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『社長洋行記』(1962年・杉江敏男)

 昭和37(1962)年4月29日封切のシリーズ第12作。同時上映は、三船敏郎さんの『どぶろくの辰』(稲垣浩)。東宝は宝田明と尤敏の『香港の夜』(1961年)の成功もあり、香港のキャセイ・オーガニゼイションと提携して合作映画を連作。その前は、ショウ・ブラザースと『白夫人の妖恋』(1956年)、『お姐ちゃん罷り通る』(1959年)を提携、アジアでの東宝映画は、戦前、中華電視公司との提携で『支那の夜』(1940年)を製作。国策映画だったが、終戦直後まで、中国、台湾、朝鮮、ベトナム、タイ、香港、ビルマ、インドネシアで上映されていた。

 この『社長洋行記』は、日本人の、貿易自由化、海外渡航自由化を目前に「百万ドルの夜景」と謳われ、ハリウッド映画『慕情』(1955年)などで、憧れの香港へロケーション。前年大ヒットした『香港の夜』に続いての、宝田明と尤敏の『香港の星』(1962年)と共に、香港ロケが話題となった。杉江敏男監督は『お姐ちゃん罷り通る』での香港ロケの実績を買われて、『続サラリーマン忠臣蔵』(1961年)以来の登板となる。この後も『香港クレージー作戦』(1963年)、『無責任遊侠伝』(1964年)など香港ロケ作品を手がけることになる。

 今回の会社は、サロンパスならぬ「サクランパス」の桜堂製薬。おなじみ、朝の重役会議では、営業部長・中山善吉(三木のり平)肝煎りの「サクランパス」のコマーシャルフィルムの試写。相変わらず、軽薄なのり平さん。社長に褒められると大張り切りだが、逆にダメ出しを受けてしまう。サクランパスの東南アジアでの売り上げが伸び悩み、輸出を任せている商社・加藤清(伊藤忠のパロディ)の加藤社長(東野英治郎)を接待したものの「あんま膏」と歯牙にも掛けない。

 ならば、社長・本田英之助(森繁久彌)は、秘書課長・南明(小林桂樹)と、中山営業課長ののり平さんを同行させて、香港へ市場開拓へと乗り出すことになる。始めての洋行にハッスルするのり平さん、バーの女給や小料理屋の女将・松原あぐり(草笛光子)からお金を預かりお土産の注文を受けて回って、取引先には送別会をねだる始末。これぞ社用族の権化。だけど、それは束の間の夢となる。

 ところが男やもめの営業部長・東海林平左衛門(加東大介)が、密かに付き合っている、あぐりの腹違いの兄が、香港のエージェントであることがわかり、中山営業課長の代わりに東海林部長が香港へ行くことが決まる。しかし、香港行きに舞い上がっている中山に、誰がそのことを告げるのか? 送別会で服部富子さんの「満州娘」の替え歌で「わたしゃ十六、香港娘〜」と、珍妙な扮装で歌っている中山課長が可哀想で、なかなか告げることができない。前編は、のり平さんのハイテンションから、洋行できないと知っての落胆が、ひたすらおかしい。

 ようやく、香港に渡ってからは、いよいよフランキー堺さんが登場。あぐりの腹違いの兄とは、香港のエージェント・坂田(フランキー)だったのである。『サラリーマン清水港』(1962年)同様、中国語混じりのカタコトの日本語で、怪しいことこの上ない。

 香港での初日は、森繁さん、加東大介さん、桂樹さんの「3GENTLEMEN」はそれぞれ自由行動。そこで尤敏さん演じる柳秀敏とそれぞれ出会う。このシークエンスで香港の名所が次々と登場する。九龍サイドからスターフェリーに乗って眺める香港島の光景。ビクトリアピークからの眺望など。森繁社長は、飛行機で再会した東京亭のマダム・早坂悦子(新珠三千代)とランデブーと洒落込む。

 ことほど左様に、エキゾチックな香港情緒をたっぷりと感覚に、味わってもらおうという趣向。昭和30年代の海外への憧れを、映画を通して体感できる。これといった事件も、ドラマ展開もないが、クライマックス、蛇料理を食べたのが原因で、森繁社長の全身が痒くなって大騒ぎとなる。サクランパスを貼っても効果なし。ヘルペスと判明して、帰国の途に着くことに・・・前編はここまで。いつもの社長シリーズより、お話の密度は薄いが、レギュラー陣のいつものやり取りを眺めているだけでも楽しい。他愛はないけど面白い。これぞプログラムピクチャーの醍醐味でもある。


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