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2020/7/4(うたの日366)

どのような夏であろうと狂わない輪切りのレモンをコンパスで描く/岩倉曰
(2019/5/16「檸檬」)

上の句がめっちゃかっこいい。「夏」と「レモン」が持つイメージを上手く利用している歌だと思う。一読したときはなんとなく、レモンを半分に切った断面を描いているのかとも思ったのだけども、一枚ずつ描いているようにも読んだ方が面白いように思った。というのも、主体がどうしてコンパスを使ってレモンを描いているのか解らない。解らない方が詩があって、状況を無理に推測しなくて良いだろうけれど、そんななかで、執拗に同じ直径のレモンスライスを延々と描いている主体の息を詰めた感じがいいな、と感じた。自分は絶対に「狂わない」ぞ、と考えている雰囲気もあり、でもそう考えながらずっとレモンの輪切りを描いている主体の方がおかしいのかもしれない。「夏」とは本来、ひとをおかしくさせるものであるので。
「狂わない」は三句目で切れるようにも「輪切りのレモン」にもかかっているようにも読ませていて上手い。「狂わない」も精密さとひとの神経の両方を暗示させる語で、幅広くイメージさせることに成功している。…「夏」や「レモン」は青春みたいなものを想像させて、主体はそれを人生のなかの一時的なバグと考えているような気がした。嫌悪しているのか、自分には無理と考えているか…でも、嫌悪してたらレモンなど描かなくて良いはずであるし、きっとあこがれとあきらめが合わさった気持ちなのかもしれない。

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