セーダ・パサール解説

こんにちは〜。
 
喋りで解説しようとすると絶対に『サッカーというスポーツの宣伝』になる気がする。いや、たぶんなるんですよね。

なので、作品の中身そのものにフォーカスした解説ってやつを、こっちで出したいなと思いました。

暇を見て、ちょくちょく書いてましたこの記事。
ちょくちょく書き過ぎて、マジで永遠に書き終わらなかった。




1.『セーダ・パサール』って何?


皆さんの感想見聞きすると、チラホラ疑問に思ってた人がいました。

▪️先ずは、言語面での解説をば。
『セーダ・パサール』はスペイン語です。
終盤でルビ振ってる『シルクのパス』自体をスペイン語に直すと『Seda Pase(セダ・パセ)』になるんですけど、語呂が悪いので、どうせバレへんと思い、ちょっと嘘つきました。(犯罪)
『Pasar(パサール)』ってのは"渡す"って意味を持つ単語らしいので、ちょうどええわと思い、採用しました。
だからググっても出てこないんですね!!ふははは
ちなみに俺もスペイン語しらん


▪️
続きまして、タイトルの意図にまつわる解説を。
"シルクのパス"は、私の最も憧れた選手の代名詞のオマージュです。
サッカーの技とか用語とかではないのです。

その選手の名は天才・『小野伸二』。最近引退を宣言したことで、ファンの間で大きく話題になりました。

スポーツが好きな方なら、分かる人もそこそこ多いんじゃないでしょうかね。1998〜2006年頃は、日本代表の常連とも言える選手でしたし。
彼は昔、オランダのフェイエノールトにて、華麗で天才的なプレースタイルで人気を博しました。のちに世界的なストライカーとして名を馳せたファン・ペルシーも、小野選手の技術に舌を巻いたと言われています。

ベルベット・パス』。
布のようなパス。

それが、オランダの地で、小野選手のパスにつけられた代名詞でした。受け手に優しい、ふんわりとした、天使のようなパススピードと軌道は今でもサッカーファンの間で語り継がれています。ちなみに、子供の頃はエンジェルパスなんて名付けられたらしい!

主人公をサッカーの天才にするならば、その代名詞たるものを一つは欲しかった。
ただ、どうせやるなら、好きな選手を。
そんな気持ちで生み出したのが、『セーダ・パサール』でした。

小野選手のスーパープレイ集を載せておきます。
興味ある方はぜひ。


2.サッカー選手と膝の怪我

『膝靱帯断裂』『半月板損傷』は、サッカー選手のキャリアに関わるケガとして、毎年非常に頻発している怪我になります。正直、数え切れません。しかも、靭帯断裂に至っては、非常に再発率が高い。

有名なのは、ブラジルの怪物・『ロナウド』のケースですね。彼は膝靱帯の断裂からの復帰戦で、確か、10分ともかからず再度同じ箇所を断裂する悲劇を体験しています。

実は、先ほどあげた小野選手もまた、膝靱帯の怪我により、キャリアを狂わせた選手の一人です。
下記に、本人インタビューの記事を載せておきますが、小野選手は怪我の前とその後について、その記事の中で、以下のように語ってます。

小野:ケガから戻ってきて、ピッチに立った瞬間はもう違和感しかなくて……何もイメージが浮かばなくなっていました。ケガをする前にどうやってイメージを浮かばしていたのかすらわからなくなり、ケガをする前に戻らなきゃという感じでジレンマがありましたね。結局、戻すも戻らないも、元々自然にできていたことだったので、すべてがぱっと消えてしまった、という感じです。

ーー しばらくしても感覚が戻ってこない、すべてが消えてしまったということは、想像すらできないですが……絶望的なんでしょうね。

小野:絶望ですよ。とにかく、何も見えないので、ボールをもらうのが怖かったです。今振り返ると、ケガをする前に戻りたい気持ちが強すぎて、前に進んでいなかったのが原因だったと思います。本当は、ここから新しい自分を作っていくと考えないといけなかったのに。

上記踏まえた上で、拙作の主人公・ロベルトの怪我、不幸の三兆候について解説します。

▪️不幸の三兆候

膝怪我の中でも本当に最悪です。

現代における世界的No.1ストライカーのアーリング・ハーランドの父親、アルフ・インゲ・ハーランドは、この怪我で日常生活にすら支障をきたすほどまでになりました。(当時の医療水準的に不自然ではない……)
加害側のロイ・キーンという選手がイカれていることはサッカーファンの間では割と有名ですが、特にハーランド父を"終わらせた事件"はヤバいですね。下記記事を参考までに張りますが、動画は見ないほうがいいです。本当に。

他にも、元日本代表・酒井宏樹選手の同年代にして、その年代で最高の天才とまで言われた比嘉厚平選手も、不幸の三兆候によりキャリアが終わりました。
26歳という若さで引退した比嘉選手。インスタには同年代の選手から才能を惜しむ声が上がっており、なんとも切なかった………。

上記例をあげたように、最悪、キャリアが終わるどころか、日常生活すら危うくなる。
そのレベルの、絶望的な大怪我なのです。

3.舞台はどこ?

