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~変化をしないということ~ プレミア第32節 ブライトンvsマンチェスターユナイテッド

イングランドプレミアリーグ第32節 ブライトンvsマンチェスターユナイテッド 2020.6.30

試合前両チーム状況

ブライトン(15位)

再開後の2試合で4ポイントを獲得したブライトン。前節レスター戦から中6日と比較的余裕をもってこの試合に挑む。歴史上ブライトンはホームでのユナイテッド戦において負けたことが一度もない。しかし試合前のプレスカンファレンスでポッター監督は「歴史は関係なく目の前の試合に集中する必要がある」と語った。

※前節のレビューはこちらから↓

プレミア第31節 レスターvsブライトン|とーれす @Torres9_vega  https://note.com/torres9_vega/n/n73ec663faa80

マンチェスターユナイテッド(5位)

1月27日FAカップで6-0の勝利を収めて以降、公式戦13試合連続無敗のユナイテッド。今節もその記録を継続させ、CL出場権が獲得可能な4位につける5ポイント差のチェルシーに食らいつきたいところ。ミッドウィークのFAカップノリッジ戦から中2日でこの試合を迎える。

スタメン

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ホームのブライトンは前節のスタメンから2人を変更。攻撃の核であるモペイとトロサールがベンチスタート。後半に投入しギアアップする狙いがありそう。ユナイテッドは前節と同じスタメン。ブルーノ・フェルナンデス、ショー、マグワイアはミッドウィークの試合で120分を戦いこの試合に挑む。

ブライトンは相手の出方に対し様々な対応策を講じることが得意なチーム。しかし今節はユナイテッドが同じ戦い方で90分を戦ったこともあり、試合中の大きな戦術変更は見られなかった。そのため今回は時系列で確認するのではなく、4局面に分けてそれぞれの局面での両チームの戦い方を確認していく。

ブライトンボール非保持/ユナイテッドボール保持

前半は7割のボール支配率を誇ったユナイテッド。マティッチが2CBの左側に降り、後方3枚でビルドアップをするところから攻撃が始まる。後方の変化に応じ、SBは大外で高い位置を取り、WGの二人が内側に絞る、もしくは外側からドリブルでカットインしゴールに近づいていく。3-1-1-3のような形だ。これは前節シェフィールド戦でも行っていた可変で、これに対しブライトンは左右のサイドにそれぞれ対応策を用意していた。

右サイド(ブライトン視点)

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引用元: sofascore

プレーエリアを表すヒートマップが示すように、ユナイテッドはラシュフォードがいるサイドからゴールに向かうことが多かった。その際以下のような構図になった。

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まずは前線の誘導から。2トップは相手の右足側から寄せボールをマティッチに誘導。それと同時に右SHランプティーが出てビルドアップ隊に対し同数でプレッシャーをかける。こうして相手を追い込み全体が右サイドにスライドするが、ここで普段ボランチで起用されるビスマがSHとしてこの日抜擢された理由が明らかになる。ボール奪取に定評のあるビスマは同サイドのCMポグバに対しマンマークでつくことによりプレーを制限。ポグバ経由でのサイドチェンジを難しくさせた。

前線3枚とスライドに伴うビスマの働きにより右サイドに追い込んだブライトン。ショーにボールが出るやすぐさまモントーヤが寄せ、奪いにかかる。同時に中の選手にはボランチがマンマークでつくという決め事があったブライトン。しかしラシュフォードのポジショニングがそれを難しくさせる。彼は自らCBのダフィに近づき、そこからボールを受けに動く。このことによりダフィがそのままついていくか、約束通りスティーブンズがついていくかの二択が強いられ、結果的にフリーで受けさせてしまうシーンが多かった。

さらにラシュフォードはボールが深い位置にある際にはサイドに開きショーのインナーラップを活かすパスを出す。実際にこのプレーによってショーからクロスが入り、逆サイドに流れたところからブルーノ・フェルナンデスがミドルを放ち2点目のゴールが生まれた。

左サイド(ブライトン視点)

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ボールが右にある際はポグバのマークに徹するビスマだが、自分のサイドにある際はワンビサカとの決闘に集中する。縦への強さがあるワンビサカは30mゾーンに入る位のかなり高い位置を取るが、それでも、SBのような位置になってでも、ビスマはついていく。執念。

また逆サイドとの比較になるが、ラシュフォードに比べてグリーンウッドの立ち位置が素直だったためプレパーが捕まえられている時間が長かった。長かった、というのもユナイテッドの先制シーンは例外。マグワイアーが彼の周辺までドリブルしボールを運ぶと、プレパーの目線がそちらに集中してしまう。こうして視野外に消えたグリーンウッドはパスを受け、プレパーと入れ替わりカットイン。左足を振りぬいてゴールを奪った。とはいえ繰り返すが、このシーンを除けば比較的左サイドの守備は安定していた。

