西園寺命記~拾ノ巻~ その9
* * *
紗由は自信満々に告げる。
「あのね、お見合いパーティーしたらいいと思うの」
「獣神さまたちのお見合いパーティーするんか??」驚く翔太。
「うん。獣神さまたちって、今までは、自分のところを動いたらだめだったんでしょ?」
「ああ」
「でも、おばあさまが、そんなのやめてって言ったから、自由にうごけるんでしょ?」
「まあ…そうね」
「だから、同じグループじゃないところのお友だちを作って楽しくなってもらうの」
「なかなか面白そうだな」躍太郎が笑う。
「まりりんに、いろいろ聞いたの。
お見合いパーティーのまえにはね、アンケートをとるんだって。好きなものとか、いろいろ」
「そのアンケート…誰が取るのかしら?」いぶかしげに尋ねる華織。
「男の子には、おばあさまがとってください。女の子には、おうまさんがとってください」
華織と風馬が眉間にしわを寄せる。
「やっぱりここは、ベテランさんがやりませんとね」爽やかに微笑む紗由。
「まあ、参加率に関わる部分やしな」
「おばあさまが“来ないなんて言わせませんでしてよ”って言えば、皆来るよ」
淡々と言う龍を睨む華織。
「紙をわたしてもらうだけですから。
あとは、史緒ちゃんのところにおろしてもらって、史緒ちゃんがさらさら書きますから」
「渡すだけなら…まあ、いいかしら」
「男の子が40人で女の子が10人くらいらしいです」
再び眉間にしわを寄せる華織。
「史緒ちゃん、だいじょぶなんか? 腱鞘炎になってまうがな」
「だいじょうぶです。
大地くんにつきっきりになってもらうことにしました。大地くんのいやしの力でOKです」
「二人でくねくね踊ってて、お習字にならないんじゃないのかな」ぼそっとつぶやく龍。
「ところで、史緒ちゃんに学校を休ませて作業させるつもりなのかい?」躍太郎が聞く。
「史緒ちゃんのお父さまからOKをもらってあります」
「九条の“命”から!?」声を合わせて驚く華織、風馬、躍太郎。
「まえに、にいさまが悪者におそわれた時に、史緒ちゃんのお父さまは、知らんぷりしたでしょ? 史緒ちゃんにはそのこと、ぜーーーったいに言いませんからって、言ったの」
「紗由ちゃん、それ…脅迫や」
「だいじょうぶ。九条さんが悪者におそわれたら、ちゃんと助けますからって言っておいたから」
「紗由、それ…ただのダメ押し…」苦笑いする龍。
「それでね、アンケートで好きなものも教えてもらうの。
史緒ちゃんのお習字を、和歌菜おばさまにわたして、お友だちになれそうな人たちをとなりの席にするの」
「久我家が何気に大活躍だな」笑いだす躍太郎。
「あとね…紗由おもったんだけど、獣神さまたちは、お宿を守るまえに、好きなことをしたらいいと思うの」
「好きなこと?」龍が戸惑う表情でつぶやく。
「お宿守る前に好きなことをして、ニコニコになって、そのパワーをお宿にくださればいいと思うの」
「なるほどね」下を向いてふふふと笑う華織。
「アンケートはそのためのものでもある、いうことか?」翔太が尋ねる。
「旅行したかったら、させてあげればいいとおもうの。
カラオケしたかったら、させてあげればいいとおもうの。
おやつをいっぱい食べてもいいとおもうの」
「そんなの紗由だけだよ」
龍が言うと、珍しく華織が紗由をかばう。
「大酒飲みの神様もいらっしゃるし」
「龍神さまはそう言われることが多いな」
「あとね、守ってくださったあとに、ごほうびをあげるといいと思うの。かあさまが、よくやるやつ」
「よくやるやつって?」龍が尋ねる。
「自分へのごほうびに、きれいなバッグや靴を買ったりするの」
「ふーん」冷たい視線の龍。
「あら、龍。とても大事なことなのよ、ご褒美があるかないかは」
華織がこぶしを握ると、躍太郎が咳ばらいをする。
「でも、獣神さまたちにご褒美って、何をあげるわけ?」
龍が尋ねると、紗由は手を腰にやり、仁王立ちする。
「それを考えてもらうための会議ですから!」
「…そこは丸投げなんや」
「とうさまはね、紗由のかたたかき券をごほうびにあげると、すごくよろこぶの。紗由が肩たたきじょうずだからだね」
紗由が嬉しそうに言うが、龍が異を唱える。
「とうさまは、紗由がくれるなら何でもいいんだよ。肩たたきのせいじゃない」
「それや!」翔太が立ち上がる。
「どれ…や?」龍が翔太を見つめる。
「大切に守っている宿の亭主から、してもろたら、何でもうれしいんやないか? そん中でも、特に、こんなんされたらいいな~思うてること、あるやろ。宿の亭主に獣神様の望みを伝えて、叶えて差し上げればええやん!」
「それを亭主にどうやって伝える…というか、働きかけるわけ?」
「集まっていただいた、他の獣神様方に一役買うてもらうんや。
担当宿の獣神様がどれだけ頑張っているかを、他の獣神様からそれぞれの亭主に伝えてもらう。よその“集”からでもええわ」
「…ああ、そうか。第三者からの高評価があれば、報奨をあげたくなるってことか」頷く龍。
「この“集い”こそが興味深い」
誠の背後に現れた、一条家の黄龍。
「黄龍さま!」
右手を差し出す紗由に、黄龍は髭を一本、紗由の手に触れさせた。
その髭を握り、ぶんぶん上下に振る紗由。
「いらっしゃいませ!」
「さて…」
黄龍は、一同を見回し、言った。
「我からも提案がある」
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