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続、活きがよくてがっちり売れてる若い出版社は案外あるんだけど、あんまり話題にならなかったりするんだよね。

 以前、こんな駄文を書きました。
活きがよくてがっちり売れてる若い出版社は案外あるんだけど、あんまり話題にならなかったりするんだよね。

 今回も自分が勝手に「活きがよくてがっちり売れてる若い出版社」だと思ってるところを何社かご紹介します。若いというのは会社が、です。創業者の年齢は関係ないと思ってます。今回も前回と同様に、「違うんだ、そうじゃないんだ」と思う方がいそうですが、その違和感を解消するためのヒントというか、そんなものにも少し触れたいと思います。

 念押しですが、今回もあくまで自分が思っている「活きがよくてがっちり売れてる若い出版社」です。まあでも、確かに皆さん売れてるようですよ。

 では、よろしくお願いいたします。

■ミシマ社(2006年創業)
 今さら説明する必要もないかと思います。ミシマ社さんです。自由が丘のほがらかな出版社。社長の三島邦弘さんは、PHP研究所(出版社です)、NTT出版を経てミシマ社を創業。取次を経由しない直取引の出版社としても知られています。三島さんとは面識ありません。営業のワタナベさんとは一緒に勉強会に参加したり飲んだりしたことあります。
 取次を経由しない直取引そのものは昔からある取引形態なんですが、ディスカヴァー・トゥエンティワンやトランスビュー、ミシマ社といった直取引の新しい模索は、取次を経由しないオルタナティブな取引形態のニューウェイブとして認識されています。トランスビューはともかく、ディスカヴァー・トゥエンティワンやミシマ社が出している本はどちらかと言うとメジャー路線です。で、このあたり(直取引でメジャー路線)、前回もそうでしたが、古めの人文系専門系の出版社の方やそういう本を好む方が「違うんだ、そうじゃないんだ」と思っちゃったりする原因のひとつなのではないかと推測します。わからないでもないですが、だからといって視界に入れないのはちょっと違うかなあ。実際、けっこう売れてるわけだし。なんだけど、売れてると売れてるで「気に食わねえ」みたいなヒトがいるんだよね。まあ、そういう業界なんで。で、今回紹介する各社は、それとは別に共通する点があったりします。そのあたりも後ほど。

■鉄筆(2013年創業)
 グッと新しくなって2013年創業。鉄筆の渡辺浩章さんは、光文社でFLASH、週刊宝石の編集部などを経て営業部に所属した後、「魂に背く出版はしない」という社是を掲げて独立。ひとり出版社としての創業第一弾は白石一文『翼』の文庫。ひとり出版社なのに創業でいきなり文庫です。しかも10万部突破。1万部じゃなくて10万部ですよ、単純にすごくないですか。自分ももうなんだかんだで四半世紀以上出版社で働いていますが10万部の本はいまだに扱ったことがありません。多分、このまま扱うことなく人生を終えるのだろうと思います。小零細だとよくある話ですよね。なのに、ひとり出版社で、創業第一弾で、10万部。本当にすごい。
 鉄筆が2019年6月に刊行する最新刊は藤島大『序列を超えて。ラグビーワールドカップ全史1987-2015』。渡辺さんとは面識ございません。

■クラーケン(2017年始動)
 クラウドブックスとケン・エレファントの2社共同で立ち上げた出版社がクラーケン。クラウドブックス代表の鈴木収春さんは、講談社での編集経験を経て出版エージェント&編集プロダクション&PRプランニング事業を展開。クラーケンとして、那須川天心『覚醒』、和田裕美『ぼくはちいさくてしろい』、村雨辰剛(庭師、NHK「みんなで筋肉体操」出演)『僕は庭師になった』などなどを刊行。現在は、クイズ王・伊沢拓司が率いるQuizKnockによる初の公式本『東大発の知識集団QuizKnockオフィシャルブック』が大ヒット中。2019年7月には、雷句誠『金色のガッシュ!!完全版』で、コミックにも進出するそうです。書籍はトランスビュー扱いですが、コミックは鍬谷経由とのこと。トランスビュー扱いでコミックは難しいだろうなあ。そういう意味では妥当な判断だと思いますが、コミック扱うならト・ニに口座開いても良いのかも。クラーケン関係者の方とは、面識、まったくありません。

