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【全文書き起こし】TED2010(ノーベル経済学賞受賞記念):貧困との戦いにおける社会実験

ノーベル経済学賞の3氏 貧困の解消を実験で解明 (写真=ロイター) :日本経済新聞

2019年のノーベル経済学賞の受賞理由は「世界的な貧困の緩和への貢献」。実験経済学という分野で、貧困削減のため、ランダム化比較試験(RCT)と呼ばれる手法を用い、貧困を脱するための効果的な支援方法について実証的に解明した研究者らにおくられた。

今回のノーベル経済学賞研究者の内のひとり、エステール・デュフロさんのTEDでのプレゼンが素晴らしかったので、自分用に文字起こし。

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私は小柄なフランス人で…フランス語訛りが強いのもすぐに明らかになりますが。私がこれから話すのは はっとするような話かもしれませんし、しかも既に知っていることかもしれません。

今年ハイチの方々に寄付をされた方は多いでしょう。そして皆さんは意識の片隅で毎日25,000人の子どもたちが完全に予防可能な病気で死んでいくことも知っているはずです。8日に一度、ハイチ地震が起きる計算になります。この子どもたちへ寄付をした方も多いでしょう。でも何故かハイチのような救済は得られません。なぜでしょうか。

ある思考実験をしてみます。自分で募った数百ドルがあるとします。または発展途上国の政治家だとします。予算を組んで貧しい人たちに使いたいと考えています。どのように実行しますか?

お金を費やすことだけが大事だと言う人が正しいでしょうか(ここで、ジェフリー・サックスの『貧困の終焉』がスライドに載る)。貧困をなくす方法を知っているという人がそう言えばそのように活動を増やすだけ?それとも援助は役に立たず(ここで、ウィリアム・イースタリーの『傲慢な援助(原題・白人の重荷)』がスライドに載る)、逆効果であり、汚職や依存を助長させると言う人が正しいのでしょうか。

それとも、従来のやり方に戻る?結局のところ、私たちは何十億ドルもの援助をしてきました。過去の業績を振り返ってもそれが良かったのかどうかはわかりませんし、その真相を知る術はないのです。

アフリカを例に見てみましょう。彼らは莫大な援助を受けてきました。アフリカのGDPはそれほど上がっていません。もし援助がなかったらどのようなものだったでしょう。さらに落ち込んでいたかもしれないし、好転していたかもしれません。この事実に反することは誰にも分かりません。調べようがないからです。では、どうしたらいいでしょう。

援助と希望を与え念じれば、結果が生まれるとでも?それとも自分の生活に集中して8日おきに〝地震〟が起き続けることを傍観するだけ?

重要なのは、私たちの行いがプラスになると確信がなければ私たちの存在とは中世のヒル治療と変わりありません。患者は回復することもあれば死に至ることもある。原因はヒルなのか、別物なのか――私たちには分かりません。

ここで、他の質問をします。先ほどよりも小さな内容ですが、ささいなことではありません。予防接種は子どもを救う一番安価な方法です。そのために世界中では莫大な資金を費やしてきました。GAVIもゲイツ財団も多額の資金提供を約束しています。発展途上国の努力も多大なものです。しかし毎年最低でも2,500万人の子どもたちが受けるべき予防接種を受けていません。まさに「ラストマイル問題」です。技術もありインフラも整っているのに普及しないのです。

さて100万ドルの予算があったらこの「ラストマイル問題」解決にどうやって使いますか?