ブライトンポジトラ/ユナイテッドネガトラ

失点シーンのリンデロフの駆け上がりに象徴されたように、ユナイテッドは前半はある程度リスクとって攻撃をしていた。そのリスクにあたるワンビサカの裏のスペースを見逃すわけがないブライトン。上の図にあるように、左低い位置で奪うとすぐさまそのスペースにコノリーがランニング。バーンら奪った選手がロングボールをそこに蹴りこんだ。しかし対するユナイテッドCBをなかなか抜け出すことは出来ず、ブライトンの前半シュート数は2本にとどまった。

後半、0-3になってからはユナイテッドの奪われた直後の寄せの強度も比較的下がり、また攻撃もリスクを取らなくなっていた。それをみてブライトンはボールを自陣で奪うとGKまで戻し、ボール保持をまず確立することを選択。相手のプレッシャーを回避し、ビルドアップのフェーズに入っていく。

ブライトン保持/ユナイテッド非保持

前半は全く落ち着いてボールを持てなかったブライトンだが、後半はユナイテッドが逃げ切りに入ったこと、また攻撃の核であるモペイとトロサールが後半頭に投入されたこともあり、落ち着いてビルドアップから前進できるようになっていた。その際のブライトンの狙いとしてはボールに相手をなるべく引き付け、自陣に引き込み、敵陣にスペースを生むことだった。

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ユナイテッドの前線はバックパスを引き金にマンツーマンでプレッシャーをかける。それを利用し自陣で「ポゼッション」をすることでマティッチとポグバを引き出す。同時にDFラインが上がらないと見るや前線のモペイめがけてボールを蹴り、セカンドボールを内側に絞ったSHが前を向いて回収。ゴールへと向かった。

無観客試合ということで選手監督の声が放送では聞こえてくるが、ロングボールが蹴られると同時におそらくポッター監督だが、必ずと言っていいほど放つ言葉がある。それは "Shrink!" という言葉で、日本語にすると縮めという意味になり、ここでは絞れと訳すことが出来る。このコーチングが全体の配置をボールの落下点近辺に集中させ、またはそうすることを習慣化させ、スペースでのセカンドボール奪取を可能にしている。

ボールを敵陣で保持していたとしても引き付けてリリースするという概念は変わらない。DFラインの前に空間を作り、トロサールやコノリーがミドルを打つシーンが後半には見ることが出来た。試合後インタビューで「後半は得点に値するようなプレーが出来ていた」と監督が語ったが、それを阻止したデヘアの仕事ぶりも見事だった。

ブライトンネガトラ/ユナイテッドポジトラ

ユナイテッドに比べ攻撃時のリスクは最小限にとどめるブライトン。オンプレーでボールを失った際には自陣に撤退し守備のフェーズに移ることがほとんどだった。例外として3失点目の被カウンターがあげられるが、それはセットプレーで前線に人をかけていたところからスタートしていた。

さてロングボールからのセカンド回収の対応もネガトラにあたり、少し前にそのことについて書いたが、ここではまた違った局面でのセカンド回収について書く。それは前半の以下のようなシーン。

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前半の数少ない攻撃のうち、ランプティーが仕掛けてクロスを送るシーンは多かった。その際、クロスの跳ね返りを回収するポグバに対してビスマがあらかじめついておくことでカウンターの芽を摘出。チームによって逆サイドのSHはクロスに対しファーで合わせる役割を持つことが多く、ブライトンも例によってそれを行うことがあるが、この日のビスマはそれよりかはセカンド回収に努めていた。前述のようにこのマンマークはその後の自陣での守備の際にも引き続き行われる。

このように以上の4局面で試合は展開され、0-3という結果でユナイテッドが勝利した。

雑感

目に見える変化が特にない場合、サッカーの基本的な部分の巧拙がより見えてくるというのはこの試合においても当てはまったように感じます。動きの質、ボールプレーの質…

中でも相手を引き付けてリリースすることの大切さについて再確認することができました。文中ではブライトンの選手のそれにしか触れませんでしたが、ユナイテッドの面々も普通にやってましたね。加えて彼らの場合はスペースが生まれてからのパススピードがべらぼうに早かったり、ラシュフォードのように受ける前からボールを受ける目的地のための駆け引きを事前にしてたり。またボールを受ける位置に関してはブルーノ・フェルナンデスも素晴らしかった。俗にいう相手2人、またはそれ以上を1人で困らせる立ち位置。

余談。実は試合が終わってからレビューを書くまで時間がかかったのにも理由がありまして。ていうのも普段のブライトンは相手に対応、または相手を上回るためにシステムや狙いを試合中に何度も変えるチーム。にもかかわらず今節はそのような変化が見られなかった。いつもとのベースの違い、例えば守備のところ(いつものような奪いどころを定める守備ではなく、スペースを消すことを第一とした守備っぽかった)に気づくのにはなかなかの時間を要しました。固定概念怖いね、頭固いねって話です。


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