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「スポーツ×地図」でDXする7つの方法

メジャーリーガーの大谷翔平選手が渡米したのは、2018年。怪我の時期もありましたが2021年は本塁打王を争うだけでなく、投げては9勝と名実ともに二刀流を実践しました。2022年も躍動する大谷選手の活躍は、熱心なファンでない人々の心をも確実に動かしています。

また、スポーツといえば、2021年は「東京五輪」が開催され、ここ数カ月の間だけでも、サッカー日本代表戦、プロ野球の交流戦、ボクシングのバンタム級世界3団体王座統一戦など、スポーツ界のビックイベントが続いています。そして、これから迎える夏の風物詩といえば「甲子園」。地元の高校の試合結果が気になっている方も多いでしょう。

しかし、スポーツ業界は2020年以降、コロナの影響を大きく受けることになりました。「東京五輪」の開催が危ぶまれる状況で、体操界のレジェンド・内村航平選手が「できないではなく、どうやってできるかを考える方向に」という趣旨のコメントを発表。サッカー日本代表の吉田麻也選手も、五輪、ワールドカップ予選開催中に「スタジアムに足を運んでほしい」という趣旨のメッセージを何度も発しています。

コロナ以降の2年半という歳月は「スポーツ選手」だけでなく、「主催者」にとっても想像を絶するような状況だったに違いありません。ファンに会場に足を運んでもらい、運営を成り立たせることの困難さを感じたはずです。

スポーツ1.0から3.0へ──コロナが加速させたDX

選手や主催者、そしてファンも、スポーツを楽しむためにさまざまな工夫を凝らしてきました。苦しい状況のなかで"新たな可能性"の兆しも出てきました。

その1つが「スポーツ×DX」です。

今回の記事では、スポーツの楽しみ方の変遷を「スポーツ1.0」「スポーツ2.0」「スポーツ3.0」という3つのフェーズに分けて、勝手に考えてみたいと思います。

「スポーツ×DX」の走り書き

「勝手に」と書いたのは、私は"スポーツの専門家"ではないからです。私の本業は、地図サービス開発のプラットフォームを提供するマップボックス・ジャパンのCEOです。「地図を扱う会社として、スポーツをもっと楽しむためのDXはできないだろうか?」という発想が出発点となっていますので、アイデアの一例としてご参考にしていただければ幸いです。

スポーツを構成する4つの要素

最初に考えるべきは「スポーツを構成する要素」には、何があるのかということです。ここでは下記に挙げた4つの要素でスポーツという「場」が成立していると考えていきます。

  1. アスリート(競技)

  2. ファン(応援)

  3. スタジアム(運営)

  4. スポンサー(企業)

真ん中にある「スタジアム(競技場)」(運営)を、アスリート、ファン、スポンサーの三角形が囲んでいるイメージです。

●スポーツ1.0 = ジャイアンツモデル

みなさんは「巨人、大鵬、卵焼き」というフレーズをご存じでしょうか? 第48代の横綱・大鵬の初土俵は1956年とのことですから、高度成長期のスタートを1955年と捉えるなら"戦後復興期の流行語"だったといえそうです。

ここで注目したいのは、なぜ「巨人は人気があったのか?」です。

巨人に魅力的な選手がいたことも大きな理由の1つですが、1953年に日本テレビ放送網(日テレ)が放送をスタートしたことにも注目したいと思います。つまり、巨人が人気となったのは、「巨人の試合がテレビで頻繁に放送されたから」という理由が欠かせないということです。

当時のメディアの主軸は、新聞、テレビ、ラジオといった、いわゆるマス媒体です。とくに映像と一緒に見ることのできる「テレビ」の影響力は絶大です。私自身は世代ではありませんが、街角に設置された「街頭テレビ」に多くの人が見入っている報道写真はとても有名です。

テレビというパワーで、スポーツはファンを拡大。企業はテレビ番組のスポンサーになることでファンに商品やサービスをPRする──。そんなエコシステムが出来上がったのがこの時期です。テレビの普及がスポーツ振興に大きな影響を与えた時代を「スポーツ1.0」と勝手に呼ぶことにします。

●スポーツ2.0 = Jリーグモデル

スポーツに限らず、多様な物事が普及するには「流通コスト」が下がる必要があります。その点、スポーツの多様化に貢献したのは、なんといってもインターネットの普及ではないでしょうか。

