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L.Ceriani レトロプロブレム傑作選(40)

(40)Luigi Ceriani (La Genesi delle Posizioni 1961)

局面をほぐせ (15+11)

 白のなくなった駒はPのみで、黒の方はQBBSPの5枚。黒側の駒取りは現時点では不明だが、白側の駒取りはb7,c5,d6,f7,f7のPによるもので尽きている。これよりe筋の黒Pが成っていることも分かる。この成を戻して、Pe5xd6とできれば局面をほぐすことができる筈だ(その成駒が黒Re8であることも明らか)。ではその線に沿って逆算してみよう。

Retract: 1...Rb5-b6+ 2.Sb6-c8+ Pa3-a2 3.Bh7-g8 Pa4-a3 4.Qg8-f8 Rf8-e8

           (図1)

 ここまでは紛れるところはない。続いて、黒Rを解放する為にf8に白Sを挟見込むことを考える。すると手順はこうなる筈だ。

5.Ra6-a7 Re8-f8 6.Ra8-a7 Rf8-e8 7.Sd7-b8 Re8-f8 8.Sf8-d7

           (図2)

 一見うまく事が運んでいるように見えるのだが...。

8...Re1-e8 9.Ph4-h5 Pe2-e1=R 10.Ph3-h4 Pe3-e2 11.Ph2-h3 Pe4-e3 12.???

           (図3)

 これでは白の待ち手が2手も足りない。一体どうやってこの2手を捻り出せばよいのだろうか?
 ここで、黒が駒取りの余地を残していたことを思い出そう。黒Rによるuncaptureによって白の手を作るというのは、これまでの作品にも度々登場した手段だ。では、黒はどの筋の白Pを取ったのだろう?
 すぐに思いつくa筋などでは、白Pを発生させる手間がかかり過ぎて割に合わない。実は、取られたのはg筋のPなのだ!f7とg7の白Pは如何にもcross captureしたような顔をしているが、実はそうではなかったのだ。先に挙げた駒取りをした白Pは、全て一路左からやってきたのである。 ではこれで、白の待ち手は2手増えているのだろうか。実際に戻してみよう。

8...Re5-e8 9.Ph4-h5 Rg5-e5 10.Ph3-h4 Re5xPg5 11.Ph2-h3 Re8-e5 12.Sd7-f8 Re1-e8 13.Sf8-d7+ Pe2-e1=R 14.Pg4-g5 Pe3-e2 15.Pg3-g4 Pe4-e3 16.Pg2-g3 Pe5-e4 17.???

           (図4)

 残念ながら、まだ1手足りない。もう万策尽きたように思えるのだが、果たして白にあと1手を与える秘策は、どこに潜んでいるのだろうか?

 これまでの手順をよく精査してみよう。すると、何気なく進めた序の手順中に、問題解決の糸口を見つけることができる。それは7.0手目だ!
先程は7.Re8-f8 Sf8-d7 8.Re5-e8...としていたが、ここで白がラインを遮断するより早く黒Rが動けば(即ち、Re5-e8 Sf8-d7...と進めることができれば)必然的に白の着手は上のものより1手遅れることになり、これでぴったり帳尻が合うではないか。となれば、その手段は勿論tempo moveだ!
 このことに気付くと、tempoを失うことができる駒は白Rしかないこと、そしてその為にはSc8-Rb8としてRa6を使うよりないことなどが芋ずる式に見えて来る。では実際にやってみよう。

4...Rf8-e8 5.Ra6-a7 Re8-f8 6.Ra7-a8 Rf8-e8 7.Sd7-b8 Re8-f8 8.Se5-d7
Rf8-e8 9.Sf3-e5 Re8-f8 10.Sh4-f3 Rf8-e8 11.Sf5-h4 Re8-f8 12.Se7-f5
Rf8-e8 13.Sc8-e7 Re8-f8 14.Ra8-a7 Rf8-e8 15.Rb8-a7

           (図5)

 まず7手かけて白Sb8をc8に移動してから、白Ra7をb8に動かす。これでtempoを失うための舞台装置が完成した。この後、Ra6-a8-a7-a6としてからこれまでの手順を逆に辿れば、首尾よく目的の局面を得ることができる。

15...Re8-f8 16.Ra8-a6 Rf8-e8 17.Ra7-a8 Re8-f8 18.Ra6-a7 Rf8-e8 19.Ra8-b8 Re8-f8 20.Ra7-a8 Rf8-e8 21.Se7-c8 Re8-f8 22.Sf5-e7 Rf8-e8 23.Sh4-f5 Re8-f8 24.Sf3-h4 Rf8-e8 25.Se5-f3 Re8-f8 26.Sd7-e5

           (図6)

 先程はこの局面で白番だったのだが、黒番になっている。従って、あとは先程の手順をなぞれば、無事局面をほぐすことに成功したことになる。

26....Re5-e8 27.Sf8-d7+ Rg5-e5 28.Ph4-h5 Re5xPg5 29.Ph3-h4 Re8-e5
30.Sd7-f8 Re1-e8 31. Sf8-d7+ Pe2-e1=R 32.Ph2-h3 Pe3-e2 33.Pg4-g5 Pe4-e3 34.Pg3-g4 Pe5-e4 35.Pg2-g3 Pe7-e5 36.Pe6xSf7 Sg5-f7...

           (図7)

 序に伏線工作を行い、その後ほぼ完全に元の局面を復元するという構成は、我々詰将棋作家に図巧四十三番を想起させる。レトロ解析という分野は、ある意味プロブレムの中で最も詰将棋に近いと言えるのかもしれない。
 同様の構成を持つ作品をひとつ引用しておこう。

(40-a)Luigi Ceriani (La Genesi delle Posizioni 1961)

局面をほぐせ(15+10)


終わりに

 一念発起して、600題以上あるCerianiの作品群を解き始めたのは、2年ぐらい前だったろうか。しかし私の力不足のために、現在までに解けたのはそのうちの1/3程度、200題余りしかない。つまり、今回の連載は言うなれば、そびえたつ巨峰の三合目付近までしか辿りつけていない登山家の手記のようなものだ。
 本来なら、こういう作家の傑作選というのは、全てを解図した後でテーマ別に分類すべきところだろう(登頂に成功した後で、そこから見えた景色を記録するように)。それに、行き当たりばったりの順序で作品を紹介しているために、Cerianiという大作家の全貌が非常に掴み難くなっていることを、読者の方々にお詫びしたい。
 それでも、もしもこの拙い論考を通じてレトロ解析の世界に興味を持ってくれた人がいるとすれば、著者としてこれに優る喜びはない。ロジックに裏打ちされた奇想天外な手順の数々に魅了された同志が一人でも増えることを願って、ここら辺で一旦筆を置くことにしよう。

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