続々と登場する『放送部』の物語―湊かなえの小説『ブロードキャスト』と武田綾乃原作・漫画むっしゅの漫画『花は咲く、修羅の如く』―

どうも、とったんです。

ぼくが元放送部員だった話は大分前にしたと思う。
ぼくの高校生活の思い出の大半を占めるのは放送部で過ごした日々だ。

ところで、「放送部」の活動の実態はあまり知られていない。
大抵の人は「放送部」に大会があることを知らない。
体育祭文化祭の司会や校内放送、昼のラジオくらいしか認知していないんじゃないだろうか。

放送部に入った、入っていた者はその現状を変えようとして(もしくは自分たちの活動を多くの人に知ってもらおうとして)、放送部のことを話したりしている。
しかし、経験者が語る話はどうしても内輪の雰囲気が出てとっつきにくい。
そもそも、そういう話はまず読み手側が話し手か話題に興味を持っていないとだれも聞いたり読んだりしない。放送部の話ですよーと言われて食いつくのは、結局放送部の(放送部だった)人たちだけなのだ。

そんな壁をとっぱらい、目に付きやすい表現が小説や漫画といった物語である。
物語形式だと自然に情報が伝わりやすいし、興味を持った読んでる側も必要な知識を積極的に覚えようとする。

とはいえ、「放送部」を題材にした作品はあまり聞いたことがない。
いや、なくはないが如何せん読み切り形式だったりマイナーだったりする。
オタクカルチャーとしても「放送部」の位置づけは体育祭編のスポーツ実況ばりの実況をするサブキャラか、声がいいというキャラ付けのために設定上記されている程度で本編だと描かれにくいイメージである。後者に至っては演劇部が担ってることが多い。まあ演劇部ならストーリー上で演劇公演をやるイベントを入れやすいから、当然といえば当然か。

結局、放送部熱は内輪でとどまるしかないのか…と絶望しかけたその時。
あるビッグニュースが飛び込んできた。
有名作家が放送部を題材にしたのである。

・湊かなえ『ブロードキャスト』

『告白』、『高校入試』、『白ゆき姫殺人事件』などで有名な小説家、
湊かなえが放送部を題材にした小説を発表した。
タイトルは『ブロードキャスト』である。

それまで湊かなえといえば「イヤミス」、読後にモヤっとした気持ちが残る作品で知られていた。だが、今作は「著者初の青春小説」と大々的に宣伝された。厳密にいうとジャンルとしては「青春ミステリ」に該当するが。

中学の時陸上部の主力だった主人公、町田圭祐(まちだけいすけ)は高校入学初日に交通事故に遭い陸上部に入ることを断念してしまう。
そんな折、同じ中学だった同級生の正也に放送部に誘われる。
半ば強引に見学についていくが、劇中の出来事を通じて、次第に放送部の良さを知っていく…。
そんなお話である。

湊かなえが得意とする、登場人物の繊細な心理描写が秀逸で、とてもリアル。
体育会系と文化系の部活の温度差、文化系の部活の「濃い」先輩の洗礼、いじめを受けている生徒、学年間の隔たり、といった生々しい空気感。とても湊かなえの小説だな、と思いました。

でも、圭祐たちの放送部にかける情熱、放送部に本気で取り組む姿はまさに青春で、思わず現役だったころを思い出したくらいである。
本作では大会の団体部門(一作目『ブロードキャスト』はラジオドラマ、二作目『ドキュメント』はドキュメント部門)での活動が中心に描かれている。
大会で他の高校が提出した作品に対する評価の仕方は「あ、これぼくたちもやってたし、こういう風に見てたわ」というくらいリアルだった(個人的な感想)。

ぜひとも読んでほしい作品である。

・武田綾乃・むっしゅ『花は咲く、修羅の如く』

さて、そんな湊かなえの『ブロードキャスト』、結構反響があったのか続編の『ドキュメント』が出たり、高校入試の問題に抜粋されたりしている。

とはいえ放送部ムーブメントもさすがにここまでかな…などとぼくは考えていた。

その認識は甘かった。
いつだって現実は想像を越えてくる。

『響け!ユーフォニアム』で知られる武田綾乃が放送部を題材にした漫画の原作を担当するというニュースがネットに上がった。

ユーフォニアムは履修してないけど評価が高い作品だし期待できるな!と思い、とりあえず単行本になるのを待った。
そして発売された。

それが『花は咲く、修羅の如く』。

島で暮らす花菜は本土にある高校に進学予定の少女。島に住む子どもに朗読会を開くくらいの朗読好きな花菜は進学先の高校の先輩、瑞希に放送部に入るよう誘われる。
わがままを言えない環境で育った花菜は誘いを断るが、偶然聞いた「人を惹き込む読み」に可能性を見た瑞希に強く説得されたことで入部を決意する。

まだ単行本分で5話しか出てないが放送部の描写がかなり濃厚で丁寧である。特に本作は「個人部門」を中心に描かれている。

ウルトラジャンプでの連載であり、この丁寧な描写展開なので大会編までどれくらいかかるか分からない。こわい話をすると打ちきりなんて悲しい終わり方もあるかもしれない。

だが、面白さ的にアニメ化できるポテンシャルがある。むしろアニメ化しろ。

・放送部は止まらない

そんなこんなで放送部、こんな世の中になっても、いや、こんな情勢だからこそ「声で伝える」放送部が着目されてるのかもしれない。

くしくもTwitterで大喜利をやってる坊主バーが「放送部にしか分からないこと選手権」やってたしな。

ぼくみたいな末端のとったんという人間より、有名な人が発信した方が影響力が大きいのはこの世の真理である。

放送部は勝手に纏めなくても芳醇で潤沢な展開を見せている。
放送部は、止まらない!

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