オーソドックスの可能性(2-4)
(2-7) Stefan Schneider (Deutsche Schachzeitung 1956, 1st Prize)
#10 (6+4)
白は1.f5+ Kxe5 2.f4としたいのだが、このままでは2...gxf3 e.p.とされて逃れ。この黒Pg4を取り除く算段を考える必要がある。
初手は1.Ba4!だ。これには2.Bd7迄というスレットが付いているので、黒は1...Kf5の1手。
(2-7-1)
1...Kf5とした局面
続いて2.Bd7+ Ke4 3.Bxg4とすれば簡単に黒Pを取ることができるのだが…?
(2-7-2)
2.Bd7+ Ke4 3.Bxg4?と進んだ場合の局面
しかしこれはスレットを持たない為、2...h1=Qとされて、以下3.Bd1 Kf5 4.Bc2+ Qe4で逃れ。つまり、白は黒にh1=Qとする余裕を与えないよう、Bでチェックをかけるか、スレット付きの手を指し続ける必要があるのだ。
よって2.Bd7+ Ke4の後、白はすぐに取れる黒Pを敢えて取らずに自重し、3.Be8と指すことになる(スレットは4.Bg6#)。
(2-7-3)
3.Be8とした局面
ここから3...Kf5 4.Bg6+ Ke6と進むのは必然で、この後5.Bh5(6.Bxg4#) Kf5 6.Bxg4+ Ke4と展開することで、ようやく黒Pを取ることに成功した。
(2-7-4)
6...Ke4とした局面
後は7.Bd1 Kf5 8.Bc2+ Ke6とすれば、初形から黒Pg4がなくなっただけの局面が再現されたではないか!
(2-7-5)
8...Ke6とした局面
勿論ここからは、最初に書いた簡単な収束が待っている。纏めると、作意順は以下の通り。
Try : 1.f5+? Kxe5 2. f4+ gxf3 e.p.!
1.Ba4! Kf5 2.Bd7+ Ke4 3.Be8 Kf5 4.Bg6+ Ke6 5.Bh5 Kf5 6.Bxg4+ Ke4 7.Bd1 Kf5 8.Bc2+ Ke6 9.f5+ Kxe5 10.f4#
a4-e8-h5-d1の4点を結ぶ長方形の辺上を途中停車しながら8手で一周するという、一風変わったBのルントラウフ、如何だろうか。
(2-8) Alexandr J. Schurjakow, Viktor Syzonenko (Chervonyi girnyk 1985)
#12 (6+4)
白の狙い筋は1.Sd3(2.Sb4#) Kc6に対して2.d5+というもの。2...Kc7と逃げれば3.Sb4から4.Sa6で、また2...Kxd5としても3.Sb4+ Ke5 4.f4迄の詰があるが、このままでは1...e1=Q!と受けられて逃れ。従って、(2-7)と同様、白はこの黒Pを取り除く必要がある。また、黒にe筋のPが成る猶予を与えないよう、白がチェックかスレット付きの手で迫り続ける必要があるのも、前作と共通である。
白の初手は1.Se8!だ。これは2.Sf6#というスレットを持つので、黒は1..Ke4とするしかない。
(2-8-1)
1...Ke4とした局面
その後も2.Sf6+ Kf5 3.Sh5(4.Sg3#) Ke4 と展開するのはほぼ自明(3...h1=Sは4.f3がある)。4.Sg3+ Kd5 5.Sxe2(6.Sc3#)で、当初の目的であった「黒Pe2を消去すること」に成功した。
(2-8-2)
5.Sxe2とした局面
この後は5...Ke4 6.Sc3+ Kf5 7.Sb5 Ke4 8. Sd6+ Kd5とすれば、初形からPe2がないだけの局面を得る。
(2-8-3)
8...Kd5とした局面
ここで9.Sd3とすれば、もはや黒に抵抗する手段は残っておらず、9...Kf6に対して10.d5+以下収束する。纏めると、作意順は以下の通り。
1.Se8! Ke4 2.Sf6+ Kf5 3.Sh5 Ke4 4.Sg3+ Kd5 5.Sxe2 Ke4 6.Sc3+ Kf5 7.Sb5 Ke4 8. Sd6+ Kd5 9.Sd3 Kc6 10. d5+ Kc7/Kxd5 11.Sb4/Sb4+ ---/Ke5 12.Sa6/f4#
手順の基本的なアウトラインは(2-7)を踏襲したものになっているが、ルントラウフする駒をSにしたことによって、その軌道もd6-e8-f6-h5-g3-e2-c3-b5-d6といういびつな八角形になっている。
これら2作のように、「ある一ヶ所を除いて完全に局面が復元される」という作品構成は、詰キストにとって馴染み深いものだ。プロブレミストと我々との間に共通する美意識が感じられて、なんだか嬉しくなる。
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