ここで別の質問です。毎年90万人もの人がマラリアの犠牲になっておりその大半はサハラ以南に住み5歳以下の子どもがほとんどです(881,000名の死亡者数/年、91%がアフリカ在住、85%が5歳以下)。マラリアは5歳以下の子どもの主な死因であるのも事実です。マラリア根絶の方法は分かっています。

しかしこう言う人もいるでしょう。"100万ドルで蚊帳を確保したらどう?"蚊帳はとても安く作れます。10ドルあれば殺虫剤を練り込んだ蚊帳を生産して発送でき使い方を指導することもできます。蚊帳はその使用者を守るだけでなく感染を防ぐ役割も果たします。もしも地域社会の半分が蚊帳を利用すればもう半分の人たちにもプラスになります。なぜなら病気の感染を食い止めるからです。なのに利用しているのは感染の可能性がある子どもの25%。政府が蚊帳の補助金を出したり無料配布したり、またはお金を配ってでも普及させれば感染を防ぐことにつながるでしょう。

"ちょっと待って!"という人もいます。"無料配布をしたらその価値を分かってもらいづらい。彼らは蚊帳を使わないだろうし蚊帳として使うのではなく魚釣りに使われるかも"…では、どうしたらいいでしょうか。普及率を高めるために無料で配るか蚊帳の価値を分かってもらうために代金を請求するか…どうしたらいいでしょうか。

3つ目の質問は教育についてです。子どもたちを通学させることが解決の道かもしれません。でもその方法とは?教師を雇い、学校を増設?給食は用意する?わからないことだらけです。

援助が良かったかどうかなど大きな問題には私には答えられません。でも、この3つの質問には答えられます。私たちは中世ではなく21世紀にいるのです。20世紀にはランダム化比較試験により薬の効き目を把握できるようになり医療に大変革をもたらしました。同様に社会的政策にもランダム化比較試験が使えます。薬に使う厳密な科学的試験を社会的革新に応用できます。このように何がうまくいき何がうまくいかないか、そしてその理由を政策立案から当て推量を得られます。

この3つの質問の例を挙げてみます。

では予防接種から始めます。ラジャスタンのウタイプル地区。きれいな場所です。私がそこで仕事を始めたとき受けるべき予防接種を受けた子どもたちは約1%でした。ひどい状況ですがそんな場所もあるのです。ワクチンがないのではありません。ワクチンはあるし、無料です。親たちが無関心なのではありません。予防接種を受けていない子どもたちがはしかにかかった場合親は治療のために大金を払います。かくして村の診療所はがらんとして病院は患者であふれています。何が問題なのでしょう。明らかにきちんと理解できていない人が問題でもあります。この国にも言えることですが、予防接種に関する様々な作り話や誤解が存在します。この場合もそうなら解決は困難です。説得するのは非常に困難だからです。

しかし、他にも問題はあるのかもしれません。理由があって行動に移せないのかもしれません。

(あなたが)ラジャスタンのウタイプル地区に住む子どもを持つ母親であると想像してください。子どもに予防接種を受けさせるには数キロ歩かなくてはいけません。診療所へ辿り着いても閉まっていて来た道を戻らなくてはいけません。多忙でやるべき事が山積みです。先延ばしにしてばかりで、しまいには手遅れになります。

もしそれが問題ならば、解決は難しくはありません。第一に問題を緩和させられます。第二に先延ばしにせず今すぐ実行に移すようみんなに働きかけられます。簡単なアイデアですが、気付きませんでした。

そこで私たちはランダム化比較試験をウタイプルの134の村で行いました。青い点は無作為に選ばれたものを示しています。青の点は問題の緩和だけ、赤の点は問題の緩和に加え今すぐに実行に移すように働きかけました。白は比較対象(ネガティブコントロール)で何も変化はつけませんでした。

「問題を緩和した」というのは、子どもたちに予防接種を受けやすくするように仮診療所を1か月間設置しすぐに行動を移してもらえるように予防接種をする度に1キロの豆をあげることにしました。1キロの豆は大した量ではありません。この量で誰かにやりたくないことをやってもらうよう説得するのは無理でしょう。一方で、延期することが問題なのであれば今日実行に移そうという気にさせられるかもしれません。

結果はというと、以前はすべてが同じ状況でした(子どもたちの予防接種率before…白:1%、青:2%、赤:0%)。これがランダム化の長所です。それが診療所の設置だけで接種率が6%から17%に上昇しました。受けるべき予防接種の数値です。まずまずの進歩です。(さらに)豆を提供することで38%まで上がりました(子どもたちの予防接種率after…白:6%、青:17%、赤:38%)。これが答えです。問題を緩和して1キロの豆を付けると予防接種率が6倍になります。

