3月31日(水)退職 教職員としての卒業
2021年3月31日(水)
ボクが16年間、時間とエネルギーと情熱を注ぎ続けてきた「学校の先生」としての最後の1日。
この日に教職員の人事が新聞に載り、転退職される先生に関する情報が公にリリースされる。
ボクは4時過ぎに、ふと目をさました。妻や子供たちがすやすやと眠る中、ボクは少しひんやりとしているリビングで、おもむろにパソコンを立ち上げた。Facebookに感じるままに今の想いを投稿することにした。
投稿した直後に通知。ボクの尊敬する坂本勝俊コーチ(かっちゃん)の「超いいね」。
昨年、起業すると決断した直後にかっちゃんのセッションを受けた。
「小手先の成功を目指すことよりも、想いを大切にしていることが大切。それができていれば、その時必要な情報は自然と入ってくるよ。」という趣旨のアドバイスをいただいた。
ありがたかった。
ボクはそのアドバイスに素直に従うことにした。
ボクはそのセッションを通して、起業するにあたりずっと懸念していた経済的な不安、ビジネス戦略などは深く考えないようにした。
そして、
どこまでも「人の人生を幸せにするお手伝いがしたい!!」という想いにしたがって過ごしていくことを決めた。
かっちゃんは、これからのボクの命の使い道、方向性を示してくれた恩人である。
そんなかっちゃんから
「おー!としちゃん、ついに!!先生もピッタリの仕事だと思っていたけど、コーチとしても素晴らしい素質に満ちているから楽しみだね✨としちゃんのこれからを心より応援していますね。」
とコメント。
読んだ瞬間、言葉にならない想いで胸がいっぱいになった。
目頭が熱くなる。
これまでのボクを大切にしてくれたこと、同時に、まだ何者でもないこれからのボクの可能性も信じてくれていること。
ボクの存在すべてを受け入れてもらっている、大切にしてもらえているあたたかさを感じた。
かっちゃんの言葉を味わっているうちに、ボクが握りしめていたiPhoneの画面は、次第にうるうるとぼやけていった。
その後も、続々と「いいね」やコメントがボクのもとに寄せられた。
妻が起きてきた。子供たちも起きてきた。
春休みで朝はゆったりとした時間が流れる。いつもと何も変わらない1日。いつもと何も変わらない朝の風景。
いつもとちがうのは、普段ジャージなのにネクタイにスーツ姿でいるボク。そして、ボクの心もちだ。
公に発表されるまで、子供たちにもボクの退職のことは伝えてこなかった。朝からテレビをつけてパジャマ姿でスマブラを始めようとする子供たちに声をかけてテーブルにすわってもらった。妻は抱っこひもで昨年11月に生まれたばかりの次女をだっこしながら洗濯をしていた。
「2人に話があるんだ。」
「お父さんのお仕事は「学校の先生」であることは2人とも知っているね。」
「うん」「うん」
「今まで伝えてこなかったんだけど、今日でお父さんは「先生」というお仕事をやめることにした。これからはお父さんの大好きなコーチングをお仕事にしていくことに決めたんだ。」
子供たちは、ボクの普段とちがう真剣な語り口に応えるように静かにその言葉を受け取っているように見えた。
「だから、今日はお父さんの学校の先生としての最後のお仕事になるんだ。最後のお勤め、しっかり感謝を伝えてくる。」
「そして2人に伝えておきたいことがある。お父さんは、コーチングでボクを必要としてくれる人、ボクが大切に思う人の人生を幸せにする応援をするお仕事をする覚悟を決めた。正直不安もある。例えば、お金。これまでは学校の先生として頑張ってお仕事をしていたから、君たちが生活に困らないだけのお給料をありがたいことにいただくことができていた。でもコーチングをお仕事にするということは、お父さんのことを世の中のだれも必要としてくれなかったらお金をもらえなくなるということなんだ。だから、お金が1円も稼げなくて、あなたたちと今までやってきた生活ができなくなることだって考えられる。楽しいと続けているパルクールも、欲しいと思っている素敵なお洋服も、ゲームだって買ってあげられなくなってしまうかもしれない。迷惑かけてしまうかもしれないんだ。
でも、お父さんは挑戦したい。「何かに挑戦したいと思っている人の人生を応援すること、誰かのお役に立つこと」それが、お父さんが人生をかけてやりたいことだと思えることだから。
お仕事をやめることで、2人には心配や迷惑をかけてしまって申し訳なく思う。でも、お父さんはあのときにこの決断をしてよかったと心から思ってもらえるような人生にする。だから、2人にもお父さんの挑戦を応援してほしい。」
と伝える。
長男が口を開いた。
「お父さん、コーチングをお仕事にするの?」
「そうだよ。」
「…もちろん応援するよ。がんばってね!!」
と力強く言葉をかけてくれる長男。ボクの気持ちが晴れやかになる。
「……ただ、ボク……お父さんが担任の先生だったらよかったなと思ったんだけどね。」「まーちゃんも!」
「ははは!!!親子で担任できるわけないだろー!」
学校現場のシステムはよくわかっていない子供たちならではの残念そうな口ぶり。でも、だからこそ言ってもらえたボクにとってはうれしい勇気付けの言葉だった。
「じゃ、行ってきます」
襟元を正して出発しようとするボクに、娘がだきついてきた。娘なりにボクの決断の重さをわかってくれていたようだった。妻はiPhoneで動画を撮影してきた。ボクをおちょくってドキュメンタリー風にナレーションを入れてくる。ボクにしかわからない妻なりのエールだ。
車に乗り込んで教職員としての最後の勤務に出発するボク。爽やかに晴れ渡る晴天だった。車内ではGReeeeNの「始まりの唄」が流れる。卒業シーズンはいつもこの曲を聞く。今日はボクにとっての卒業式だ。ボクの教職員生活を彩ってきた思い入れのあるこの曲が、いつも以上に強いメッセージ性をもってボクの心へと迫ってくる。
今日から始まる物語 どんな話も描くのは夢次第
さあ行こう 何処までも
そう決めたこと 忘れないように
「拝啓 昨日までの自分へ」
僕は君の途中
僕らの行く先には 地図なんかないし
それが正しいのか 誰もわからないし
ただ生きているから 待ち望んじゃいけない
生きている意味は自分で作る
何だかわからないけど聴いているだけで心が震えてきた。涙があふれてきた。ボクの背中を後押ししてくれているような気がした。まるでボクのために書かれた曲なのかと思ってしまうほどに歌詞が心に沁み入った。
毎日見てきた通勤路の風景がいつもとちがって見えた。
どこまでもまぶしくて、愛おしくて、きらきらとしていた。
涙があふれてくる。見える景色が涙でにじむ。
何者でもないボクだけど、
うまくいく自信なんてないけど、
「大したことない自分」を一生懸命に生きる。
そう決めたんだ。
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