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JOSIF KRICHELI傑作選(3)

 #3も確かに興味深いが、彼の名を有名にしたのはやはり、長手数のオーソドックスである。白駒を魔術のように操ると、黒Kは狭い籠の中を逃げ回る。そして正確な操作により、しばしば同じ手順がエコーとして繰り返され、黒Kは否応なしに籠の中を「ダンスする」。それが、KRICHELI流の長手数作品だ。殆どの場合、論理的な構造は非常に明確で、単純でさえある。だがそれは、技術的な側面で役割を果たしているに過ぎないと私は思っている。KRICHELIの作品における本当の美学は、もっと別なところにある。
 ショッキングに聞こえるかもしれないが、KRICHELIのアプローチはドイツ論理派、あるいは論理よりもテーマを重んじる人々よりも、むしろボヘミア派に近いように私には思えるのだ。もし我々がボヘミア派の哲学に準じて、チェックメイトの概念を長手数作品のそれに置き換えてみれば―勿論、それが意味をなす限りにおいてだが―KRICHELIのスタイルに近づいていくと私は信じている。KRICHELIはとりわけ白駒の動きについて研究し精通しており、そのことが作品の「経済性」を保証する。つまり、手順中に余計な部分がないのだ。また、通常黒Kの周りには白駒の利きの重複がないので、エコーを探すのも容易である(ODT、或いはシステマティックな運動など)。最後に、ボヘミア派のように、同じ種類の素材に対して、KRICHELIはしばしばいくつかの作品を制作する。一般的に、各バージョンには独自性を確保するのに十分な独特の要素があるため、早まって類似性を指摘するとしたら、それは過ちだろう。テーマを扱う(またはチェックメイトのイメージをもたらす)方法がいくつかあるのと同じように、同じタイプの手順を扱う方法もいくつかあり、違っているという感覚は、殆どの場合テーマ或いは戦略への関心に関連している。つまりは主観的なものだ。

(3) Josif Kricheli (Soyouz Appolo 1975, 3rd Prize)

#20 (6+11)

 (3)から(7)まで(恐らくは(8)も)の作品には、よく似ているが異なった性格を持っている。(3)の特徴は、白Kへのチェックという「攻撃的な」黒の受けがあることだ。
 1.Bd7+? は1...Kd8!で、以下2.Bxc6+ Kc8 3.Bd7+ Kb7!と逃げられてしまう。正しい初手は1.Re4+で(1.Ra4?は1...Rd2で逃れ)、1...Kd8 2.Ra4!と進む(スレットは3.Ra8#)。
 しかしこの手は、黒の抵抗を呼び込むことになる。2...Bb2+ 3.Ka2!(3.Kb1??は3...h1=Q+!) 3...Bc1+!(3...Ba1+?なら4.Ka3! Bb2+ 5.Kb3 として6.Ra8#が受からない。また 3...Bxc3+?なら4.Kb3! Rb2+ 5.Kxc3 Kb8 6.Rg4 とすれば、やはり7.Rg8が受からない) 4.Kb1!(4.Kb3?なら Rb2+!で、以下5.Kc4 Rb8となり白Kが4段目にいる為に白Rが使えなくなる)4...Kb2+ 5.Ka1 (勿論5.Kxc1??なら5...h1= Q+!だ)5...Rb8で黒の攻撃も一旦終了し、再び白の逆襲が始まる。6.Rd4+ Ke8として初形位置に戻るが、今度はb8が黒Rによって塞がれているので、最初は成立しなかった筋を実行できる。7.Bd7+ Kd8 8.Bxc6+ Kc8 9.Bd7+ Kd8!(9...Kb7?なら、以下10.Kb4+ Ka6(a8) 11.Ra4+ Kb7 12.Ra7#まで) 10.Bf5! (10.Bh3??のような手は、後にf筋の黒Pが動くことを許してしまう)10...Ke8 11.Rg4! (スレットは12.Rg8#。これは2.Ra4!のエコーだが、再び黒の抵抗に遭う)11...Ra8+ (11.Bb2+?だと、以下12.Ka2! Ra8+ 13.Kxb2 Rb8+ 14.Kc2で受けがない) 12.Kb1 Rb8+ 13.Ka2 Rb2+! (13...Ra8+?だと14.Kb3!で、以下 14...Rb8+ならば 15.Kc4! Rb4+ 16.Kxb4 Ba3+ 17.Kxa3 Sg7 18.Rxg7 --- 19.Rg8#となり、14...Ra3+ も15.Kb4! 以下白Kが解放されてしまう) 14. Ka1 14...Rg2 と進むのが必然で、いよいよ白はとどめを刺しにいく。15.Re4+ (15.Rxg2? だとSg3!で逃れ) 15...Kd8 16.Rd4+ Ke8とすると、殆ど初形と同一の局面だが、c6の黒Pがなくなっている。従って、17.Bd7+ Kd8 18.Bb5+ Kc8 19.Ba6+ Kb8 20.Rd8#までという収束に入ることが可能となる。
 c5の白Bは勿論、黒Kを一定の範囲に閉じ込めておく為のものだが、以下の「よく似た」作品と違って、それは白の攻めには積極的に参加していない。

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