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JOSIF KRICHELI傑作選(10)

 それでは、オーソドックス以外の分野に移ろう。フェアリー、セルフメイト、そしてとりわけヘルプメイトの分野でのKRICHELIの作品群は非常に重要であり、多様である。ある意味、KRICHELIはソ連のプロブレム作家の中でもとびきりのフェアリストだったと言っても過言ではない。

(12) Josif Kricheli (Die Schwalbe 1980, 1st Prize)

S#16 (4+8)

 私が特に好きな長編セルフメイトを2作選んでみた(ただし、この作者はS#2やS#3も創作している)。(12)はメレディスであり、これは彼の長手数のオーソドックスを思い起こさせる。白は白枡Bをf5に持っていきたいのだが、このためにはまず黒Rの利きを遮断する為に1.Ba7+! Ka8 2.Bc5+としておく必要がある。以下、2...Kb8 3.Qb5+ Ka8 4.Qe8+ Kb7 5.Bc8+ Ka8/Kb8 6.Bf5+ Kb7と進めて、白Bf5を実現させることができた。今度は黒枡Bをg1に戻さなくてはならない:7.Qb5+ Ka8 8.Qa6+ Kb8 9.Ba7+ Ka8 10.Bg1+ Kb8として、これでミッションは終了した。白枡Bが黒Rの利きを止めてくれるので、白は収束に入ることが可能になる:11.Qb5+ Ka8 12.Qe8+ Kb7 13.Bc8 Ka8/Kb8 14.Bxg4+ Kb7 15.Bc8+ Ka8/Kb8 16.Ba6 Bc8#
 全く隙の無い手順構成ではないか!

(13) Josif Kricheli (The Problemist 1976/77, 1st Prize)

S#16 (4+3)

 (13)は内容豊富なミニチュアである。まず初めに、ミニQ鋸が入る。
1.Qb3+! Ke1! (1...Kc1!なら 2.Rc2+ Kd1 3.Rc3+ で作意に短絡する) 2.Qb4+ Kd1 3.Qa4+ と進み、ここから2つの中分かれ変化がある。
3...Ke1なら、4.Qa5+ Kd1 5.Rd2+ Ke1! (5...Kc1?は、6.Qc3+ Kb1 7.Rb2+で14手目の局面になる) 6.Rf2+! Kd1 7.Qd5+! Ke1! (7...Kc1?も、8.Qd2+ Kb1 9.Qc2+ Ka1 10.Qc3+ Kb1 11.Rb2+でやはり14手目の局面になる) 8.Rf1+! Ke2 9.Qf3+ Kd2 10.Rd1+ Kc2 11.Qd3+ (エコー) 11...Kb2 12.Rd2+ (手なりで12.Rb1?としても、何も得られない) 12...Ka1/Kc1 13.Qc3+ Kb1 14.Rb2+ Ka1 15.Rg2! (新しいQ/Rのバッテリー!) 15...Kb1 16.Qe1+ Rxe1#まで。白のQとRがルントラウフしていることに言及しておこう(テーマに関連するトライは1.Qe1+? Kxe1!である)。
 一方3...Kc1なら、4.Rc2+ Kd1! (4...Kb1 ? だと5.Qb3+ Ka1 6.Qc3+ Kb1 7.Kb2+...) 5.Rc3+!! Kd2/Ke2 (5...Ke1でも6.Qa1+ Kd2 ! 7.Qc1+で作意に還元する) 6.Qc2+ Ke1 7.Qc1+ Ke2 8.Qf1+ Kd2 9.Rd3+ Kc2 10.Qd1+ Kb2 11.Rb3+ (先の変化と上下対称なエコー) 11...Ka2 12.Qc2+ Ka1 13.Qc3+ Ka2 14.Rb2+ と進み、この後の収束は同じである: 14...Ka1 15.Rg2+ Kb1 16.Qe1+ Rxe1#まで。白Q/Rは、先程の手順とは異なるコースを辿ってルントラウフしている。
 ミニチュアにも関わらず2つの長い変化があり、しかもそれらはエコーを含んでいる。傑作と呼んでも差し支えなかろう。

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