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「高慢と偏見」 (下) ジェーン•オースティン 感想文

「不似合いな夫婦の間に生まれた子供に必ずつきまとう不利益を、今ほど強く感じたことはこれまでになかった」岩波文庫 下巻 p.40
エリザベスはそう思っていた。

品位を持たなかった母と妹たちへの彼女悩みは、階級ということ以上に苦しかったであろうと思った。

自分をつくった家庭の現実からは理想の幸福は描けなかったのだ。

上巻の最後のダーシーの手紙に書かれていたように、「あなたのお母さまや三人の妹さんがしばしば申し合わせたようにまるで礼を欠いたことをなされ」との言葉がエリザベスの心を深く傷つけた。 
何より自分が一番感じているからだ。

父は、母と妹三人には一切介入しない。
「妻の了見を大きくさせることも、娘たちに品位を持たすことも」しなかった。それが精一杯だったのだ。
「才能をもちながら、使い道をあやまったために生ずる禍」p.40 

父自身の生きたかった本来の姿ではない。

父の母への愛情はとても早い時期に冷めていたのだった。

引用はじめ

「若さと美しさが普通与えるところのあのうわべだけの上機嫌に心をうばわれて、一人の女と結婚したのであったが、その女は理解力が弱く心が偏狭なので、結婚すると間もなくその女にたいする真の愛情はおわりを告げたのであった。尊敬と好意と信頼は永久に消え、家庭の幸福という考えはすっかりくつがえされた。けれどもベネット氏は自分の軽率から出た失望のかわりに、よく不運なひとたちが、自分の愚かさ慰めとする快楽に、慰安を求めるようなたちの人ではなかったー中略ー

真の哲人というものは、与えられるものからせいぜい利益をひきだすものなのである」岩波文庫 p.39 40

引用おわり

結婚してすぐに父はすでに家庭の幸福を放棄したという悲しい現実があったのだ。
一組の夫婦の安易な結婚が、子供の将来をも左右してしまう。
しかし、父は父のやり方で、欲望には走らなかった。

絶望の父がやむをえなく選んだ生き方をエリザベスはしっかりと見つめ理解して、哲人となすに足る父を尊敬している。

エリザベスの理知と想像力は、この不幸な家庭から生まれていったのである。
またこの現実が、エリザベスを成長させたとも思った。
エリザベスがいなければ今に至るベネット家はなかったと感じる。

エリザベスは、その変えられぬ与えられた環境の中で苦悩し、大きな幸せを勝ち取っていったのだ。

「あたえられるものからせいぜい利益を引き出すのである」

父とエリザベスはとても似ていた。

「夫婦生活の幸福とか家庭の楽しみ」など父と娘は想像しえなかった。その中で確固たる信念をもった生き方を、苦しみながら見つけていったエリザベスが、とても輝いて見えた。
ありとあらゆる「高慢と偏見」の中で。


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