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『でかんしょ風来坊』(1960年・斎藤武市)

 1961(昭和36)年春、裕次郎の骨折による降板、赤木圭一郎の急死と、日活ダイヤモンドラインに激震が走っていたとはいえ、小林旭のスクリーンでの快進撃は続いていた。1月の『波涛を越える渡り鳥』『太平洋のかつぎ屋』、2月の『銀座旋風児 嵐が俺を呼んでいる』に引き続いて、アキラ=ルリ子の新作として作られたのが、齋藤武市監督の「暴れん坊」シリーズ第二作『でかんしょ風来坊』である。余談だが、このタイトルもともとはアクション映画として準備されていたもの。
 アキラ=ルリ子のコメディセンスと、齋藤武市のテンポの良い演出で佳作となった『東京の暴れん坊』(60年)の完全な続編として作られている。銀座のキッチン・ジローの若旦那・清水次郎(アキラ)と、銭湯の番台娘の松田秀子(ルリ子)に、元総理大臣で政界の大立者・一本槍鬼左衛門が、銀座で起るトラブルを一掃するというパターンは同じ。今回はそこに、一本槍先生の初恋の人探しをめぐるエピソードを絡め、次々と珍騒動が巻きおこるといった趣向。
 当時のポスターやプレスシートには、前作同様、一本槍先生には小川虎之助がクレジットされている。クランクイン直前になって、小川が病気で出演が叶わなくなったので、急遽、殿山泰司がキャスティングされたという。しかし、殿山の一本槍先生も豪快かつコミカルで、また別な味がある。前作でバー・アルマンのマダム、リラ子を演じていた中原早苗が、ピンクアパッチ団のズベ公(もはや死語)春子を演じている。コケティッシュかつ芸達者な中原はこうしたキャラクターを実に生き生きと演じている。この春子が、銀座の高級ホテル(丸の内の日活国際ホテル)のペントハウスに住むブラジル帰りの大富豪・おタマの孫娘という疑惑が持ち上がる。しかもおタマは一本槍先生の初恋の人。かつてのモガ(モダンガール)と、学生時代の一本槍先生の孫娘か? という事態にまで発展する。
 老婆をやらせたら天下一品の「にっぽんのおばあちゃん」こと北林のコミカルなおタマさんは、狂騒的な物語のなかで、際立っている。銀座のカフェーで女給をしていた時代の回想シーンは、ミュージカル的センスに溢れる名場面。
 タイトルバックに流れる「東京の暴れん坊」は、小杉太一郎の作曲、作詞は助監督の丹野雄二が担当。ガーシュインの「巴里のアメリカ人」よろしく間奏にクラクションが入ったりと、こちらのセンスもなかなかのもの。懐かしのスタイルでレギュラーが舞台の上で寸劇を繰り広げる。書き割りのセットの雰囲気が実に良い。このコンビは、後にアキラ=ルリ子が久々に共演したサラリーマン喜劇『意気に感ず』(65年)でも主題歌「意気に感ず」を作っている。こちらはアキラ版無責任ソングといった趣きで、いずれも未レコード化なのが惜しまれる。
 ルリ子がバイトをしている週刊誌の編集長に金子信雄。いつもは憎々しげな悪役を演じている金子が、意外や意外のコミカルな編集長ぶりを見せてくれる。その誌名が「週刊あなた自身」というのが笑わせる。しかも金子編集長がもりそばを持ち上げると、ルリ子がハサミでカットするというギャグ! これは東宝の『續・三等重役』で森繁久彌と河村黎吉が見せた伝説的なシーンがネタモト。同じ松浦健郎脚本ということだけでなく、一本槍先生のキャラの原型が「三等重役」の奈良前社長(小川虎之助)ということも関係あるのでは? と裏読みの楽しみもある。
 おなじみのアキラ節もタップリ。松の湯の湯船で次郎が自慢の喉を披露する「アキラのチョンコ節」は作詞:西沢爽、作曲:遠藤実、編曲:狛林正一のゴールデントリオによる傑作。和製西部劇と呼ばれたアキラ映画へのセルフパロディともとれる。伊東温泉で歌う「アキラのデカンショ」は、公開前2月5日にリリースされたリズミカルな「デカンショ」節。この時期のレコードの充実ぶりが伺える。
 バイプレイヤー陣もさらに充実。近藤宏の千吉の三枚目ぶりに加えて、悪役の多かった土方弘の出羽亀三の登場シーンが、御丁寧に松の湯を覗き込んでいる「デバカメ」ぶりを発揮。その上司の山形虎三の藤村有弘とのやりとりの妙。
 そうした悪役の陰謀に対し、クライマックス、次郎の怒りが大爆発。敵の本拠地「大銀座土地開発」のオフィスは、もちろん吹き抜け。マイトガイの抜群の身体能力全開のアクションシーンも堪能できる。
 次回作『夢がいっぱい暴れん坊』(62年)は「アキラでツイスト」「ペパーミントツイスト」をフィーチャーした快作。一本槍先生に小川虎之助が復帰し、最終作となった第五作『銀座の次郎長 天下の一大事』(63年)まで続演していくことになる。

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