<子宮頸がん検診で異常が見つかったら>

「子宮がん検診で異常が見つかりました。主治医と相談する時間も限られており、今後はどうなるのかが想像がつかなくて不安です。ぜひ解説して下さい。」という要望を頂く機会が多かったので説明します。
なお私は卒後10年以上臨床に従事してきた産婦人科専門医であり、子宮頸がんの論文で医学博士号を取得していますが、無名の匿名医師です。
もちろん世の中には自分なんかよりも著名な専門家も多数いますが、Twitterで情報を発信している方はごく少数かと思います。
解説するにあたり用語は可能な限り平易な表現を用いていますが、改善点などがあれば指摘して頂ければ幸いです。

まず子宮頸がん検診は、最も有効性の高いがん検診の一つです。必ず受けましょう。
検診を受けて必要に応じて治療をすれば、子宮頸がんで死亡する確率は高くはありません。ただし、一部の非専門家(つくば市議会議員・小森谷さやか氏、立憲パートナーズ・はたともこ氏)が主張するような
"検診さえ受けていれば妊娠も出産もほぼ100%大丈夫"
という主張は誤りです。我々産婦人科医は、そうではない患者さんを数え切れないほど診ています。

ここで結論を先に書いておくと
"検診を受けていれば、癌化しても多くの方は子宮の一部を焼灼する手術(レーザー蒸散術)や子宮の一部を取る手術(円錐切除術)で済む。ただし妊娠トラブル、早産・未熟児の危険性が高まる事がある。手術の結果、予想よりも癌が進行していて子宮摘出が必要になる方もいる。
また、子宮頸がん検診で見つけづらいタイプの癌も2-3割あるので、このタイプだと検診での発見時に既に癌が進行しており、速やかに子宮摘出を要したり、それだけでは済まずにリンパ節郭清や放射線治療や化学療法を要して、後遺症に苦しむ事がある。そういった方の何割かは治療の甲斐なく死亡する。"
これが現状の子宮頸がん検診の限界です。
以下は上記の内容の補足なので、ここまででも理解して頂ければ十分かと思います。


子宮頸がん検診で異常が指摘される方の多くは"前癌病変"です。前癌病変というのは
"細胞が少し変だから、念のため年に数回は検診をしておこう"
というものから
"いや、これは近いうちに癌になってもおかしくないでしょ"
というものまで幅広く含まれます。
前者であれば癌化するのは10%以下であり、後者であってもせいぜい50%程度です。
ここで保険適応の範囲は限られますが、特に前者に対してHPV(ヒトパピローマウィルス)というウィルスの検査をします。ウィルス検査が陰性ならば、癌化の可能性はほぼありません。なぜならば、子宮頸がんはほぼ全例が"HPV感染→前癌病変→癌化"という過程を経る事が、ほぼ確実だからです。
ウィルス検査が陽性であれば、この時点では癌化の可能性は低いのですが、年に数回のがん検診で癌化の兆候がないかを確認していく必要があります。
また、この間にパートナーとの関係が悪化する事があります。正しくHPVを理解すれば、パートナーからHPVを移された可能性や、パートナーの咽頭や肛門や性器に感染させてしまう可能性、最悪の場合はパートナーを発癌させてしまう事も考えてしまうからです。

ここでHPVの性質を簡単に説明すると、主に性交渉などの粘膜接触で感染し、オーラルセックスやキスでも大いに感染し得ます。コンドームを使用しても防ぎきる事は出来ません。
感染者のうち一部の方が持続感染に移行し、そのうちの一部の方で癌化します。
具体的には、日本人女性全体の約1.2%程度の方が生涯で子宮頸がんを発症します。
HPV16.18という型は感染から最短で5年、基本的には10年以上かけて癌化する事が多く、その他の発癌性HPV(52.58など)は感染から数十年かけて癌化する事が多いとされています。
また子宮頸がんだけでなく、男女問わず中咽頭がん・肛門がんなどの半数以上がHPV関連癌とされています。
従って他の先進国の多くは、男性もHPVワクチンの定期接種の対象です。
"男性も女性も、自分もパートナーも守る"
という至極当たり前の考え方です。
また、性交渉開始前にきちんとワクチンを接種しても、数%の方はHPVに対して有効な免疫が得られません。そういった方を守る必要もあります。
余談ですが、自分は男性ですが20代で4価ワクチンを接種して30代で9価ワクチンを接種しています。

現在日本で認可されている4価のHPVワクチンは最も危険性の高いタイプのHPV16.18の感染を予防する効果があり、世界で主流の9価のHPVワクチンはさらにHPV52.58など多数の発癌性HPVの感染を予防します。
20-30代の子宮頸がん患者の約80-90%がHPV16.18によるものですが、HPV16.18は感染成立から癌化までの速度が早いので当然の事です。この世代では、性交渉経験者の約10-15%がHPV16.18の感染者です。
40-60歳以降では性交渉の頻度が下がる方も多く、HPV感染者の絶対数は減少して、癌化速度の遅いHPV52.58などの割合が相対的に増えていきます。