"豆をずっとあげるわけにもいかない"そう言う人もいるかもしれません。しかし経済的には豆をあげないよりあげた方が安くなります(青:仮診療所設置の費用は50ドル、赤:1キロの豆の費用は27ドル)。看護師を雇わないといけないため、一回の予防接種にかかる料金はおまけをつけた方が安くあがるのです。

蚊帳に関してはどうでしょう。無料で提供すべきか、売るべきなのか――答えは3つの質問に対する答えで決まります。一つ目は、蚊帳を売ることにしたら購入する人はいるかどうか、二つ目は、蚊帳を無料で配ったら使ってもらえるかどうか。三つ目は、無料で配ることで今後購入しなくなるかどうか。
重要なのは三つ目です。無料で配られることに慣れてしまうと市場が打撃を受けてしまうのではないでしょうか。この論議は多くの意見が飛び交い憤慨した人もいます。現実的というより観念的ですが簡単な質問には答えています。この質問に対する答えは実験を行うことで分かります。

いろいろと試されましたが結果は同じなのである実験の話だけを紹介します。ケニアで行われた実験です。ケニアの人たちに割引券を配って回りました。この割引券があれば薬局で蚊帳が手に入ります。ある人は無料券をもらいました。ある人は20%割引券。ある人は半額券などいろいろ用意しました。それで結果を見るわけです。

購入具合はどうだったかというと、蚊帳を購入してもらう場合、普及率はぐっと下がります。ですから補助金を出したとしても3ドルで蚊帳は作れませんし蚊帳を手にするのはわずか2割。集団免疫が落ちるので良くありません。

二つ目は、使い道はどうかということ。蚊帳を持っている人は入手方法に関係なく使用することが分かりました。無料でもらっても使うし購入しても使うのです。

長期的な面から見てみると無料で蚊帳をもらった人たちは一年後で2ドルで蚊帳を購入できる選択肢が与えられます。無料でもらった人たちはもらわなかった人たちよりも二つ目を購入する確率が高くなります。そうすれば試供品を当てにすることもなくなり蚊帳も使ってくれるようになります。彼らに対する少しばかしの信頼が必要かもしれません。蚊帳に対しては以上です。

予防接種や蚊帳について把握できたと思われるでしょう。でも政治家が必要なのは幅広い選択肢です。彼らは私にできるものの中で目標を遂げるのに最善の方法はどれか知る必要があります。

皆さんの目標が子どもたちを学校に送ることだとします。できることはたくさんあります。制服の支給や学費の免除、トイレの設置、女の子には生理用ナプキンの支給などなど…一番良いのは?

私たちはある一定レベルでどれも可能になればいいと思っています。直感で物事がうまくいくと思うからと言って実行に移しても良いのでしょうか。明らかにビジネスではそうしません。

貨物輸送を例にとってみます。英国で産業革命が起こる前、つまり人工水路がつくられる前、貨物は荷馬車で輸送されていました。そして人口水路がつくられ荷馬車で運んでいた量の10倍の貨物が運ばれるようになりました。目的地に到着できるからと彼らは荷馬車を使い続けるべきだったでしょうか。もしそうであれば、産業革命は起こらなかったでしょう。

ではなぜ社会的政策でも同様にすべきではないのでしょうか?技術の世界では実験やファインチューニング、コストの引き下げに時間を費やします。なぜ社会的政策にも同じことをしないのでしょうか。実験で出来ることは簡単な質問に答えることです。様々な介入に使える100ドルがあるとしましょう。100ドルで何年の教育が受けられるでしょう。これからお見せするのは様々な教育介入から得たものです。

まずはすぐに頭に浮かぶもの。教師の確保(1.7年)、給食(2.8年)、制服(1年)、奨学金(1.4年)…100ドルにしてはまずまずです。1年から3年の教育といったところです。うまくいかないのは父兄への賄賂です。あまりにも多くの子どもが就学しているため、結局大金を費やすことになります。

