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おばあちゃんの編み物

小学生の頃、欲しいものは無尽蔵にあった。

遅く帰宅する両親とはすれ違いの生活で、日中の家での時間のほとんどを祖父母に見てもらって育った。

承認を得ねばならないこと、必要なものは親に言わねばならなかったが、『平日はいつもイライラしていて夜だけ一緒にいなければならない、休日だけバカに機嫌よくお出かけに連れて行く母親とゆー大きなヒト』となかなか関係がうまく保てなかった。

ついつい連絡しそびれ、機嫌を損ねた大きなヒトに『おばあちゃんみたいなあんたなんかいらないっ!』と大きなヒトが受けた損害に加えて決まり文句で叱責された。

そんなもんだから、日常の細々した事はおじいちゃんおばあちゃんに解決してもらっていた。


おばあちゃんはおっとりしていて、子供のする事に淡々と対処できる頼りになる姉御肌の人だった。

冬に「マフラーがほしい」とおばあちゃんに言った。

器用で早いもので、次の日に手編みのマフラーをくれた。うれしくて、すぐに学校に巻いていった。ちょっとチクチクしたけれど、学校でもおばあちゃんが守ってくれているみたいだった。

クラスメートの反応は「手編みなんてだせぇ!」

すぐに外してしまった。ランドセルに入れて帰った。

家で大きなヒトと眠る時のふとんに、そっとしまった。

どうせ大きなヒトは部屋を豆電球で眩しくして、夜に眠らせてくれないのだから。苦しくて苦しくて洗面所に行く時に巻こう。


夜になって眠るとき、いつものように「9時になって寝ない子にはお灸をするぞ!」と脅されて布団に入った。

大きなヒトがおばあちゃんのマフラーを見つけて、「このご機嫌取り!」と指差す。取り上げはしないが嫌そうにマフラーを扱う。私にもお父さんにも同じようにおばあちゃんを嫌がれと同調圧力をかけていた。

大きなヒトが機嫌を悪くしたので巻けなくなったが、とびきり大事な思いで箪笥の中にしまった。

おばあちゃん、ごめんね、ごめんねー・・


他に靴下や帽子ももらったが、同じような経緯でしまっていたように思う。


しょっぱい。

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