ちょっと文字数足りなくて端折りましたが、スペインのつもりです。

代わりといっちゃなんですが、主人公の名前を「ロベルト」としました。ちなみにブラジル人。主人公の名前を明かすのを、後半に持ってきたのはひとえに構成力の不足です。反省。

で、この名前、結構ヨーロッパ語圏でありふれた名前なんですよね。サッカー選手にもたくさんいますね。

↓ほら!↓
ロベルト・カルロス(ブラジル)
ロベルト・フィルミーノ(ブラジル)
ロベルト・マンチーニ(イタリア)
ロベルト・バッジョ(イタリア)
ロベルト・レヴァンドフスキ(ポーランド)
etc…


他にもありふれた名前がいるだろ!
と思うんですが、ロベルトにしたい理由がありました。
それは、『キャプテン翼』のせいですね。

キャプテン翼の主人公である神童・大空翼は、少年時代、ブラジルにルーツを持つロベルト本郷という人物を師匠として慕い、指導を受けています。

翼は大人になると、スペインの一部リーグの超名門チームFC.バルセロナに所属するのですが……。

はい!
ロベルト→翼→バルセロナ的な連想ゲームを勝手に自分の中でやって、スペインを舞台にしました。身勝手にもほどがある。

ちなみに、FC.バルセロナは下部組織──カンテラでの育成に定評があり、メッシやイニエスタをはじめ、様々な名選手を排出したことで有名です。

描写こそしてませんが、拙作の主人公ロベルトは、メッシのように、バルセロナのカンテラで将来を嘱望された神童として、描きました。

そして、現代のバルセロナでは、16歳でトップチームに上がったものの、大怪我の連続で苦しむ神童が一人いるんですね……。アンス・ファティという選手です。

割と、神童の怪我ってのは、サッカー界でもリアルな問題です。見ていて苦しくなる。

4.主人公のモデル

先述にて紹介した小野選手やファティの要素も一部継承してるんですけど、コアとなった選手は別なんですよね。

モデルのコアとなったのは、宮市亮選手です。
(プレースタイルとポジションは小野伸二選手をモデルにしてますが……)

▪️宮市亮という選手について


Wikipediaの経歴を見てもらえれば分かると思うんですけど、とにかく怪我の数が尋常じゃない。膝靱帯の断裂も、何度も再発してる。でも、それでも宮市選手はピッチに戻ってくる。"不死鳥"なんてファンから声が上がるくらい、何度も、何度も。

さらに、彼は"神童"だったんですよね。
100m走10秒フラットに迫るほどの、規格外のスピードスターとして、世界中から注目されていました。
彼が高校卒業してすぐ契約したのは、アーセナルという、イングランド・プレミアリーグ(1部リーグ)の中でも超名門と呼ばれるチームでした。
アーセナルは、2004年シーズンでは伝説のシーズン無敗優勝を成し遂げ、『インビンシブルズ』と呼ばれていた。本当に世界トップクラスのリーグの中でも、超名門だったんですよね。

いやほんと、宮市選手の移籍については、当時の新聞テレビネットが大騒ぎしてたのを、いまだに思い出す。
これまでの日本人のサッカーキャリアの常識を根本からひっくり返す様な移籍に、日本中のサッカーファンが湧いていました。さらに当時のヨーロッパ誌でも、『未来のスター10選』みたいな感じで取り上げられてた覚えがあります。

ただ、プレミアリーグの就労ビザのルールの都合上、彼は初年からアーセナルで出場することはできなかったんですね。代わりに、他のチームにレンタルされ、そこでプレーを続けてました。最初の数シーズンこそ順風満帆であったものの、徐々に焦りと怪我に追い詰められる事が、増えていきます。

その怪我との戦いのキャリアの中でも、印象的な時期はドイツ2部リーグのチームであるザンクトパウリ時代からだったと個人的には思ってます。ここから彼は、3度もの膝靭帯断裂を経験しています……。

横浜Fマリノスに移籍後、日本代表に10年ぶりに復帰した宮市選手でしたが、代表戦で3度目の膝靭帯断裂をし、その時、初めて引退の二文字が頭をよぎったと言いますが…………。

サポーターやチームのスタッフ、そしてチームメイトの後押しにより、再び前を向いたといいます。

宮市選手のキャリアについては、自伝を読むことをお勧めします。リアルな熱量、葛藤が、胸を打ち付けます。

自分は本作を書き上げた後で購入し、答え合わせをするように読みました。

「サッカーができるだけでも幸せ」

宮市選手は自伝の中で何度もそう述べていました。
本作の主人公と重なる部分があり、ああ、ロベルトの気持ちは間違ってなかったんだな、と我ながら鳥肌がたちました。


5.描かれなかった部分

主人公のロベルトは35歳となった終盤。
2部リーグで優勝したチームから出ていき、フリー契約の選手となります。

実は彼は、チームからトレーナー契約……チームスタッフとしての契約オファーを受けていました。

最近ので例えると、長谷部誠さんみたいな感じですね。
彼は現役引退後、長らく選手としてプレーしたアイントラハト・フランクフルトというチームの下部組織で、アシスタントとして活躍しています。

ちなみに、長谷部誠さんのエッセイもおすすめです。
私の愛読書でした。

話を戻して。

ロベルトは長谷部さんとは違って、チームを去ります。
もちろん、彼はサッカーができるだけで幸せだった。それは事実。
でも、まだ彼の中に、諦めたはずの夢が燻っていた。内心、割り切れてなかったんです。

超満員のスタジアムで、サッカーをすることを。

だから最後、元同僚のマルコによる救いを用意したんですね。ここで盛大な爽快感というか、そういった感じのものを読み手の皆さんにも味わっていただきたかった。


話せることはこのくらいかと思うので、それではまた。

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