見出し画像

【超短編】一斗缶

昔住んでいた家の庭先で祖母が一斗缶で何かを燃やしていたという記憶に根ざした夢を、年に一度か二度見ることがあった。一斗缶が揺れ、中からか細い鳴き声のようなものが聞こえてきて、私は見てはいけないものを見てしまったような気になる。古い記憶すぎて、現実にあったことと夢の境目が自分でもわからなくなっていた。初めての子を出産したとき、その産声が一斗缶の中から聞こえてきた声と繋がって思わず身震いした。あれは赤ん坊を生きたまま燃やしていたのではないか。祖母は数年前に火事で亡くなっていた。認知症だったが施設への入居は頑なに断り、独り暮らしだった。出火原因は不明とされていた。



*この作品はホラー・SF・幻想系の超短編アンソロジー「たまゆらのこえ」に収録されています。


いただいたサポートは子供の療育費に充てさせていただきます。あとチェス盤も欲しいので、余裕ができたらそれも買いたいです。