サイキックシティをみるひと その1

昨日こんな事件が発生し、昨日のnoteでも触れましたが界隈はえらいこっちゃとなっています。誰もかれも「やったー!」ではなく「正気か?」というリアクションなのが、このゲームの立ち位置がどこにあるのかを考えさせられますね……。

さて、本件において僕が何か新規ユーザーの方に出来ることはないかなと思い考えたのですが、星をみるひとそのものの概要は他所でいくらでもあるので、おそらくほとんどの方は名前しか知らないであろう【サイキックシティ】についてのお話を何回かに分けてお届けしたいと思います。
個人的な雑感は最後に回すとして、最初はその概要に触れていきます。
なお本記事はサイキックシティおよび星をみるひとに関する重要なネタバレを含んだ記事となります。プレイを楽しんでいるないし楽しみにしている方はこの先を読むことをはどうかお控えください……。




僕はラップ人での専門家でも何でもない。だが、ひょんなことから知ることになった、驚くべきラップ人の話をぜひここに記しておこうと思う。

第三次世界大戦とそれに引き続き起こった対ラップ戦争。そのため、世界は荒廃し、人々の心は荒んでいた。超能力を持ち、すべての面で人類より優れた新種族ラップ。
彼らに対し、僕たちが恐怖と憎しみを抱いたのも当然と言えば当然だろう。そしてそれを煽り立てるかのように、ラップに関する様々なうわさが飛び交った。
人類に追い詰められたラップ人が一斉に姿を消してから数か月後のある日。僕は公園で銃撃戦に巻き込まれた。そして方に鈍い衝撃を覚えたかと思うと、それっきり気を失ってしまった。
再び意識を取り戻したのは見知らぬ部屋。そしてそこには見知らぬ男たちが居た。
「怪我が治るまでここにると良い。」
一人の男の声が頭にダイレクトに響いた。なんと、僕はラップ人に命を助けられたのだ!
こうして、僕はラップ人と暫くの間一緒に暮らすことになった。
それは、わずか10日間にしか過ぎなかった。が、次第に打ち解けるにしたがって、彼らは次のような事を話してくれたのだ。

超能力種族「ラップ人」の出現が始まったのはかなり古く、分かっているだけでも、今から約9400年前にさかのぼる。
その発生状況は世界各地に散っており、集団で暮らした形跡はないらしい。そこから、当時は人類の中から個別に発生し、人類に混ざって単独で生活していたと考えられている。
子供が未成熟のまま生まれてくれるという特徴も、すでにこの頃に認められるそうだ。

時代が下がるにつれて数を増したラップ人は、次第に自分たちが全く新しい生物であることに気付き、ひそかに連絡を取り始めるようになる。
しかし、超能力を持っていることを、人類に対してはひた隠しにした。
奇形で生まれ、異常な力があるとなれば、人間のそれに対する反応は明らかだったからである。
中世の魔女狩りなどは、超能力を知られたラップ人が「異端者」として処刑された例なのだ。

21世紀初め、第3次世界大戦が勃発。
ラップ人は集団で避難するなどしたが、やはり多くの犠牲者を出した。
戦後、新種族ラップの存在を人類が知り、あの「対ラップ戦争」が始まった。
「大戦後の遺体回収作業で、人類とは異なる我々の死体が見つかり、我々の事が分かってしまったのだ。」
1VS1では勝るラップ人も圧倒的な人数差に押され、追い詰められていった。このままでは危ない。

種族滅亡の危機を感じたラップ人は地上からの大移動を決意し、ある日、一斉に姿を消した。
「しかし、この計画には、あまりにも時間がなさ過ぎた。世界各地に移動計画に加われなかった私たちのようなラップ人が、移住先が分からず取り残されてしまったのだ。上手くコンタクトが取れずにね。」
「だが、それも間もなく明らかになる。テレパシーにより、ニューヨークに行き先を知るラップ人が居る事が分かったんだ。」
「私たちはこれからすぐ出発する。その前に君を送り届けてあげよう。では、ごきげんよう。さようなら。」

部屋の景色がゆらりと消えると、僕は10日前のあの公園にひとり立っていた。
(ゲーム本編テキストより一部校正のうえで抜粋)

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1984年11月3日、富士通FM-7及びNECPC-8801にて発売されたパソコン用ゲーム。媒体は5インチフロッピーかカセットテープの選択式でした。
第三次世界大戦により荒廃し、要塞と化したニューヨークマンハッタンで繰り広げられる、超能力者ラップ人たちの逃避行を追体験するゲームがこのサイキックシティです。
まだRPGという概念が日本に根付いておらず、しかし【ザ・ブラックオニキス】を筆頭に【ハイドライド】【ドラゴンスレイヤー】などの国産RPG黎明期の傑作が出そろいつつあった時期にサイキックシティは誕生しました。

