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ブラームスとクララ・シューマンは恋愛関係にあったのか《2》

前回はこちら。

「不倫を匂わせる」とされてきた逸話


 ブラームスとクララの関係をめぐる逸話として有名なのは、シューマンの最期の言葉でしょうか。クララに看取られた際、「僕は知っているよ」と呟いたといわれますが、これがクララとブラームスの不倫を指しているというのです。
 また、クララとの間の最後の子供であるフェリックスは、シューマンが入院した一八五四年の六月に生まれていますが、彼の実際の父親はブラームスであるという噂もあります。

不倫の証拠としては薄弱


 もっとも、フェリックスの実父をめぐる噂については、シューマンの日記を読めばすぐ否定できます。クララの妊娠が確実であることが書き留められたのは、ブラームスが初めてシューマン家を訪れたわずか三日後、一八五三年十月三日のことです。
 シューマンの最期の言葉にしても、彼は重篤な精神疾患を患っており、整合性のある言葉であった保証はありません。

 実際のところ、二人の間に不倫の関係があったとする証拠は存在しません。ならば、先に述べた話も全くのでたらめで、根拠がないのでしょうか。

実際の二人の関係はどうだったのか

 ヨハネス・ブラームスとクララ・シューマンの関係が、単なる友情を越えた深いものであることは、これまでも指摘されてきました。

 シューマンの自殺未遂の一報を聞いたとき、ブラームスはすぐさまデュッセルドルフに駆けつけ、献身的と言えるほどシューマン家に協力しました。出版社や投資物件からの収入、家賃や召使の給料などの事細かな支出をつける仕事を引き継いだのです。
 シューマンが亡くなる前年の一八五五年、一家は新しいアパートに引っ越しますが、ブラームスは同じ建物に一室を借り、シューマン家に自由に出入りしていました。ブラームスは、ほとんどシューマン家の一員として扱われていたといってもいいでしょう。外部から見たクララとブラームスの関係性が、下世話な憶測を招きかねないものだったのは確かです。

(続き)


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