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【通信講座】 小説「戻らない泡」 講評


【通信講座】 小説「アカシジアの宵」 講評』で

しかるに、この「アカシジアの宵」は
「創作意欲」と「意気込み」のみで書いている。
作品以前の
未分化な素材でしかない。
 
真剣に苦悩し、葛藤しながら書けば
そのまま作者の気持ちが文章にこもる
などとという信念は
一刻も早く捨てるべき。
作者の真摯な姿勢を斟酌してくれるのは
芥川賞だけ。

と講評した。
また同じように書かねばならない。


着想、イメージの体系は個性的だが
(だから惜しいと思うが)
効果的か否か、成功しているか、失敗しているかではなく
それ以前に
作意、技巧、意識的彫琢がまったく感じられない。
このような不均衡はとても不思議で
不気味ですらある。
いったいなにを言えというのか
試されているようで
不愉快でもある。
・小説を書こうとしていながら、一切の読書経験がない。
・一度も読みかえしてはならないというルールで書いている。
・文章における美的側面を軽視(軽蔑)している。
・文章の論理的構造という観点が完全に欠如している。

いずれかであろうと想像するが
どれも作者の資質としては致命的で
理解できない。


すべての部分は全体と響きあっている。
部分(細部)が精彩をはなつには
全体の構造が
少なくとも作者だけには
明確に把握できていなければならない。
部分においては
芸術的、論理的に
粗雑であり、不正確であり、稚拙であり
全体においても
なにも考えずに書きはじめ
書くことがなくなって終わらせた
としか思えない。
 
フローベール、ポー、ナボコフ、ゴーゴリ、泉鏡花、夢野久作、あらゆる文体の魔術師は
「幻想」「幻影」「白昼夢」「悪夢」を
あいまい、あやふや、不正確、非論理的には書かなかった。
江戸川乱歩や宮沢賢治の一部の作品は
達意の文体とはとても言えないが
ぎこちなく、ねじれ、生硬であっても
けっして不正確ではなかった。

「科学の感動と詩の正確さ」
ナボコフ

いかなる作者にも
最大限、敬意をはらって講評してきたが
適当に書かれたもの(「作品」とは言うまい)に対しては
これ以上、言うべきことはない。


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 都庁から出て、群衆に紛れる。昼間だ。威圧感のある都庁ビルを、歩きながら、まだ背中に感じている。
 帰りに俺はいつも、その隣のホテルに寄る。夏だ。見てくれのいいホテルの従業員が、帽子を被った額から汗を流して、俺を見て深々と頭を下げる。俺は、ようやく冷房の効いたホテルに入って行く。
 

群衆に紛れる
 「都庁」からの連想で適当に書いたから
 「歩きながら」とまったく共鳴していない。

威圧感のある都庁ビルを、歩きながら、まだ背中に感じている
 無意味な記述。「いつも」こんなことを「感じ」ながら「ホテルに寄る」だろうか。
見てくれのいい
 ないほうがましな、どうでもいい適当な形容。
帽子を被った額
 「被った」と「額」は対応するだろうか。


俺はいつも相手にチェックインさせる。それじゃなくてもスキャンダルだらけの、俺みたいな地方政治家。


それじゃなくても」=そうじゃなくても

スキャンダルだらけの
 「地方政治家」にかかるべきだが「俺」にかかる構文になっている。



女のワンピースを脱がせた。背中の長いファスナーを下ろす。シルクのようなプリントの。ウィリアム・モリスを気取った。
 

「脱がせた」あとに「ファスナーを下ろす」のは不可能。

シルクのようなプリントの
 不明。「ウィリアム・モリスを気取った」とともに
 「ワンピース」にかかるべきだが「ファスナー」にかかる構文になっている。



やっぱり俺好みの身体をしている。ほとんど少年のように胸がなく、女らしい曲線がない。

一般的に全体(「曲線がない」)から、部分(「胸がなく」)へと描写は展開する。


俺は大き過ぎるコンドームで女のバックに入れた。後ろから細い腰を抱えた。彼女は決して自分からは動かない。死んでるように。腕をだらりと下げたまま。尻が大理石のように冷たく白い。

コンドームで」不正確。

腕をだらりと下げたまま」不可能。

大理石のように」類型。
 正確な観察をすれば「大理石」を「冷たく白い」などとは書けない。


決して、記憶にないのに、既視感がする。

 
「既視感」は「する」「しない」だろうか。


俺は大き過ぎるコンドームを外して、女の尻に出した。
 

「大き過ぎる」と四回まったく同じようにつかうのは
あまりにも稚拙。


聖一郎に電話をした。今日の、都庁での会議の話をした。

「会議」について問題なのは
当然、そこで行われているはずの「場所」(「都庁での」)ではなく
その「内容」ではないか。


聖一郎が拗ねたような声を出す。忘れずに彼の好きな、ピンクの泡の出るシャンパンを買って帰ってやろう。


ピンクの
 「シャンパン」にかかるべきだが「泡」にかかる構文になっている。
 
泡の出る
 不正確。稚拙。

主題とリンクさせようとしているのは分かるが
「泡」の出ない「シャンパン」があるとでも言うのか。


彼は電話を切った。切る前に彼は俺にキッスをした。

不可能。


いかれた女が帰って来た。コンビニの袋を下げている。俺は彼女に金を渡した。


コンビニの袋を下げている
 あたりまえ。観察し、描写すべきはそんなところではない。


さっきバックでやったみたいに、細い腰を抱えた。彼女はあの時のように、死体のように、動きがない。

 
「さっき」を「あの時」と言い換えることはできない。



不感症、という言葉が浮かんだ。

 
いちいち「浮かんだ」「思った」「思い出した」など
うっとうしい。



俺は一度抜いて、彼女の中に指を入れてみた。動かないし、声も出さない。

「動かない」の主語が
「俺」「指」「彼女」「彼女の中」
いずれか不明。


女はあまり感じ過ぎると罪悪感を抱くと言う。じゃあ、感じない女には罪悪感がないのだろうか? だからこんな商売をしている?


「女」が一般的「女性」なのか
「この女」「彼女」なのか不明。

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