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プレイヤーは冒険開始前に、分身となるキャラクターを作成するところから始まります。能力値を好みで設定する手法はもともとTRPG(テーブルトークRPG)で主流だったやり方で、当時のRPGはそれの延長線上の認識が強かったため一般的でした。
キャラクターは五つの超能力を秘めており、「サイコキネシス」「シールド」「テレパシー」「ジャンプ」「ルック」の中で「シールド」以外はそれぞれ戦闘以外で使用が可能です。

画像3

ゲーム本編は、その辺をうろうろしながら敵だか味方だか分からない市民たちへテレパシーを飛ばして情報を集めたり同志を探しつつ、迷路と化したマンハッタンを進んで仲間のラップ人のもとへたどり着くのが目的です。
物語は市民からのセリフや各地のコンピュータに記録された情報から推察するのみで、誰かが主導で物語を引っ張るようなことはほとんどありません。にもかかわらず当時から「ストーリーは面白い(が、ゲーム性が散々)」という評価を得ていたのは、SFならではの設定から物語を想像させる土壌が当時の表現に乏しいRPGとの相性が良かったからだと言えます。
要はプレイヤーがゲームを通して物語を頭の中で描いていたのであり、ゲーム自体には物語を想像させる材料を提供していたわけです。ここは後の【星をみるひと】でも同様です。


そしてサイキックシティが面白いのは、それだけ限られた情報の中で物語の核心へのミスリードがこもっているところです
このゲームに散らばる断片的な情報を集めると「ラップ人はマンハッタンから姿を消しつつあり、皆は宇宙へ逃げたと見られている」という筋書きが組み上がり、マップ右に軍事基地の滑走路(多分)があるため必然的にこの周辺の探索が後半のメインとなります。
しかし答えは滑走路付近ではありますが、地下を経由して通れる軍事基地に秘密があり、そこに残された頭脳にテレパシーを試みる事で、ようやく「ラップ人が宇宙へ上がった話は意図的に流したデマで、本当は地下深くに潜伏している」ということが判明します。
ここでエンディングを迎えるわけですが、限られた情報量で制作側の意図によってミスリードを起こし、物語に意外性を無理なく組み込めたのは今の目で見ても称賛に価すると思います。このゲームを遊びきったプレイヤーはほんの一握りだと思いますが、その方々が「ストーリーは面白い」と感想を残しているのは、こうした仕掛けが盛り込まれていたからだと考えられます。
この多くを語らない中でのどんでん返しは星をみるひとでも採用されており、プレイヤーが冒険している世界が実はスペースコロニーの中で、一歩踏み出すと宇宙空間が広がっていてコロニーが移住先を探して飛び続けているという状況が分かるのは、ゲーム終盤になってからでした。

一方でゲームの出来としては当時から厳しい目で見られていたようです。
まだカセットテープがゲームソフトの主流だった当時はゲームの処理速度は遅いものである認識が強く、メーカーによる努力でいかに高速にゲームが進行するかがゲームの評価の一つだった時代でした。
しかしサイキックシティにとどまらず当時のホット・ビィのゲームは主流になっていた【ハイドライド】や【ドラゴンスレイヤー】と比較しても遅く、「途中でセーブしてゲームに戻る」という動作だけでも三分近くもかかり(カセットテープへデータを記録する時間はカウントしない)お世辞にも快適に遊べるスピードではありませんでした。
どのくらい遅いのかは後述の下記の動画を参照。無音動画なのでお好みのBGMとセットでお楽しみください……。


もう一つはゲームの目的が曖昧であり、道中のヒントも皆無である点もゲームの評価に影響を及ぼしています。
逃避行という筋書きの都合上具体的に目指すポイントが見えてこず、文字通りマンハッタンをさまようことになります。プレイヤーは総当たりで探索せざるを得ないものの、前途の遅さがここで足を引っ張り、探索するだけでも相当な時間を要求され、時間をかけても何の成果も得られない…という状況が何日も続くプレイヤーも少なくなかったことでしょう(僕はそうでした)。やっとの思いで得た情報も進行上では特に意味のない与太話だったりもして、費やした数時間を棒に振る事も少なくありません。


ゲームの遅さは「シナリオを大切にしたかったから」だそうで、そのような意図がなかったとは言えませんが、同時期の【西部の成りあがり】も動作が遅かったことから技術不足の産物であったと考えられます。
また、ヒントが皆無なのはこの頃のゲームでの難易度の上げ方でしばしば使われていた手法ですが、それにしても最初からヒントを出さないのは行きすぎな感が否めません。徹底的にユーザーフレンドリーさを排除したゲーム性は、当時の風潮であった「ゲームはメーカーからプレイヤーへの挑戦状」という考えが極端な形で具現化してしまったと言えます。
こうした特徴は多少形を変えつつも後のカレイドスコープや星をみるひとにまるっと受け継がれてしまうのでした。

次回は実際のプレイ模様に乗せたゲームの流れを解説していきます。なるべく早いうちに更新したい……。

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