ここで驚きの結果です。教育から得られる利益を押し広めることは低予算で行え、100ドルをそのように使えば40年分の教育が得られるのです。腸内に寄生虫がいる――子どもたちが住む場所で寄生虫(28.6年)を駆除します。100ドルに対して30年分の教育が得られます。これは直感ではありません。

このように行う事もないでしょうが、これは実際にうまくいく計画なのです。私たちにはこのような情報がもっと必要です。そして政策の指導が必要です。

私は冒頭で大きな質問には答えられず、小さな質問に焦点を当ててみましたがそれには答えを見つけられました。有効で、科学的で、力強い答えです。

少しの間、ハイチの問題に戻りましょう。ハイチでは約20万人が犠牲になりました。直近の概算ではそれ以上の数です。世界中から救いの手が差し伸べられ、先月だけでも20億ドルが寄付されました。犠牲者一人当たり1万ドルの計算です。大した金額には感じられませんが、5歳以下で死んでしまうすべての子どもに1万ドルを費やすとすればこの問題だけでも1年に900億ドルかかることになります。

しかし、実現しないのはなぜでしょうか。

私が思うに、ハイチでの問題は大きいけれど、場所が限定されていました。国境なき医師団へ寄付、パートナーズ イン ヘルスへ寄付——そうすれば、彼らは医師を送り込み材木を送りヘリコプターで物資を輸送します。

貧困が抱える問題はこのようなものではありません。まず大半は目に見えない問題で、次に問題が大きすぎます。そして、我々の対処が正しいものかも分からないのです。決め手となるものはありません。ヘリコプターで貧困から人々を救出することも無理です。

非常に苛立たしいのですが、今日私たちがしたことを見てください。

3つの質問に対する3つの答えを提示しました。予防接種と同時に豆を配り、蚊帳を提供し、寄生虫を駆除する。300ドルで予防接種を実施し、蚊帳を使って一人の命が救えます。3ドルあれば寄生虫を駆除し1年分の教育が受けられます。

貧困を根絶することはできなくても、効果が認められる小さなことから始めることはできます。これがどれだけの力を持つのか、例を出してみます。寄生虫の駆除です。

寄生虫は新聞記事になるほど人目を引くものではありません。でも、ダボスの若者は先ほどの情報を広め寄生虫駆除の団体を作りました。その団体の活動と多くの国の政府や財団の努力により2009年には200万人の児童の寄生虫駆除を行いました。これは断固たる結果であり、行動を駆り立てる力を持っています。

私たちは行動に移すべきです。簡単にはいきません。地道な作業です。実験をし続け、時に実践によって空論を負かさなくてはいけません。アプローチも場所によっては変える必要があります。非常にゆっくりとした作業ですが他に方法はないのです。

私が提案しているこの経済は20世紀の薬のようなものです。ゆっくりとした熟慮を要する発見なのです。奇跡的な解決法はありませんが、現代医学が毎年、何百人もの命を救っています。それは私たちにもできるのです。

今なら、冒頭で私が質問した大きな質問を引き出せるかもしれません。過去に費やした援助が差を生み出したかどうか分かりませんが、30年後にこの場所に戻り、"私たちのやったことが良い方向に進んでくれた!"と言えるでしょう。その可能性と実現を信じています。ありがとう。

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著書は今回のノーベル経済学賞を機に購入。自宅にとどくのがたのしみ。


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貴重な時間のなか、拙文をお読みいただき 有り難う御座いました。戴いたサポートのお金はすべて、僕の親友の店(https://note.mu/toru0218/n/nfee56721684c)でのお食事に使います。叶えられた彼の夢が、ずっと続きますように。

読んでくださって有り難う御座います。
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こどもの医療機関でPR・Webサイト運営・ファンドレイジング(寄附あつめ)に従事.Living in PeaceこどもPJT(広報Gr).ほぼ日の塾4期生.

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