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僕はこんな詰棋本を読んできた

 先日ペン太さんのブログを読んでいたら、「将棋本オールタイムベストテン」というのを見つけた。こりゃ面白いと思い、早速自分でも5冊選んでみた。あんなのもあった、こんなのもあったと、自分の持っている詰将棋の本を段ボール箱から探し出しては読みふける。こういう事をしているときが一番幸せだなあ!


   (1)枻 将棋讃歌

1 枻 将棋讃歌

 私が生まれて初めて出会った詰将棋の本。間違いなく、この本が私の人生を狂わしたのだ(笑)。無論、後悔などしていないが。

 内容を紹介すると、二上達也、内藤国雄、藤沢恒夫の各氏による随想を皮切りに、他にも黒川一郎「私と趣向詰」、駒場和男「創作の限界に立った駒柱」、北原義治「不可解なる哉 詰将棋」などなど、題名を見ただけで絶対読みたくなってしまう随筆がずらりと並んでいる。
 勿論これだけではない。岡田敏氏が「おもしろい詰将棋」で七条兼三の持駒歩18枚の馬鋸作品を紹介すれば、森田正司氏は「珍しい詰手筋」と題してそっぽ行き、重ね打ち、飛先飛香、遠打などを初心者向けに解説している。更に、門脇芳雄氏が「古図式とその流れ―詰将棋の発生から現代まで」で、初期の古図式から宗看、看寿に至るまでの流れを語り尽くす。
 極めつけは「詰将棋の世界―その魅力と鑑賞の仕方」と題した座談会。森田正司、岡田敏、伊藤果、森敏宏の4名が自由に詰将棋について語り合い、その様子が20ページにも渡って掲載されているのだ。これで表紙が駒場和男の「王」なんだから、これ以上望むことがあるだろうか?こんな本が書店売りされていたこと自体、奇跡だとしか思えない。

 この本は、田舎の少年が詰将棋の魅力の虜になるには十分過ぎる程の衝撃を与えてくれた。こうして私の詰将棋人生が始まったのだった。


     (2)名作詰将棋(福田稔)

2 名作詰将棋(福田稔)

 詰将棋というものを発見してから間もなく、書店で見つけた本。表紙の詰将棋には簡単にひっかけられたのを覚えている。
 著者が歴史に造詣が深いからだろうか、余りにも忠実に詰将棋の歴史をなぞろうとして、初心者に紹介する必要があるとは思えない作品も多く含まれているのは、今の目で見ると減点材料。(「荒鷲」「ハーケンクロイツ」などを入れるよりも、黒川一郎、柏川悦夫、山田修司あたりの大物を使って、現代の趣向や構想を紹介した方がずっと良かったのに)
 それでもこの本は、初心者に対して単に易しい詰将棋を提供するのに留まらず、詰将棋の世界に誘うよう意図されているという点で高く評価できる。


   (3)詰むや詰まざるや(門脇芳雄編)

3 詰むや詰まざるや(門脇芳雄編)

 詰将棋を知ってからしばらくは、父の部屋にある近代将棋のバックナンバーを読んでいたのだが、あるとき父の本棚に「詰むや詰まざるや」があるのを発見した。しかも特装版!勿論、詰将棋を始めたばかりの初心者に図巧・無双が解ける筈も無いので、解説を読みながら一局一局盤に並べ、構想が理解できる度に嘆息を漏らしたものだ。
 父は未だに詰将棋に関しては全くの素人なのに、何でこんな本を買ったのだろう?不思議に思って聞いてみたことがある。すると「ある本屋に入ったら、この本が真っ先に目に飛び込んできた。良く分からないがすごい価値のある本のように思えたので、『この本を他の者に読ませてなるものか』と思って、読めもしないのに買ってしまったんだ」とのこと。
 たいして裕福でもなかったのに何故そんな衝動買いをしたのか正直言って良く分からないが(笑)、その妙な直感のまぐれ当たりのお陰で詰将棋人生のごく初期から図巧・無双を知ることになったのだから、感謝しなくちゃね。

     (4)極光(上田吉一)

4 極光(上田吉一)

 これは大学に入学した時、弘前の宮崎旅館に宿泊した際にご主人の宮崎さんから頂いたもの。宮崎さんは昔、近代将棋の解答者番付で横綱(大関だったかも)を張ったこともある実力者で、その旅館は弘前支部の定例会を開く場所にもなっていた筈だが、宮崎さんに「ここに来る四段五段の連中も、さっぱり分からないんだ。良かったらあげるよ」と言われて、喜んで頂いてきたのだ。まあ、指将棋オンリーの四段五段じゃ分からないのも無理は無いか。
 作品は勿論だが、巻末の若島さんによる上田吉一論が圧倒的に素晴らしい。この文章は単なる解説ではなく批評と呼べるレベルにあるし、このような美しい批評が書かれるためには緻密な分析にも耐え得る上田氏の作品群が必要だったのだ。上田氏、若島氏の「我々はここまで詰将棋を進化させた」という自負がこのような作品集を産み出したと言えるだろう。

 尚、初めてACTに参加した時に上田さんからサインを頂いたので、この本はまさしく世界でただ一冊の本である。 

4a 極光(上田吉一)


どうです、羨ましいでしょ(笑)。もし家が火事になっても、この本だけは持ち出そうと真剣に思っている。

    (5)嬉遊曲(吉田 健)

5 嬉遊曲(吉田 健)

 驚くなかれ、この本は私が中学生の頃、青森で行われた将棋大会に参加した時に参加賞として貰ったのだ!中戸さんって、詰将棋の本を出版してくれるのはいいんだけど、その本の価値を全然分かっていないんだよなあ。全く、困ったものだ…(笑)。

 入玉形短編のオーソリティーであり、かつ名文家であるという、私の憧れの作家である。作品もさることながら、配列・構成や解説の文章その他至る所に筆者の美意識の発露を見て取ることができる。短編作家必読の本。

 これにも、創棋会に出席した際にサインを頂いている。貴重さからいえば、多分上田さんよりこちらがずっと上だろう。 

5a 嬉遊曲(吉田 健)


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