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西園寺命記~青龍ノ巻2~その21

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  *  *  *

 数時間後、ミコトとメイは猛ダッシュで鈴露の実家に向かっていた。

「今日は、よく置いてかれちゃうね」

「…きっと、私に口うるさく言われるのが嫌で、先に話をまとめようとしたのよ、うちのおじいちゃま」

「ある意味、段取りいいんだね」笑うミコト。

「ミコトさんこそ…段取りっていうか、鈴露を昇生おじさまのポジションにっていう発想、すごいわ。言われてみれば、それが自然なのにね。全体をちゃんと見てるんだわ」

「ばあちゃんが、よく言ってたんだ。大勢の意見に飲まれずに、ちょっと引いた位置から見る癖を付けなさいって」

「なるほど。さすがは西園寺の姫命宮ね」

 ハンカチで顔の汗を拭うメイ。

「ヒメメイグウって何?」

「“命”の家系に関わる人たちのとりまとめをする総合ディレクターみたいな人が命宮。紗由さんの前は、うちのおじいちゃまのお父さんがなってたの。紗由さんは女性だから姫命宮」

「へえ…」

「ミコトさん、あと継いじゃえば?」笑うメイ。

「あはは。そんな大役とてもとても」

「あ。あそこだわ! 離れの学習塾側って言ってたから…こっち!」

 鈴露の育ての父・出雲は、学習塾を経営していて、その教室がある建物に集合という話だった。

「遅くなりました!」

 メイとミコトが部屋に入ると、一同は学習塾の生徒のように並んで座っていた。

「結局みんないる…」

 メイの頭の中では、鈴露、祭、悠斗、華音の4人と、鈴露の育ての両親、そして一条の先の宮である凛がいるものと思っていたのだが、結局、“命”集団とその奥方たちも、やってきていた。

 さらにびっくりしたのは、その直後だった。

 鈴露の実父・走馬と、実母・麗が、飛び込んできたのだ。

「失礼します!」

「麗!」凛が叫ぶ。

「走馬!」悠斗と華音も驚く。

「誰が二人を呼んだんですか」

 震える声で尋ねる凛に、麗が答えた。

「誰からも呼ばれてないわ。ただ…鈴露の一大事だって声がしたの。だから…」

「私もです」走馬が言う。「とにかく行かなくちゃと思って…そうしたら、表で麗と会って…」

「走馬くんと麗ちゃんが会うのは何年ぶりなの?」真里菜が尋ねた。

「鈴露が生まれて、出雲さんたちの籍に入れていただいて…それ以降、初めてです」走馬が答えた。

「鈴露、何かあったの?」

 ミコトの横をすり抜け、鈴露に駆け寄る麗。その後ろに走馬も続く。

「よく僕がわかったね。ミコトと間違えるかと思ったよ」シニカルに微笑む鈴露。

「恨まれても憎まれても仕方がないのはわかってる。でも、あなたを間違えたりしないわ!」

「それに…紗由おばさんから、ずっと、おまえの成長の様子を教えてもらってた」

「紗由ばあちゃんから?」驚く鈴露。

「あ、あの…紗由ばあちゃんを怒らないでください!」凛に向かって頭を下げる祭。「凛おじさまの本意でないのは承知してます。でも、ばあちゃんも、じいちゃんも、お二人に鈴露さんの姿を見せてあげたかったんです」

「祭…おまえ、それを知ってたのか」鈴露が唇をかむ。

「…あなたに対しては悪いことをしたとは思ってません」

 毅然と鈴露を見つめる祭に、メイが拍手を贈る。

「そうよ、祭ちゃん。あなたたちのしたことは人助けだわ」凛の方に歩み寄るメイ。「一条の先の宮様ともあろう方が、そんなことで目くじら立てたりしませんよね? 家族バラバラになっていることのほうがおかしいわけですから」

「メイ!」慌てて駆け寄る悠斗。

「何かしら、おじいちゃま。私には、こういう発言をする権利があると思うんですけど」

「権利?」

「ええ。私と鈴露とミコトさんには、その権利があるはずです。西園寺を妬む人たちとの諍いを避けるため、“命”制度を守るため、形は違えど家族と引き離されていたんですから」

「メイ…」震える声の華音。

「鈴露は実のご両親とは一緒にいられなかったけど、優しい育ての親御さんたちに大切に育てられて、凛おじさまからは“命”としての教育をきちんと受けてきた。でも私なんて、海外に追いやられて、しかも力を封じられて、ご都合主義的に開こうかってことになったり。だいたい…」

「メイさん。俺にも言わせて」ミコトが微笑む。

「あ…はい」

「3人それぞれに、大人の都合で動かされていました。祭もです。でも俺たちは皆さんに見守られて、何とか無事にやってます。だから、前に進みたいと俺は思ってます。凛さんがもし、紗由ばあちゃんのこと、快く思ってないとしても、ご勘弁いただけないでしょうか」

 頭を下げるミコトに凛が言う。

「写真や動画は私も提供してた」

「おじいさま…!」鈴露が凛を見つめる。

「立場上、私は彼らと接触はできない。紗由ちゃんは私に代わって、鈴露の話を彼らにしていてくれたんだ」

「父さんや母さんに失礼じゃないか!」こぶしを握る鈴露。

「鈴露。私たちも承知の上だ」出雲が答えた。

「え?」

「ほらー。やっぱり鈴露はみんなに見守られて愛されてる。ずるーい!」腕組みするメイ。

「いや…」顔を赤らめ、下を向く鈴露。

 メイはつかつかと歩いて行き、教壇に立った。

「とりあえず、ひがみ人たちのことも気にしなくてよくなったわけですし、ミコトさんの言うように、これから先のことを考えましょう」

「大事な提案があるんですけど」

 ミコトが手を上げると、一同は次の言葉を待った。

  *  *  *

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