■ライツ社(2016年創業)
 大塚啓志郎さんは出版社での編集経験を経て30歳で、海とタコと本のまち、兵庫県明石市にて、旅をテーマにしたエッセイやガイドブック、写真集、小説、図鑑、実用書などを手がけるライツ社を創業。ヨシダナギの写真集『HEROES』、さわぐちけいすけ『僕たちはもう帰りたい』などの話題書を刊行。最新刊の『売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』の著者、中村朱美氏は、TBS「NEWS23」テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」テレビ東京「ガイアの夜明け」などにも出演、「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞も受賞。ライツ社は直取引ではなく、トーハン・日販・大阪屋栗田・中央社と口座を開設しています。面識はないです。

 ここまでの、ミシマ社、鉄筆、クラーケン、ライツ社には、自分の見るところ、大きな共通点があります。誤解を恐れずに言えば、彼らは作りたいものを作る、つまり、昨今出版業界でよく言われるマーケットインとは逆のプロダクトアウトの方向性を志向しています。なのに、売れる。それは先に触れた「メジャー路線(に見える)」とも絡んでいます。ただし、ことはそう簡単でもありません。マスを狙っているというわけでもなさそうなんです。どちらかと言うとニッチ、なんですが、メジャー路線なんです。このあたり、何を作っても狭い世界にギュンギュンに閉じていく方向の出版社にいる自分などには、とてもわかりにくい感覚なんです。で、どちらかと言うと自分のような方、少なくないんじゃないかなあ。
 そのあたりを理解するためのヒントについて、次の社で少し触れます。

■左右社(2005年設立)
 小柳学さんは雑誌や書籍の編集者を経て左右社を創業。左右社は、哲学、小説、エッセイ、写真集、短歌、放送大学のテキストをもとにした放送大学叢書など、幅広い内容の本を年間で約30冊程度刊行しています。左右社も直取引ではなくトーハン・日販経由ですが、取次の口座開設には苦労されたそうです。
 左右社は2016年にスマッシュヒットとなった『〆切本』を刊行します。それまでの、どちらかと言うと地味な(失礼)本と比べると、『〆切本』の売れ方、広がり方は、明らかに違っていました。しかし、その違いの秘密はどこにあるのでしょうか。
 小柳さんは2008年に版元ドットコムの版元日誌「読者はどこに?」を書かれています。短い文章ですが、ベストセラーの棚に目もくれなかった編集者が書評の仕事を通じてビジネス書のベストセラーを実際に読み認識を大きく変えた事実が淡々と描かれています。この日誌を読んだ当時、自分は左右社が変わる確かな息遣いを感じました。実際にはそんなに簡単な話ではなく、左右社が『〆切本』を出すまでには、そこそこの年数を費やしているわけですが、あの頃からの変化は蓄積されているのではないかと思います。小柳さんとは版元ドットコムの会合でお会いしております。

 今回挙げた社は、極端に大きい社はありませんが、取引形態も規模も出している内容も様々です。ですが、共通している点は、作りたいもの出したいものと読者の欲しいものがある程度一致しているという、どちらかと言うと良い意味でのプロダクトアウトの方向性です(そこまで言うと持ち上げ過ぎかも知れませんが)。言い換えると、あえてマーケットインがどうこう言わずともマーケット志向が血肉と化しているというか、そういうことなのかも知れません。
 世の中には売れない出版社というのが沢山あるわけですが、売れない出版社はマーケット感覚が血肉化していない、もしくはそもそも無い、もしくはあえてのアウトオブ眼中なのかも知れません。自分は編集ではありませんが、企画を出すことはあります。マーケット感覚は無いかも。いや、無いな。全く無いです。なので、せいぜい企画会議がピークの企画しか出せません。こういうのって学んだりしてどうにかなるものなのかなあ。
 左右社の項でリンクした小柳さんの版元日誌「読者はどこに?」はヒントになりそうです。自分はきっと売れてる本をもっと読むところから始めないといけないのでしょう。そう言われてみると自分の周りの売れない編集者はああだこうだ言って売れてる本は読みたがらないかもなあ。ま、読んだうえで「こんなのはダメだ」みたいなことを言う方も多いんですけどね。この業界、敵に回すとうるさいけど味方にしてもうるさいみたいなヒト、本当に多いので……。


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