1990年代初頭から2000年代にかけてを「インターネットバブル」というキーワードで表現することがありますが、時同じくして誕生したのが、1993年発足の日本のプロサッカーリーグである「Jリーグ」です。


Jリーグとプロ野球の違いの1つは、スポンサー名の扱い方です。現場ではさまざまな議論があったことと思いますが、J1の現在の順位表を見てみると、いずれのチーム名にも企業名がついていません。

1位:横浜F・マリノス
2位:鹿島アントラーズ
3位:川崎フロンターレ
4位:柏レイソル
5位:サンフレッチェ広島
6位:セレッソ大阪

一方のプロ野球のパリーグの順位表を見てみると、一部のチーム名にスポンサーである企業の名前を冠しています。

1位:福岡ソフトバンクホークス
2位:東北楽天ゴールデンイーグルス
3位:千葉ロッテマリーンズ
4位:埼玉西武ライオンズ
5位:オリックス・バッファローズ
6位:北海道日本ハムファイターズ

どちらが良い悪いという話ではありません。勃興した時期の違い、時代を取り巻く環境などが大きく影響していると私は思っています。テレビやラジオで「巨人戦」を中心に放送していたこれまでとは違い、インターネットの普及によって、他のチーム、他のスポーツに接する機会が増えたということです。

ちょうど「地域に根差したスポーツクラブ」を目指すJリーグが発足したことは、スポーツがより民主化した、地域分散化したと捉えることもできます。その結果、ファンは「見る」から「盛り上げる」意識が強まり、ファンのサポーター化が促進することになりました。

本記事では、地域ごとに根強いファンがサポートしている時代を「スポーツ2.0」と勝手に名づけたいと思います。

小学生の将来の夢が「野球選手」だけでなく、「サッカー選手」「バスケットボール選手」というように、徐々に多様化していくきっかけとなったのも、この時期かもしれません。

●スポーツ3.0 = パラレルワールド

では、ここまで分析した「スポーツ2.0」と次に説明する「スポーツ3.0」の違いは何でしょうか? 「スポーツ3.0」によって楽しみ方が劇的に変化するというのが私の見立てです。

コロナによって半ば強制的に不要不急の外出が制限され、「スタジアムにファンが集まることができなくなった」ことが様々な変化を引き起こしています。

もともと「スポーツの楽しみ方」は多様化してきました。純粋に「スポーツ観戦を楽しむ人」もいれば、「地域活性化としてスポーツを応援する人」もいる。さらには、チームよりも「特定の選手を応援する”推し活”」といったことも一般化してきています。

スポーツは何を楽しんでもよく、1つのスポーツでもいろいろな楽しみ方や目的が併存しています。「スポーツの楽しみ方」はこれからどんどんパラレルワールドのように多様化するだろうということです。このフェーズをここでは「スポーツ3.0」と表現しています。

スポーツを「地図」を使ってDXする7つのアイデア

では、これからどんな「スポーツ3.0」が登場するのでしょうか。地図サービス開発のプラットフォームを提供するCEOとして、「こんなことができたら、きっとスポーツがもっと楽しくなる!」というアイデア7つをご紹介したいと思います。

①甲子園:3D地図で「出身県チームの応援」をもっと楽しく!

多く人が甲子園で真っ先に注目するのは「出身地の地方大会」や「出身高校が勝つか負けるか」です。特に、甲子園の全国大会で行なわれる「出身県チームの初戦」は気になる方が多いに違いありません。

でも、たとえば出身県チームが1回戦で敗退した場合、2回戦、3回戦を同じ熱量で観戦できなくなる。そして、決勝戦だけをテレビで観戦して夏が終わる、といった人は多いのではないでしょうか。

「それだけではもったいない!」と私は思います。

「対戦表」と「地図」を組み合わせて、2Dや3Dで「この地域 vs. この地域」という表現ができます。さらに地方大会のハイライト映像なども掲載できたら、「出身県チームの応援」がもっと楽しくなるのではないでしょうか?