また、子宮頸がんと一括りに言っても、そのがん細胞の種類によって発見のしやすさが異なります。子宮頸がんの代表的な2つのタイプの癌細胞は、扁平上皮癌と腺癌です。特徴としては...
扁平上皮癌: 全体の約70%を占めて比較的進行が遅く、検診で発見しやすい
腺癌: 全体の約20-30%を占めて比較的進行が早く、転移もしやすく、検診で発見しづらい
どちらもほぼ全例でHPVが発癌に関わっている事が示されています。
そして重要な点は、近年このタチの悪い腺癌が急速に増加傾向である事実です。原因は目下のところ不明です。
この他にも子宮頸部にはHPVが関与する、または関与しない稀なタイプの癌細胞も複数ありますが、ここでは割愛します。

検診で発見しやすい扁平上皮癌であれば、がん検診をきちんと受けていれば、多くの方は前癌病変で発見可能です。癌化しないかを年に数回の検査で見ていき、癌化の兆候があれば子宮の一部を焼灼するレーザー蒸散術か、子宮の一部を切除する円錐切除術で殆どの方は完治します。ただし治療によって妊娠トラブル、早産・未熟児の危険性が上昇する事があります。また円錐切除後に、予想以上に癌が進行していた事が判明した場合は、後に子宮摘出が必要になる事もあります。

問題なのは腺癌です。これは細胞の性質上、検診で発見しづらい事は述べました。自分の知る限りでは確固たるデータはありせんが、異常があってもその異常を検出できない事が50%以上はあると言われています。
つまり腺癌は、前癌病変やごく初期の癌で発見できれば上記の扁平上皮癌と同様に、経過を見て必要に応じて治療介入ができますが、より進行した状態で癌が発見される事がしばしばあります。
この場合は、辛い治療が必要になる可能性が非常に高い状況です。子宮を摘出するだけではなく、より広い範囲の子宮周囲の組織や排尿機能を調節する神経を切断したり(広範子宮全摘術)、周囲のリンパ節を根こそぎ摘出したり(リンパ節郭清)、抗がん剤と子宮周囲への放射線照射(化学放射線療法)が必要になります。
治療の後遺症として、自力での排尿が出来ず自己導尿が必要になったり、リンパ浮腫によって両側下肢がパンパンに腫れて歩行すら困難になったり、腸がダメージを受けて腸閉塞を繰り返したり血便が止まらなくなる、といった症状が残る事があります。
ここまでの治療を行っても、約10-20%の方は癌が再発して亡くなります。
また、がん検診で発見した時点で既に肺や肝臓への転移が生じている方もいます。こうなれば治療を行っても、長期生存される方は非常に少数です。

長くなりましたが、これで
「子宮頸がん検診で異常が発見された場合は、その後どのような経過を辿るのか」
という解説が概ねできたかと思います。
これを書こうと思った契機は、がん検診で前癌病変やHPV感染を指摘されて不安を感じ、Twitterを通じて私に連絡を取って来られる方が多かったからです。
医師の外来の限られた時間では上記の説明を丁寧に行う事は困難であり、理解に齟齬が生じる可能性もあります。

現在の日本では毎年、前癌病変で発見される方が3万人以上、進行癌で発見される方が約1万人、治療しても死亡する方が約3000人弱という数字が現実にあります。性交渉歴のある方は全員が例外なく、"運良く感染しなかった、運良く発症しなかった"に過ぎません。誰しもが当事者になり得ます。
検診とHPVワクチン接種を徹底してもこの数字をゼロにはできませんが、激減させる事は可能です。
ワクチンの副反応に関しては今回のnoteでは割愛しますが、正しい知識を得てメリット・デメリットを考えて判断する必要があります。
自分はこれまで数百人の子宮頸がんの患者さんを診てきたので、バイアスがかかっている事も自覚しています。しかし、個人レベルでも社会全体で見てもワクチン接種のメリットの方が圧倒的に大きい可能性が極めて高い、と国内外の多数の専門家及び公的機関が判断しています。
もちろんワクチンを接種しても、子宮頸がん検診は絶対に必要です。ここまで読まれた方ならご理解を頂けたと思います。ワクチンに関しては誤った情報が野放しの状況です。疑問点は必ず医師に相談して下さい。
少しでも正しい知識が普及して、この疾患で不幸になる方が減る事を願っています。

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コメント (1)
こんにちは。
村中医師を支持している者です。
問題になっている、副反応?副作用?についてより深く説明していただけるとありがたいです。
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