。

…食べてしまおう。

そう思って、食器棚か

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