【通信講座】 小説「屠所の羊」 講評
『【通信講座】 小説「美ら海に漂う愛」 講評』で
最近の小説に顕著な
「Twitterマンガ」化がとてもよく分かる。
設定、人物、状況はあるが
ストーリーがない。
関係性そのもの、雰囲気そのものを書こうとしている。
なにも起こらない。
この時間を切りとった理由が分からない。
と書いた。
ほとんど同じことをこの作品にも言いたいが
なんらかのストーリーを想定しているのは分かる。
それがなんなのかは
作者の技巧が空転していて理解できず
着想、意図さえ把握できないので具体的なアドバイスがしづらい。
タイトル、あるいは
「カナン」、「エリ」、「ヨシュア」、「カレブ」などの固有名詞は
あきらかにユダヤ、キリスト教を意識しているが
作品の本質と関係があるようには思えない。
冒頭を読めば
カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』のような趣向であると
すぐに察することはできる。
しいて神学的に解釈するなら「煉獄」のような設定なのかもしれない。
しかし、自信はない。納得できない。
(作者より)
アドバイスしてほしい点:
① 三人称の文章として成立しているか、また、一読して意味を掴める文章になっているか。
② 読者が迷わず話の筋を追えるか、また、大体の内容を掴むことができるか。
③ 話がすぐ終わってしまう。10万字くらいの小説を書くには、どうすべきか。
以上です。
① 三人称の文章として成立しているか、また、一読して意味を掴める文章になっているか。
成立していない。
全体的な作者の意図、それぞれの文章の意味、いずれも分かりづらい。
文体は、きわめて不安定。
寓話的な内容にふさわしい、素朴な表現と
奇妙にねじれた、ぎこちない文章が混在していて読みすすめるのが苦痛。
次々と戸棚を開き、棚を指さす。
中には透明な水が入っている。
ヨシュアの言葉にカレブは吹き出している。
しかし、少なくとも、成人に値する外見を持つ人間は、存在していなかった。
恐ろしいうなり声に二人の耳は聾された。
おそらく定例に沿った行動しか許されていないのだろう。
軽侮という行為を理解しているかどうかさえ怪しかった。
ヨシュアが、この場を去れば、戦闘は沈静化するはずだった。だが、ヨシュアは、この事情にまったく斟酌しない。
有体に言って戸惑いである。彼らにとって死は、一定期間が過ぎた後に訪れる決定事項だ。突発的な仲間の早逝を訝り、恐怖に身を震わせている。
もっと単純に、分かりやすく書けるのに
読者が、また、おそらく作者さえ
口にしたことも、聞いたこともないような
文法的にぎりぎりの構文で
読んでいてとても気持ち悪い。
少なくとも、作品にふさわしい文体ではない。
ヨシュアは目を瞠った。
ヨシュアの言葉にエリは目を瞠っていた。
苦痛に悪態を吐いた。
痛む指に悪態を吐きながら、茶を淹れた白湯の残り[?]を流しこむ。
必要以上に表現の重複を気にしなくてもいいが
これはあきらかに作者の不注意で
動作を描写するための語彙が少なすぎる。
アニメのような、大味かつ
リアリティーのない動きばかり目につく。
おかしなところで飛躍があり、困惑する。
「ごめん。初日から大変だったよね。午後は、村を案内するだけにする。安心して」
芋の入ったたらいを二人で運ぶ。濡れた芋は皮がところどころ剥げ、中の身が白く光っていた。
村の周囲を包んでいる森は、昼でも薄暗い。
「さっきの何?」
ヨシュアはカレブの抱えている袋を指さした。
「余分のネギを粉にかえてもらったんだ。芋も納めたかったけど、もう少し乾燥させたほうがいいと思うから。今晩、仕込んでおいて明日、パンを焼こう」
「さっきの」が省略されているので
「ヨシュア」がなにを聞かれ、なににこたえているのか分からなかった。
あるいは「村の周囲を〜」でパラグラフを変えるつもりだったのだろうか。
分からない。
(付記 メールで送られてきた Word 原稿と note 記事を照合すると note ではパラグラフを変えていた)
