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M.Caillaudレトロプロブレム傑作選(50)

(50) Michel Caillaud (Problem Paradise 69, 2015)

Proof Game in 19.0 moves (15+16)
Hypervolage

Hypervolage:K以外の任意の駒は、今居る場所と異なる色の枡目に移動する度に変色する。ただし、キャスリングではRの色は変わらない。

 一見何の変哲もない配置に思えるが、しばらく図を眺めているとひとつ不自然な点に気付く。それは「白Rが2枚とも白枡にいること」だ。初形配置で2枚の白Rは異なった色の枡目にあり、白の黒枡Rが白枡に移動すると黒Rになってしまうのだから、これはこのルール下では起こりえない状態ではないだろうか?
 勿論、ルールを破ったからこうなった訳ではない。最初に書いてある通り0-0-0ではRは変色しないので、Kを除く5種類の駒のうちRだけは駒の色を変えずに枡目の色を変えることが合法的に可能なのだ!このことから、手順中に0-0-0があったことが証明された。

 しかし、これでもう作者が仕掛けた謎を見破った心算になってはいけない。というのは、実際に白の0-0-0を仮定して手数計算をしてみると、どうやっても白は20手かかってしまうのだ(各自ご確認下さい)。私が解図したときは、ここで延々と試行錯誤を繰り返したのだが(何しろルールがルールだけに「うまくやれば19手の順があるのではないか?」という疑念が拭いきれなかったのだ)、これが不可能と分かれば、論理的に残された可能性は一つしかない。つまり、0-0-0としたのは黒だったのだ!黒が0-0-0とした時点で黒Rは2枚とも黒枡にいることになるが、このうち1枚が白枡に行って白駒になり、逆に白は黒枡にいるRを1枚白枡に移動させて黒Rにすれば、辻褄も合う。

 では、手数計算をしてみよう。白はKが4手、Rd3が2手(h1-h3-d3)、Rg6も2手(Rd8-a8で変色してからa8-a6-g6)、Bが3手(f1-h3-f5-e4)、Pa4/f3/h4が各1手、更にf筋のPも1手動いている(これはf3で黒Pとなり、g筋のPに取られたのだ)。ここまでで15手。残りは4手だ。
一方黒は、Kが3手(0-0-0の後c8-d7-e8)、Qが4手(d8-b8-a7-b8-d8)、Rが1手(0-0-0の後d8-a8)、Bc8が2手(c8-e6-c8)、Sb8が1手(b8-a6)、Pa5/d6/h5が各1手で、ここまでで14手。
 ここで、変色したSa6とPd6を戻すのは白の手だから、白は更に2手追加され、残りは2手しかない。そうなると、白がRa1を白枡で変色させてa8に持って行くためにはRa1-a3-b3とするしかないが、これだと黒が再度色を変えずにこのRをa8に連れて行くのは不可能だ。すると白が1手オーバーしてしまうが、どうすればこれが解決できるのだろうか?
 その旨い解決方法は、Pa4を更に1枡突いておくことだ。これによりRa1はRa4と1手で変色することができ、黒もa4からc4-c6-a6-a8と色を変えることなくRを収めることができる。白はPa4-a5とRa1-a4の2手を加えて19手ちょうど。黒もRa4をa8に持って行くのに4手で、Pa5-a4の1手を加えるとちょうど19手。これでやっと手数計算が合ったことになる。あとは実際に駒を動かしてみるのが早いだろう。

1.a4 d6(=w) 2.a5(=b) Be6 3.Ra4(=b) Rc4 4.h4 a4(=w) 5.Rh3 a5 6.Rd3 Sa6(=w) 7.f3(=b) Qb8 8.Kf2 Qa7+ 9.Kg3 0-0-0 10.gxf3 Kd7 11.Bh3 Ra8(=w) 12.Bf5 Qb8 13.Be4 Qd8 14.Sb8(=b) Ke8 15.Ra6 Bc8 16.d7(=b) h5 17.Rg6 Rc6 18.Kf4 Ra6 19.Kf5 Ra8

 御覧の通り、黒はキャスリングの痕跡を一切残さず初形配置を完全に復元する。Monochrome chessの発展形のような論理の上に成立する、奇跡的な手順。プルーフゲームを知り尽くした作者ならではのマジックを、是非ご堪能あれ。

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