メジャーリーグが「そんなデータ、誰も知らないよ」というくらい細かなデータで盛り上げるように、この地図に過去の対戦成績、選手のデータ、あるいは地域の特産品、場合によってはその地域らしい広告を載せるビジネスも展開できるかもしれません。

出身県チームの試合データや「有名なプロ野球選手が○○高校の卒業生にいる」などのデータなど、いろいろなデータを可視化するメディアとして地図はピッタリです(私はそう信じてます!)。

②メジャーリーグ:移動は一つの「物語」になる!

メジャーリーガーはアメリカの国土が広いので、試合のたびに長距離の移動を強いられていることは有名です。大谷選手の場合でも、「4000キロも移動」といったニュースを見ることがよくあります。

そんな移動を逆手にとって、マップボックスの「ストーリーテリング」という技術で、移動や成績などを地図上で表現してはどうでしょうか。

ニュース報道でも、実際に「ストーリーテリング」が使われている例があります。

地図ならば、①の甲子園もたとえば「成績と場所」と紐づけて、物語の解像度を上げて表現の幅を広げることもできると思います。

③サッカー:遠征するファンを地図でおもてなし

サッカーのチームの遠征に帯同して、日本全国を回る熱烈なファンはたくさんいます。そんなファンを迎えるホーム側でも、たとえば「○○○の名物マップ」のようなものを配って「おもてなし」をするという話を聞いたことがあります。

たとえば「ここは○○○ファンが多いお店」とか「ここはサッカーファンなら誰でも楽しめるお店」とか「お土産はここで買えます!」といった情報をデジタル地図上で表現できれば、アウェイのファンも楽しめて、地域経済も潤うという一石二鳥の効果を狙えそうです。

④チケット:地図があれば「実際の眺め」を確認して購入できる

アメリカ発のオンラインチケット販売サイトを手がけるStubHubでは、購入予定の席からの眺めまで確認できるようになっています。

アーティストのライブなどでも、いかに演者との距離が近いか、よく見えるかという点がファンにとっては重要なことを考えると、チケットの販売方法についても、まだまだDXする余地はありそうです。

⑤マラソン:応援している選手にズームイン

マラソンをテレビで観戦していると、基本的には先頭集団を中心にした映像が流れます。その他の選手の映像は記録されていても、実際には使われないことが多くあります。

でも、"推し活"に対応してこそ「スポーツ3.0」。自分の気になる選手、自国出身選手の映像をウォッチできるサービスがあれば、相当な需要があるのではないでしょうか。

たとえば、新春恒例の箱根駅伝で「青山学院大学」「順天堂大学カメラ」「駒澤大学カメラ」「東洋大学カメラ」「早稲田大学カメラ」など、各大学ごとの映像を流せるならどうでしょうか?

きっと自分の出身大学チームがあれば見たくなるはず。トライアスロン、ツール・ド・フランスといったスポーツも考え方は同じです。きっと、もっと多くの視聴者を取り込むことができます!

⑥スキー:「地形の高低差」を地図で表現

地形を使ったスポーツは、地図との相性がとても良いです。

スキーなどの高低差を利用したスポーツは、斜面の情報を3Dモデル化することで、もっとイマーシブな(没入感のある)表現が可能かもしれません。

⑦ゴルフ:地図上のコースから視点を選べれば臨場感が増す

ゴルフは、なんといっても地図との相性が良いと思います。もちろん、現地に行って、選手と一緒に一打一打の緊張感を味わうことは醍醐味の1つに違いありません。ですが、ゴルフコースの地図のうえにプレイヤーのアイコンを配置して、視聴者が自由にカメラを選択できるようにするとしたら、どうでしょうか?

遠隔でも「それなら十二分に楽しめる!」と思っていただける方がきっと多いと思います。

おわりに

以上、スポーツを「地図」を使ってDXする7つのアイデアでした。いかがでしたでしょうか? ご興味のある事業者の方、スタジアムを運営されている方がいらっしゃれば、いつでもご連絡をお待ちしております。

そして、私も有言実行ということで、昨年は残念ながら実施できなかったツール・ド・東北で、東北のみなさん、東北を応援するみなさんが少しでも楽しめるように仕組みを、地図を使って構築してみたいと思っています。

マップボックス・ジャパンが展開する「地図サービス開発のプラットフォーム」は、きっとスポーツ全般のDXに役に立つと私は確信しています。

マップボックス・ジャパンHP

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