「ごめん、ヨシュア。先に言っておけば良かった。村の境から出たら駄目なんだ。犬たちは、ぼくらを守ってくれているんだけど融通が利かないから」
漠然とした作品のなかでも、「犬」は特に漠然としている。
「犬たちは」と言っているからには、やはりこのシーン以前にあった「犬」の発見を省略しているのだろうか。
獣は、ただヨシュアの動きを目で追っている。ヨシュアは足元の石を拾い、獣に投げた。斜め前方に回避した獣は唸り声をあげる。瞬間、獣の体は横ざまに弾き飛ばされた。
強い体毛に覆われた巨大な腕が現れる。鋭い爪から血が滴っていた。小山のような体を後ろ足二本で支え、耳をつんざく咆哮を放つ。目は一点、ヨシュアを見つめていた。
「……怪物?」
ヨシュアは動くこともできず、力の権化と対峙する。その間にも獣が、背中から腹にかけて傷を負いながら立ち上がろうとしていた。しかし、裂けた皮膚から肉が覗き、血液が絶えず流れている。果たせず、頭だけをもたげた。遠吠えを始める。
突進してくる怪物に黒いものがぶつかっては弾かれていた。『犬』たちである。さきほどの遠吠えは、獣が仲間を招集するための行動だったのだ。
怪物は、獣よりもさらに大きい。個体としての力の差は歴然だ。資質の違いについては百も承知なのだろう。『犬』たちが行っているのは集団を生かした持久戦であった。常に吠え、追いたてて相手の無駄な動きを誘う。疲労が蓄積し、動作が鈍り始めれば、急所を狙った攻撃が可能となるからだ。
実に錯乱していて
「獣」「怪物」「仲間」「犬」の書き分けがあいまいすぎる。
読み返してもよく分からない。
② 読者が迷わず話の筋を追えるか、また、大体の内容を掴むことができるか。
できない。
ヨシュアは、騒ぎをよそに花を綻ばせている樹木に近づく。散策といった足どりだ。花も、この地獄絵図にわれ関せず、甘い香りを放っている。ヨシュアは枝を折った。遠くに見えていた花が今は自分の手にある。それを眺めるヨシュアの顔に笑みが浮かんだ。
主人公(?)「ヨシュア」の行動理念をどのように想定しているのだろう。
「花」に対する特殊な執着があるようだが、
仄暗い中を女が逃げ惑っている。床に叩きつけられ、悲鳴を上げた。
「止めて、止めて」
懇願するが、殴打は止む気配がない。
「お願いだから。ちゃんとする。気持ち良くするから」
咀嚼するような音とすすり泣きが辺りを圧していた。
「……許して。……お願い」
怒鳴り声と何かが折れる音、不規則な呼吸が続く。やがてすべてが静寂に包まれた。
それならば
「カナン」以前の記憶、唯一の過去の暗示である「夢」のなかで
「花」に関する事件を想起していないのは不可解。
「お願いだ。助けてくれ」
涙と鼻水で汚れたヨシュアの顔からエリは目を背ける。嫌悪の印に地面へ唾を吐いた。エリは自分の行動に戸惑う。しかし、夢に出てくるあの人物なら、やりかねないと思い、身内が震えた。
ラストの「エリ」の「行動」は「夢」に関係があるらしいが
「ヨシュア」と「エリ」が「夢」を共有しているとはどういうことなのか。
それとも、信じがたいが
「夢に出てくるあの人物」を、ここでも省略しているのだろうか。
なにもかも分からない。
多様な解釈が可能なわけではなく
単に、作者の構成が稚拙。
③ 話がすぐ終わってしまう。10万字くらいの小説を書くには、どうすべきか。
このような寓話的作品であれば
長く書く必要はなく、簡潔であればそれだけ価値があると思う。
これから書く長編小説のことならば
まずは「10万字」かけて書く必要がある「主題」を見つけるべき。
一般的に、「人物」「場所」の組み合わせで
いくらでも「主題」を深くえがくことができる。
2人より、5人の「人物」
1箇所より、10箇所の「場所」のほうが
組み合わせのパターンは多い。
あたらしい「場所」に
あたらしい「人物」たちを集めれば
自然と、あたらしい「事件」が起こるはず。
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