#207 インクルーシブデザイン
最近インクルーシブデザイン (inclusive design) というデザイン手法を知りました。
インクルーシブデザインとは、障がい者や高齢者、外国人、乳幼児など、従来の製品やサービスでは満たされない多様なニーズを持つ人々を考慮し、製品やサービスのデザインを行う手法です。
これまでの新商品開発では、平均的なユーザーをターゲットとすることが主流でした。これは、より多くの人々に受け入れられることで、ヒット商品が生まれると考えられていたからです。しかし、経済が成熟した社会では、平均的なユーザーの声だけを聞いて商品を差別化するのは難しくなっています。
そこで、障がい者や高齢者、外国人といった「極端代表=リードユーザー」の視点を取り入れることが重要になります。彼らの悩みや不便さをデザインプロセスの初期段階で調査し、その過程で潜在的なニーズを掘り起こすことで、先入観を打破した商品開発が可能になります。
実は「インクルーシブデザイン」という言葉を初めて知ったのは、友人から突然飲みに誘われたことがきっかけでした。その友人は車椅子で生活しているのですが、東京・豊洲で開催されたインクルーシブデザインのアイデアソン(※1)にリードユーザーとして参加し、その帰りの新幹線で、その経験を共有したいと連絡をくれたのです。
そのアイデアソンには、トヨタやコクヨといった名だたる企業が参加していたことに驚くと同時に、インクルーシブデザインという手法を知らなかった自分を少し恥じました。また、教えてくれた友人に心から感謝しました。(詳細はここで語らずリンクを張っておきます。)
その後、私自身も日頃新商品開発に携わっていることもあり、改めてインクルーシブデザインについて調べることにしました。簡単に言えば、リードユーザーの意見を取り入れながら、ブルーオーシャンだけでなく、さらに上流にあるブラックオーシャンの段階から商品を構想し、その後ブルーオーシャンからレッドオーシャンへと展開していくイメージでしょうか。
例えば、テレビの字幕機能は元々聴覚障がい者向けに開発されたものだったと思いますが、現在では病院の待合室など音がない方がメリットが多い場面で役立っています。私自身も、大河ドラマを観る際に歴史上の人物名などを理解するために、日本語字幕を利用しています。現在の大河ドラマ『光る君へ』では、〝あきこ〟さんが3人(詮子、明子、彰子)出てくるのですが、音だけでは覚えられません。こうした副次的な効果は、インクルーシブデザインの効果を象徴していますね。
また、アスクルの「かどまる」は、ティッシュボックスの角を丸くすることで乳幼児の怪我を防ぐ目的で開発されましたが、全世代から支持を集め、ヒット商品となりました。このように、特定のニーズに応えるデザインが、より広い層に受け入れられる例は少なくありません。
インクルーシブデザインは、多様な人々の視点を取り入れることで、新しい価値を生み出す力があります。特定のニーズに応じたデザインが、結果的に多くの人々に受け入れられることは少なくありません。これからは、多様性を意識したデザインが、より広い層に愛され、成功する製品やサービスを生む鍵になるでしょう。