見出し画像

渡邊一雄傑作選(1)

はじめに

 渡邊一雄氏の訃報を知ったのは数日前、若島さんのツイートだった。といっても、渡邊氏のプロブレム作家としての顔を知っているのは、プロパラ会員以外にはほぼいらっしゃらないのではないだろうか。そういう方の為に、まずは簡単に氏の作家としての略歴を紹介しておきたい。

 彼が主に手掛けていたのはヘルプメイトで(ただし、オーソドックスやセルフ、フェアリーの作例もある)、発表数はおよそ50局ほどだろうか。その殆どをプロパラに発表していたようだ。彼のユニークな点は、詰将棋を経由せずにプロブレムを作り始めたことだ。元(或いは現)詰キストが多数を占める日本人プロブレミストの中にあって、いわば彼は「純粋なプロブレミスト」だったのである。
 また、作品の検討にコンピュータチェックを使っていなかったことも、現代の作家としては非常に珍しい。同様の作家として上田さんがいるが、彼に言わせると「論理的に余詰まないように作る」のだそうだ。渡邊氏もやはりそういった作り方をしていたのだろう。私はヘルプコーナーの担当をしていた時期に氏から相当数の投稿を受け取ったが、完全率はかなり高かったように記憶している。

 作風については、以下で紹介する作品を見て頂ければすぐにお分かりと思う。配置は洗練されていて無駄がなく、作意手順はいずれも対照性と統一性が明快に表現された模範的なものである。これからヘルプメイトの創作に取り組もうと思っている若い作家には、これから紹介する作品群をしっかり研究してもらいたい。

(1) 渡邊一雄 (Problem Paradise 2005)

H#2 2sols. (3+4)

1.Bb1 Bxb3 2.Ka1 Qh8#
1.Ka2 Bxc2 2.b2 Qa8#

作者―ODT?です。黒P/Bは使わない方が取られます。Sc1は止むを得ない配置。

 まずは軽作から。白QのODT(Orthogonal-Diagonal Transformation)が必要最小限の配置で実現されている。尚、黒Sc1がないと2つ目の解で1.Ka1が成立する。
 氏の作品の特徴の一つである「配置・手順に対する繊細な心配り」が上記コメントからも窺える。無駄な配置を極力減らし、純粋に表現したいテーマを実現しようという創作姿勢には、深く共感を覚える。

(2) 渡邊一雄 (Problem Paradise 2005)

H#3  b)Pd3→f3 (5+4)

a)1.Qxc3 Sf3 2.Qa5 Sg5 3.Qd2 Bb6#
b)1.Qd6 Sd3 2.Qxg3 Sc5 3.Qf2 Bg5#

作者―両解で、Qはメイトに不要な方のPを取ります。そうする事で、動きも限定されます。

 白の手は対称的だが、黒の手はtempo moveを含んで非対称。白Kの配置が絶妙で、この駒一つで黒Qの動きを完全に制御できている。巧いねえ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?