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30歳のボス

久しぶりに映画館へ。一夜限り、一回限りの『ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンド:ノー・ニュークス・コンサート』上映のチケットを手に入れたのだ。1979年にマジソン・スクエア・ガーデンで行われた伝説のステージがリストア(修復)とマスターテープからのリミックスが施され、2021年になって初めてその全貌が公開された。僕は5日間行われた模様を3枚組で収録した『NO NUKES』のレコードを中学生の頃に手に入れた(親戚に段ボール一箱分のレコードをもらったなかに入っていた)。そのレコードのなかでブルース・スプリングスティーンは2曲が収録されていたけれど、どちらもカバーだったので、僕が初めてその音楽に魅了されるのは『BORN IN THE USA』で大ブレイクしてワールドツアーを敢行し、続く『Tunnnel of Love』というアルバムがリリースされる頃だった。

それより随分前、僕が幼稚園年長さんの頃、1979年のブルース(ボス)はちょうど30歳。そのほとばしる歌とギターは荒ぶり疾走し、それに対して若造にはまだ負けられないという気迫でEストリート・バンドもものすごい演奏をしていた。映画館のサウンドシステムはライブ会場並みの爆音で、ライブハウスでしばし体感するような、音圧で鼻がかゆくなる感じとか、低音が溜まって混沌とする感じとか、150席が満席の劇場は真っ暗だけれど足踏みする音や身体を揺らす影越しに眺めるスクリーンを観ながら「これはライブだな」と思った。曲が終わるたびに思わず拍手しちゃったりして。ボスのライブはだいたいいつも3時間、マラソンに例えられるけれど、このコンサートはチャリティーコンサートの1演目なので約90分。だからこそ他で見たことがないくらいの濃縮度でたたみかけられる歌はとにかく圧倒的だった。タイムマシンがあったらこの会場の坩堝に放り込まれておぼれてみたい。

上映後は会場から拍手が沸き起こった。まわりを見回すと僕より全然年上の、かつての青年たちが言葉少なに興奮してて、きっとこの人たちも家に帰ったらしまってたギターを引っ張り出したり、久しぶりに買ったボスのレコードやCDを眺めながらお酒飲んだりするのかなとか、そんなことを想像しながら僕も『明日なき暴走』を聴きながら少し遠回りしながら帰路についた。元気が出ました。

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