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L.Ceriani レトロプロブレム傑作選(38)

(38) Luigi Ceriani (La Genesi delle Posizioni 1961)

h筋の黒Pの初手は?(13+13)

 なくなった駒は白がSSPの3枚で、黒はRRPの3枚。白側の駒取りはb4,c4,d7の白Pで尽きている。一方黒の駒取りはQb2とPc3によるものが各1枚で、あと1枚はh筋の白Pである。また、これよりe筋の黒Pは成っていることも分かる。このe筋の黒Pをunpromotionしてe7迄戻し、Pe6xd7とできれば、局面をほぐすことができる。ではこれを目標に逆算してみよう。

 黒Qb2が取った駒はSに確定する(白は成駒を作れないから)。この時点で黒Qは身動きが取れないので、e1へ運ぶべき駒はSb5以外ない。しかし、すぐに成を戻そうとしてもPe7-e5-e4-e3-e2-e1=S-f3-d4-b5と8手もかかってしまう。その間の白の待ち手はPf5とPg4による5手しかないので、これでは全く届かない。白の待ち手を増やす工夫が必要だ。
 すぐに気づくと思うが、h筋の白Pを利用することができる。黒Sをa7に挟み込むことで白に猶予を与え、黒Ph2をh7まで引き戻し、それから白Ph6を発生させれば、白の待ち手を4手追加することができる筈だ。

Retract: 1...Qb3xSb2+ 2.Pf4-f5 Sa7-b5 3.Qa8-b8 Ph3-h2 4-6.Qb8-a8 Ph7-h5-h4-h3 7.Qa8-b8

           (図1)

 ここまでは予定通り。後は白Ph6を戻してからe1でunpromotionすればよい筈なのだが…。

7...Sc6-a7 8.Qb8-a8 Se5-c6 9.Pg3-g4 Sg4-e5 10.Pg2-g3 Sh6-g4 11.Pf3-f4 Sg4xPh6 12.Pf2-f3 Se5-g4 13.Ph5-h6 Sf3-e5 14.Ph4-h5 Se1-f3 15.Ph3-h4
Pe2-e1=S 16.Ph2-h3 Pe3-e2 ???

           (失敗図)

 逆算途中で、白がretro-stalemateに陥ってしまった。白Pを戻そうとして黒Sが余計に動き回る為、結局白の待ち手を増やせていないのだ。収入も増えたが、それ以上に借金が増えてしまったようなものだ。だが、白Pを戻す以外に、白の手を増やす方法があるのだろうか?
 ここで散々悩まされたのち、あることに気付く。戻すべき駒は黒Sではないのだ!では、どの駒なのか。以下の手順をご覧頂きたい。

Retract: 1...Qb3xSb2+ 2.Pf4-f5 Sa7-b5 3.Qa8-b8 Ph3-h2 4.Qb8-a8
Ph4-h3 5.Qa8-b8 Sc6-a7 6.Qb8-a8+ Se5-c6 7.Pf3-f4 Sd3-e5 8.Sd1-b2
Sb2-d3+

           (図2)

 まず、黒Sをa7に挟み込み、黒Ph2をh4まで下げておく。それから、b2でピンされていた白Sを開放する。しかし、これらのことに何の意味があるのか、すぐには分からないだろう。その答えは、後続手順により判明する。

9.Sf2-d1 Ph5-h4 10.Sd3-f2 Ph7-h5 11.Se5-d3 Pg6-g5 12.Sc6-e5 Bb6-a5
13.Sa5-c6+

           (図3)

 白Sb2を開放した理由、それは黒Ba5を自由にする為だったのだ!黒Bの足の長さによって、これまでの懸案事項がきれいさっぱり解決される。

13...Ba7-b6 14.Qa8-b8 Be3-a7 15.Qb8-a8+ Bh6-e3 16. Pg3-g4 Be3xPh6 17.Pg2-g3 Ba7-e3 18.Qa8-b8 Bf2-a7 19.Qb8-a8+ Be1-f2 20.Pf2-f3
Pe2-e1=B 21.Ph5-h6 Pe3-e2 22.Ph4-h5 Pe4-e3 23.Ph3-h4 Pe5-e4 24.Ph2-h3 Pe7-e5 25.Pe6xRd7...

 白Qの開き王手を利用することで白Pの戻りを遅らせる手法は、既に何度か見たものだ。黒Bの八面六臂の活躍により、白Pが全て初形位置に戻ると同時に黒Pもまたe7に到達し、やっと当初の目的が達成されたことになる。以上より、「h筋の黒Pの初手は?」という問いに対する答えは「Ph7-h5だった」ということになる。
 ピンされている駒を次々に入れ替え、最後の駒をunpromotionすることで、白のretro-stalemateを回避するという構想、如何だっただろうか?
 同様の構造を持つ作品を、以下に参考図として挙げておこう。

(38-a) Luigi Ceriani (La Genesi delle Posizioni 1961)

局面をほぐせ (11+14)

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